そこに感動を見つけた。〜ビチェリン〜
食事というものに、しっかり感動しているだろうか。
食べることは生きる為に必要なことであり、抗えない三大欲求のひとつ。
日常にかかせないものだ。
当たり前のことを常に感動するのは案外と難しいもので。
時には自分から、意識して「ご飯美味しい、ご飯ありがとう」って思うことも大事なことだ。しかしそれは果たして本当に心が動いて発せられる感謝であろうか。
だからこそ時に、強制的に感動せずにはいられない食に出会うことも必要なのかもしれない。
GINZA SIXには銀座に行くと必ず立ち寄るので結構な頻度で行くのだが、その中でずっと気になりつつも行く機会を逃していたお店があった。
銀座に行くとカフェ巡りの選択肢が多いからな。
期間限定メニューがあるお店を優先して、いつでも行ける店はどうしても後回しになっていたのだと思う。
Bicerin ビチェリン
緑が基調の、席にキティちゃんのぬいぐるみが置いてあるのが可愛らしいお店。
夕方頃、もうひとつ、どこかのカフェに寄りたいなと思っていた折に通って。いつもはあんなに悩んでそのまま通り過ぎていたのに、その日はあまり悩まずに、メニューも特に見ることなく、入った。
そういうタイミングってあるものなのかもしれない。
わぁ~いつもは外側から眺めていた店内を、店内から外側を見ることができる。ちょっと感動。
結論から言えば、後悔した。
なんで、どうしてもっと早くこのお店に来なかったんだ!!!
とんでもなく美味しかった。
接客も非常に丁寧。
凄く、とても良い時間を過ごすことができた。
なんか、デスクに置いてあるやつから可愛いよ…お洒落だよ……。
ビチェリンは、イタリア・トリノ最古の老舗カフェ。
情報としては知っていた。
けれど店内にいる短い間にも、前を通るお客さんが「ここ、トリノに行った時にチョコレートドリンク飲んだお店よ~」と言っているご婦人がいて、うわマジなやつだ…と改めて知った。
さて、ドリンク。
おや珍しい。メニューのトップに書いてあるやつが一番お手頃価格なブレンドであることが多いのに、それが一番お高い。
お店の名を冠した「ビチェリン」。
そしてこれだけ、写真や詳しい説明が載っている。
明らかに推しじゃないか。
この説明文がまた、なかなか強烈だ。
”18世紀イタリア・トリノ最古の老舗カフェ「Bicerin」発祥のチョコレートドリンク。エスプレッソ、チョコレート、生クリームの三層が織りなす濃厚な味わいです。イタリア初代首相カブール、哲学者ニーチェが愛し、「三銃士」「モンテクリスト伯」の著者アレクサンドル・デュマ・ペールが賞賛しました。また文豪ヘミングウェイにより「世界で残すべき100の物」の一つに選ばれたとも言われております。またイタリア王国最後の国王ウンベルト2世は、ポルトガルに亡命する前に「Bicerin」を訪れました。その際の感謝状が今もトリノ本店に残っております。創業より250年以上、世界中のセレブリティに愛され続けるチョコレートドリンク「ビチェリン」の味を、是非お楽しみください。”(メニュー表記載文より)
普通のお店がシレッと書けることではない。
ここまで推されたら、これにするしかないじゃないか。
「かき混ぜるのではなく、グラスをそのまま傾けて、エスプレッソ、チョコレート、生クリームの3層が混ざり合うのをお楽しみ下さい」というような飲み方のご指南を頂戴したので、その通りに…。
グラスに触れると、温かい!!!
透明グラスが熱々だと、ちょっと驚く。
そういえばホットとかアイスとか、全然気にしてなかった。
この熱さでどうして生クリームが生クリームでいられるのか分からないけれど、兎にも角にも飲んでみよう。
サラリと気持ちの良い滑らかさのクリームに唇を添えて、グラスを傾ける。
おっ…おおお???
チョコレートとエスプレッソが、そして生クリームが。
それぞれに、ではない。
1つの単色の液体としてジワリとした熱を持って流れ込んでくる。
こういうドリンクってさ、甘いクリームの奥から苦いエスプレッソが流れ込んできて、甘さと苦味が混ざり合って...みたいな感じじゃん?
