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映画「ドライブ・マイ・カー」を観て

昨日宣言していたとおり、「ドライブ・マイ・カー」を観てきました。

そんなに人は多くないだろうからゆったり作品を味わえるだろうなぁと勝手に思っていたのですが、行ってみるとわりと席が埋まっており驚きました。
(チケットを早々に事前購入していたのもあって入るまでわからなかった)

さすが、アカデミー賞での受賞、カンヌ国際映画祭での脚本賞受賞を果たしただけあるなぁなんて思いながら席につき、始まるのを待ちました。

映画は179分、約3時間という長さで、普段からそんなに映画を観に行かない私にとっては、「トイレ大丈夫かな…集中できるかな…」と不安になる長い作品です。

しかし、いざ作品の上映が始まると、そんなことは杞憂、いつの間にかエンドロールが流れていました。

※ここから多少ネタバレあります。

結論、私は映画「ドライブ・マイ・カー」はたしかに良かった、そう思いました。

しかし、これはあくまで原作とは切り離しての感想。原作は「自己理解、他者理解の話」なのではと結論付けた私ですが、映画に対しては、多少その面もあったにせよ、違うメッセージを受け取りました。それは明確に終盤で主人公が口にしていたからです。

映画の終盤、主人公は、高槻の不祥事により、自身が企画していた演劇の開催をどうするかについて主催者側から判断を求められます。「家福さんがワーニャをやるか、それとも中止にするか、この二択です」と。

戸惑う主人公はその場では決断できず、時間がほしいと主催者側に要求します。すると、2日なら待てます、との返事があり、その場は解散となりました。
自分にはできない、と葛藤する主人公。
だがみんなで作り上げてきたこの舞台を、簡単に諦めることもできません。

苦しくて、どこかに逃げたいと思ったのでしょうか。家福は自身の専属運転手であるみさきに、どこかに車を走らせてほしいとお願いします。
そして最終的に「君は僕を、故郷の上十二滝へ連れて行くことはできるか?」と問います。
広島から高速でギリギリまで車を走らせ、フェリーに乗り、まだ雪の降り積もる北海道は上十二滝町に、二人はたどり着きます。
そして、かつてみさきが住んでいた、今はぺしゃんこに潰れている家の前まできて、二人はそれぞれの対峙するべき死者に思いを馳せるのです。


家福とみさきは思い思いの言葉を口にします。
みさきは自身の母を見殺しにしたこと、家福は自身の妻が他の男と寝ていたことについて、それも妻なのだと受け入れるべきだったということ、それぞれが、それぞれにしてあげるべきだったことを、今はもうやってあげられないということへの後悔の念。
会いたいという想い。

二人は死者に対する想いの部分でリンクしていきます。
そして家福は言います。
「残された者は、それでも生きなければならないんだ」と。

自分の身勝手さも受け入れ、今は亡き愛する人をありのまま受け入れ、そして赦し、生きること。
それが死者に対する自分の償いでもある、ということなのでしょうか。
私達は、どんなに苦しくて、後悔してもしきれないような気持ちを持っていても、命ある限りは希望をもって生きようとしなければならないのだということ。
そして生きようとする気持ちがあれば、それが希望となり、生きる活力そのものになるということ。

私は、映画「ドライブ・マイ・カー」を通してそんなメッセージを受け取りました。

細かいところについてはまだまだ言いたいことはありますが。

さて、ここからは映画の本質の話とはそれますが少し小話でも。
この映画は、原作が収録されている「女のいない男たち」の別の短編のエピソードも盛り込まれています。
すぐにわかるのは「シェエラザード」、そして私は確信は持てないのですが「木野」に関連する場面もたしかありました。(ありましたよね?)

これから観に行こうという方にはぜひ、「女のいない男たち」を読んでから行ってみてほしいなぁなんて思います。
もちろん、読んでいなくても十分面白いでしょう。
でも、今回の私のように、原作ではこんなメッセージを受け取った、映画ではこんなメッセージだったという比較する見方も結構面白いかもなので。
それに、原作とは家福やみさきのキャラは変わらないにせよ、原作ではなかった設定もあるし、物語としても、随分原作とは違います。
いや、随分ではないかも…?
言いづらいなぁ。
まあでも、あっここ違うな、が見つかると面白いですよ。

とはいえ、
原作との違いを楽しむ楽しみ方もあれば
純粋に作品を作品として観る楽しみ方もある
ので、お好きな方を選んで楽しんでもらえたらなと思います。

原作を読んでからがいいとか悪いとか、そんなことは一切ないです。

約3時間という長丁場な映画ですが、本当に綺麗にあっという間に終わるので、ぜひ躊躇わずに観に行ってほしいなと思いました。

私は見返せるようになったら、その時は今よりもっと正確に、この映画のメッセージについて考えてみたいと思っています。

おしまい。

読んでいただき、ありがとうございました。

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