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シノヅカヨーコ
2015年10月3日 06:21
すっかり酔いがまわって、頬があつい。血液が皮ふの外にじゅわっと染み出ているような気さえする。ふうっと吐いた白い息は、アルコールが濃縮されたようなにおいがした。「ねぇ、恋愛と結婚って別だと思う?」午前中のうちに待ち合わせて、まずは蕎麦屋にはいった。勧められるがままに日本酒をすすり、鴨をつつく。表面の焦げたこうばしい鴨をかじりながら、わたしは彼の指先ばかり見つめていた。長く、細く、まっ白な指先
2015年6月24日 05:07
※とあるバンドの楽曲を基にした二次創作です。Ⅰあの森に入ったら最後、二度と戻ってくることはできないだろう――村のはずれにある森は、迷いの森と呼ばれていた。鬱蒼と生い茂った木々たちが木陰をつくり、光の差し込まない真っ暗な森。月明かりの届かない森の夜は暗く、とてもつめたい。森に入るのなら、新月の夜と決めていた。届かないひとすじの光を頼りに歩くぐらいなら、すがるものがないほうがいっそ心強い。一度
2015年6月21日 06:58
「それで、彼氏とはどうなの」「えっ、別に。フツーだよフツー」わたしの目の前に座るこのひとは、名前をコウスケという。ブラックコーヒーが飲めない彼は、たっぷりのミルクと、砂糖をふたつ。片手で持つのがこわいから、とコーヒーカップには左手を添える。熱い飲み物を飲むと、まばたきの数が増える。笑ったときにのぞく八重歯がコンプレックスで、大きな口を開くときは口元に手の甲をあてがう、その癖。こうし