そういう次元じゃない。
3層?え、1層じゃない???
エスプレッソの苦味??どこにある。
チョコレートと生クリームの甘さ??あれ?どこにあるんだ。
分からない。
単体で甘いとか苦いとかじゃなくて。
エスプレッソ色とチョコレート色と生クリーム色を1点にまとめて塗り潰して、完全に新しい色を、味を生み出している。
それはただ、「美味しい」という一言に集約される。
ナニコレ、えっ、こんな美味しいドリンクってある???
1人で滅茶苦茶、泣きそうになった。
感動で心が動くって、こういうことだ。
私は確かに、カフェ巡りが、美味しいスイーツが好きだ。
でも時々不安になるよ。
それらが好きってキャラを演じているだけで、ちゃんとそこに好きの気持ちはあるのかな、なんて。
でも、そう。こういう感動だよ。
いつか、忘れてしまいそうになった心の動かし方。
一番身近にあるはずの「食べること」がそれを当たり前のように思い出させてくれた。
だから、やっぱり好きなんだなあ。
そうやってこの「ビチェリン」というチョコレートドリンクは、多くの人を魅了し、感動させ、時には誰かの心を励まし救ってきたのかもしれない。
それだけの力がある。
美味しい。
あまりの感動に、思わずドリンクの方に熱を注いで書いてしまったけれど、合わせて注文したスイーツもまた、感動の素晴らしさだった。
本日のドルチェより、フォンダンショコラ。
アフォガートやバニラアイスのチョコソースがけなんかもあって迷っていたから、添えられたアイスの存在が嬉しい。
そして、フォンダンショコラも熱々状態での提供。
だからこそ、アイスが別添えに器に入っているの嬉しい。
溶けてベチャベチャになるの、わりと悲しいのよね。
フォンダンショコラにフォークを入れる。
この瞬間が好きだ。
切った瞬間、フワリと煙が立つ。
本当に熱々の証拠な煙。生地の表面が、ジュワジュワと揺れている。
フワッとシュワっと、空気をいっぱいに含んだように軽く、大きく膨らんだ生地。口の中でそれを押し潰す程に、いっぱいに染み渡ったチョコがジュワリと広がる。
それは甘い、というよりも濃く深い、ビターなチョコレート。
フォンダンショコラは大好きで、選択肢にあるものならばぜひ選択したいものだ。外側はしっかり固めでブラウニー的。割るとトロリとチョコソースが溢れ出て――、みたいなのが理想的な感じがする。
でもそれは、どうなんだろう、日本好みにアレンジされたものなのだろうか。
本場の味を知っているわけじゃないから分からないけれど、なんとなく、Bicerinのフォンダンショコラみたいなのが本場の形なのかな、という気もする。
中の一部が実際にソース状になっているわけではない。
全体がフワフワ。
そうでありながら、口に含むとジュワリと溢れるチョコ感が、とろけるイメージを作り出す。
アイスやベリーソースとの相性も非常に良い。
単体で食べるのとはまた違った味わい。
アイスは真っ白でバニラビーンズなどは入っていないようなのだけれど、それが入っているのでは?という程に味わい深く。
チョコとチョコの隙間にじんわりと広がり柔らかな甘さを楽しませてくれる。
ベリーソースはチョコの味わいを一層引き立てる。
あぁ、良い時間を過ごせた。
お会計の時、店員さんが「お楽しみいただけましたか?」みたいなことを聞いてくれた、と思う。実はコロナ対策の透明カバーがあったりしてよく聞こえなかったのだけれど。
でも、伝えたかったから。
言われたかな?というその言葉に、悩む前に「凄く美味しかったです!!」という言葉が出てきた。
伝わっただろうか。
本当に、泣ける程に感動したことは最近ありますか?
本当は身近にあって、それに気が付けていないだけかもしれない。だから、今ある日常に意識を向けることも大切だ。
でも1歩外に出てみたら、案外すぐに見つかるかもしれない。感動ってやつは思いがけない色んなところに潜んでいるものだから。
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