デザイン会社ディレクター視点の選書について(その2)

ひとつ前の記事では、企業における「選書本棚」の用途について、デザイン会社ディレクターの視点からお伝えしました。
本日の記事では特に、対外的な広報の役割を担う選書の意義について考えてみたいと思います。昨今、ミッション・バリュー・スタイル・ビジョン等々、その企業の理念を一行に凝縮したコピーを、コーポレートサイトのファーストビューに入れているのをよく見ます。企業が社会に対して果たすべき姿勢・役割・意義などを簡潔に伝えるために、一番目に入るところに置いておくものです。

このような企業の旗印となるようなコピーを軸に、その会社は事業を行い、日々の社員の行動も、ミッションやビジョンに沿うようなものが望まれる訳です。いわば、企業の「背骨」とも言える大切な言葉です。理念なくしては成功はないと言っても過言ではないでしょう。ミッションなどの言葉は、事業領域が限定されるものではなく、あえて広範囲な領域をカバーできるような、大きな視点から見た意味のものが多いです。自分たちが行う事業が最終的に何のためになるのかを見失わないようにするために、非常に慎重に、かつ深くディスカッションを重ねて言葉を決める企業も少なくありません。

「これが我が社のミッションだ!」と決まったら、次は社員一人ひとりが言葉の意味を正しい意味で理解し、行動に落とし込まれなければいけません。解釈の幅があまりに多様にならないようにコントロールされているところも、このようなミッションの言葉のポイントでもあります。しかし、この「解釈の幅」というところに、企業が向かうべき方向に進むスピードを左右するような鍵が隠されていると考えます。そこで、選書本棚が持つ役割というのは、この「解釈の幅」に対して、正しく拡げるものであり、時には寄り道をもたらし、その拡大されたアイデアや寄り道が、企業全体に対して影響力を持つものと言えます。ミッションを軸とした「背骨」の周りに付随する細かな骨や神経が、選書本棚の中にあるさまざまな種類の本たちによって活性化されるようなイメージでしょうか。その本棚には、ヒアリングされた目的に応じて、多種多様なジャンルから構成された本が並びます。一見事業には関係のないように見えるジャンルでも、その本が選ばれた背景や書かれている文章によって、全ての本が互いに関係し合うことになります。その関係の数のパターンは、もはや数え切れないほど存在します。読む社員の心境や態度によっても異なりますし、企業のミッション内容によっても様変わりします。まるで生き物を育てているような感覚です。「背骨」に影響を与え続ける本の集合体は、ブックディレクターの職能によって一冊ずつ選ばれます。

ミッションなどの言葉に始まる企業広報は、見た目だけではなく中身からその本質を問われる時代になっているのです。ミッションを決めて、掲げるところがゴールではないのです。スタート地点に立った時に、どんな方法を用いて行動を加速させるのか。もしくはあえてスローダウンさせてみるのも良いでしょう。企業広報における選書本棚の役割について、まだ続けていきたいと思います。

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