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原田曜平『Z世代』若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?(光文社新書)

 マーケティングアナリストである著者が、「Z世代」について語る。基本は自分と同世代や自分より年長の世代に対して「Z世代のトリセツ」的に話しているし、いかに彼らをマーケティングの対象とするかがこの本の狙いなので、所々上から目線が気になる部分もあった。しかし本質的には若い世代に寄り添い、彼らの社会での居心地を上げようという意図を持っているのだと理解した。
 典型的な世代論だが、概論ではなく、サンプルを分析して、数値的に証明しているので、そこは目的に合致していると思った。コロナの真っ只中で書かれているため、こうした時代の最先端を分析した書が僅か3年で些か古びて見えることは、分かっていたとは言え衝撃だ。
 また、著者が世代論的にまとめていることにも、世代を超えて共有できる価値観があった。Z世代に限らず、その上のゆとり世代や団塊ジュニア世代などが少しずつ開拓していった、環境意識や、他者貢献、性差別の否定、リアル感に基づく共感の重視、コールアウト、などを、私自身を含む昔の新人類(死語)やバブル世代など強い欲望を持ち、かつ、それを満たす努力を重視してきた世代も、少しずつ学んで受け入れていっているのではないか。人間のコアな部分は、成長・発展しているように思えた。
 
 以下は自分用のメモである。

〈「Z世代」については、実は共通した明確な定義はありません。アメリカを中心とした欧米諸国で、おおむね1990年代中盤(または2000年代序盤)以降に生まれた世代を指す言葉として作られ、この数年、広く使われるようになっています。〉P.4
 2020年刊行のこの本現在で、10代前半~25歳くらい。
〈もしあなたがZ世代の親、祖父母、教師、上司、先輩であれば、彼らとの付き合い方や、彼らの操縦法が理解できるようになるかもしれません。〉P.8
 この「操縦法」という視点が結構嫌だったりする。
まとめP.17~18
「団塊世代」1947~51年生 戦後の第一世代、ベビーブーム世代、
             人口最多、学園闘争
「ポパイ・JJ世代」1952~60年生 学園キャンパス、ニュートラ・
                 ハマトラ、DCブランド
「新人類世代」1961~1965年生 女子大生ブーム、ハナコ世代、
               X世代と重なる
「バブル世代」1966~1970年生 ジュリアナ、ワンレン・ボディコン、
               アッシー・メッシ―、シーマ現象
「団塊ジュニア世代」1971~1974年生 隠れバブル世代、就職氷河期世代、
                  ロストジェネレーション、第二次
                  ベビーブーム世代
「ポスト団塊ジュニア世代」1975~1982年生 Y世代(ミレニアル世代)
 (文化的には上の世代に共通)      ファミコン、ジャンプ、
                     カラオケ、アムラー、
                     エヴァンゲリオン
「さとり世代」1987~1995年生 ゆとり世代
「Z世代」1995~2010年生   脱ゆとり世代 1996~
「α世代」2011~2025年生

