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100年農家の有機干しいも〈大塚ファーム/北海道新篠津村〉

今月の特集はさつまいもです。

「北海道でさつまいも?」と、思うかもしれません。
たしかにさつまいもは温暖な地域の作物というのが「常識」です。
その常識の壁に立ち向かう生産者がいます。
新篠津村で百有余年続く大塚ファームの4代目・大塚裕樹さんと妻の早苗さんです。
大塚さんは言います。
「4代目だからこそやんなくちゃいけないことがある」。

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大塚裕樹さん(手前左)と早苗さん (手前右)が手にしているのは“白い”さつまいも「玉豊(たまゆたか)」

「子どもたちに 安全なおやつを食べさせたいなって」

いも掘りといえば北海道ではじゃがいも、道外ではさつまいもが定番です。「北海道でもさつまいものいも掘りができないかな?」。さかのぼること十数年前、大塚さんがさつまいもの栽培にチャレンジしたのはそんな思いつきからでした。自宅用の小さな畑に試しに植えてみたところ、意外にも大きく育ち、甘みも十分。そこで妻の早苗さんがまだ小さかった子どもたちのために干しいもを作ったところ、「買ってくる干しいもよりおいしい」と喜ばれました。

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これをビジネスの種(シーズ)ととらえたのは早苗さんでした。「北海道産」の「有機」干しいもは世の中になく、商品化すれば圧倒的な差別化ができるはず。なにより加工品が軌道に乗れば、冬も安定的に仕事を回すことができ、従業員の通年雇用が可能になります。大塚ファームはそれ以前から有機野菜を練り込んだプリンなどの加工品開発に取り組んでいましたが、09年に干しいもにも本格的に乗り出しました。

 ところが、大量生産となると事情が違いました。思うように甘みが出ない、乾燥しすぎて硬くなる、揚げ句の果てには寒さのせいで大量のいもを腐らせてしまいました。「本当に手探りだった」と振り返ります。

栽培面でも苦労しました。「最初は気候にも恵まれてビギナーズラックだった」という大塚さん。面積を拡大した途端に低温に悩まされ、長雨に頭を抱え、うまくいかないことの連続でした。「北海道は春が遅く、夏が短いので生育期間も限られます。さつまいもの栽培条件としては日本一難しいんじゃないかな。始めて10年たつけれど、良いときもあれば思い通りいかないこともあります。でも諦めたらそこで終わり。前に進むしかないと思っています」。

営業でも壁にぶつかりました。加工品は野菜とは売先が異なります。委託販売ではなく、きちんと安定的に買ってくれる取引先の開拓が必要でした。農場の仕事で手いっぱいの大塚さんに代わってそれを担ったのは、かつて輸入車のディーラーに勤めていた早苗さんです。「私は販売の経験があるので企業に対してどうアプローチしたらいいのか、やり方は分かっていました。なので、商談会に顔を出したり、営業に回るのは自ずと私の仕事になりました」。3人の男の子を育てながらの仕事はたいへんでしたが、子育ての合間を見て深夜にパソコン作業をするなど、なんとか時間をやりくりしながら販路を拡大しました。

大塚ファームの「有機ほし甘いも」は「北海道」や「有機」といったうたい文句もさることながら、噛むほどに広がる甘みやしっとりとした食感が評判を呼び、ヒット商品に成長します。当初は品種も干しいも専用の玉豊が主体でしたが、紅はるかや安納芋など、徐々に栽培品種を増やして商品の幅を広げていきました。「作る側の都合でいえば品種は一つに絞った方が楽ですよ。栽培管理も製造方法もシンプルだから」と大塚さんは前置きした上で「でも選ぶのはお客さんだからね。いろんな甘みがある、いろんな食感がある、その方が楽しいでしょ」と話します。

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収穫後、さつまいものカゴをラップでくるみ、糖化を促す

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品種や大きさでふかし時間が変わるので経験がカナメ

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特殊な鎌を使って、一つひとつ丁寧に皮をむく

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特製スライサーでいもをつぶさないようにカット

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絶妙な干し加減でしっとりとした食感に仕上げる

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一昼夜かけてようやく干しいもが完成
大塚ファームの干しいもができるまで
10月〜11月に収穫したさつまいもは、そのままでは甘さが足りないので湿度80%、温度10℃前後の環境で1カ月ほどかけて糖化させます(写真1)。寒すぎると「いもが風邪をひく(腐る)」ので温度管理には注意が必要です。

原料に甘さがのったら、いよいよ加工です。洗浄したいもを皮付きのまま蒸し器でふかし(写真2)、熱々の状態で皮をむきます(写真3)。ピアノ線を張った特製のスライサーにかけて(写真4)、乾燥機で一昼夜干したら完成です(写真5)。乾燥以外の工程はほとんどが手作業。女性パートさんと外国人実習生が、息の合った仕事ぶりで毎日約400kgの原料を加工します。

「農業をさせてもらって100年。今度はお返しする番かな」

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干しいもにとどまらず、大塚さんの歩みはチャレンジの連続でした。先祖代々の水田を引き継ぎながら、就農当初より野菜づくりに挑み、当初30aだった畑は27年たった今では9haあまりに。栽培品目も2品目(大根・レタス)から30品目を栽培するまでに拡大しました。有機野菜の生産・販売の傍ら、飲食店の生ごみを活用した循環型農業や障がい者の仕事づくり、畑を舞台にした消費者交流などにも積極的に取り組んできました。干しいもに代表される加工事業は冬場の雇用を支え、現在は正社員、パート、実習生を合わせて総勢20名を超えるチームに成長しています。「大塚ファームは2013年に入植100年を迎えました。僕らがいろいろなことにチャレンジできるのは1代目、2代目じゃなく、4代目だからです。先祖から引き継いだ土地がある、基盤がある。もしかしたらそんなに無理しなくても食べていけるかもしれません。でもさ。ここで100年も農業をさせてもらっている。今度はお返しする番なんじゃないかな。僕らはチャレンジできる分、地球環境を考えた新しい農業を模索したり、うちの奥さんみたいに女性が前面に出て営業したり、地域課題に対応した雇用のあり方を考えたり。農業を通して社会に貢献するのが、あるべき姿なんだろうと思うんです」と大塚さんは語ります。

挑み続ける4代目夫婦が手がけた干しいも。現在は6品種・7アイテムを製造していますが、じつは新しい品種も準備中とか。「今よりもずっと早く出荷するハロウィーン向けの商品なんです」と大塚さん。チャレンジはこれからも続きます。

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大塚ファームの「ほし甘いも」は11月下旬より順次販売スタート。

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干しいも開発当時まだ小さかった三人の息子さんは成長し、それぞれ高校生、中学生になりました。「農業を継いでほしいと、昔から言い続けています。『一人じゃ、何か起きたときに困る。二人だったらケンカするだろう。だから三人でやりなさい』って」。先日、農業高校に通う長男・悠生(ゆうき)さんの論文作品が「第4回高校生が描く『明日の農業コンテスト』」で全国1位となる最優秀賞を受賞。5代目のチャレンジも既に始まっています。

大塚ファームの「ほし甘いも」は11月第4週・12月第2週の宅配システムトドックでご案内いたします。

取材・文・編集/長谷川圭介
撮影/細野美智恵
デザイン/佐孝優

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