〈しかし、平成の中期以降、世代論で言うと団塊ジュニア世代やポスト団塊ジュニア世代が30代に差し掛かり始めた2000年代序盤から、長く続く少子化によって若年人口が大幅に減り、それに伴って市場における若者のプレゼンスもかなり縮小し、若者の消費意欲自体も大幅に落ちていたこともあり、多くの企業やメディアにとって若者の存在意義が徐々に薄れていきました。〉P.19
 景気が悪い、就職が困難、非正規雇用の増加、収入が少ない、という若者側からの言い分もあるだろう。先立つものが無ければ消費などできない。
〈戦後、ずっと注目を浴びてきた「消費意欲が旺盛でアクティブな若者」とは真逆の「消費意欲と元気のない若者」の出現ーー。企業のマーケティング担当者は、それまでとは逆の意味で若者に注目し、彼らの対応に頭を悩ませるようになっていきました。つまり、本質的な意味での若者の社会における存在感は減少していったのです。〉P.19
 そして、人口が多く、消費意欲の高い団塊世代へと市場を移して行った、と。ステレオタイプだとは思うが、ぼんやりした状況からはっきりしたステレオタイプを割り出すのが、この著者の仕事だから。
〈「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた「さとり世代」(2013年)や「マイルドヤンキー」(2014年)といった言葉を作り、広め、平成中期以降、広告業界で若者の消費・メディア行動の研究や、若者を対象としたマーケティング活動を行ってきた私としては、多くの業界や企業が、若者を置き去りにしていく姿をずっと苦々しく見てきました。)P.20
 多くの人が、この著者は知らなくてもこの著者の造語は知っているだろう。この著者は造語作成能力が怖ろしく高い。というか何でもネーミングしてしまう。ステレオタイプを割り出すのが得意ということと関連があるのだろう。ある意味、物の本質というか中心を掴むというか。そしてマーケティングの対象として見ていると同時に、それとは矛盾せず若者に寄り添おうという気持ちも多く感じた。
〈平成の高齢化によって生まれた過度な高齢者信奉が、「老後2000万円問題」や「2025年問題」によって一気に崩れ、多くの企業やメディアの視線が、Z世代を中心とした現役世代へ移ってきているのです。〉P.35
 そこで役に立つのがこの著者のマーケティング戦略というところ。
〈人生のステージが上がるたびに、人間関係がリセットされてしまうことが多い「フロー型の人間関係」だった過去と違い、携帯電話登場以降の「ゆとり世代」の時代は「ストック型の人間関係」に大きく変化したのです。〉P.56
 これは全くその通り。またそうした人間関係に対する命名も上手い。
〈「失われた20年」と呼ばれ、バブル崩壊の暗いムードが長引く中、「ゆとり世代」は「第一次就職氷河期」の余韻が残る時代を生き、一部は「第二次就職氷河世代」とも呼ばれました。
 一方、Z世代は、アベノミクス景気や超人手不足の中、超売り手市場で「バブル期超え」や「ダイヤモンドの卵」と呼ばれました(少なくともコロナ禍前までは)。
 このように、「ゆとり世代」とZ世代は、連続した世代でありながら、生きた時代背景が大きく違うことがお分かりいただけたと思います。〉P.60~61
 この二者をそもそも別のものと捉えている年配者がどのぐらいいるかという根本的な問題もある。個人的にはむしろ「ゆとり世代」の方が気になったりする。バブル世代のあおりを受けた感が一番強いのではないだろうか。
〈「チル」とは、元々はアメリカのラッパーたちのスラングで、「chill out」の略です。日本語では「まったりする」という言葉が近いニュアンスだと思います。〉P.64
 Z世代を特徴付ける語。全く知らなかった言葉。
〈彼らの「チル」という感覚を最も象徴しているトレンドアイテムが「シーシャ」です。「シーシャ」とは水タバコのことで、中東発祥と言われています。〉P.66
 これも初耳。
 「ゆとり世代」は「携帯電話第一世代」だが「ガラケー第一世代」であり、「Z世代」は「スマホ第一世代」とされている(P.67)。そのため「ゆとり世代」には「同調圧力」と「防御意識」が、「Z世代」には「同調志向」と「発信意識」が強い、と(P.70)。
〈確かにmixiやフェイスブックは、知り合いを見つけ、つながり、「交流する」ことがメインのSNSですが、ツイッターやインスタはどちらかと言うと「発信する」こと、または発信する人を「見ること」がメインのSNSであり、こうした「発信型のSNS」の普及とともに育ったことがZ世代の「自己承認欲求」や「発信欲求」を高めたのかもしれません。〉P.77
 確かに各SNSの特徴を捉えている。
〈いわゆる「インフルエンサー」として、様々な企業から、その企業の商品をSNSで宣伝するとお金がもらえる。いわゆる「案件」と呼ばれる仕事をしており、(これは「仕事」と言ってもよい)、月に20万円くらい稼いでいるそうです。〉P.86~87
 案件、という言葉の微妙さ。
 著者はZ世代の「一見見えにくい過剰な自意識」を「ミー意識」と名づけている(P87)。ミーイズムという前からあった語とはちょっと使い方が違う。また誉められて育った彼らの「プチ万能感」(P88)にも結構辛口だ。
〈私も日々彼らと接する中で、彼らのプチ万能感になるべくイラっとしないように心を鎮め、繊細な心を傷つけまいと細心の注意を払っています。自分は「バカヤロウ」「死んで来い」などと会社で言われて育ったのですが…。〉P.89
 思わず笑った。特に自分は…のくだり。この著者はポスト団塊ジュニア世代らしい。
〈「スモールライフ」の「ゆとり世代」と「チル&ミー」のZ世代ーーこの二つの違いこそが、この二つの世代の特徴の違いを最も言い表しています。〉P96
 あくまでざっくりした分類だから漏れるものもあるだろう。そして、著者には、「スモールライフ」が意志的なものなのか、仕方が無いからなのかという一文が欲しいところ。
〈Z世代の間ではこの「#(ハッシュタグ)検索」が主流になりつつあり、「ググる(グーグルで検索する)」から「タグる(SNSで#検索をする)」時代になっています。〉P.105
 常に検索している感。
〈「作られて完成」された広告に慣れた上の世代と、「リアルと共感」を求めるZ世代の間に大きな差があることが分かりました。〉P.206
 作為的ということに拒否感があるのだ。
〈非日常に対して消費したいと思わせるーーつまり、ドキドキワクワクした気持ちを触発しないといけないのです。〉P.222
 これはZ世代と関係無く、マーケティングの話。
〈最近アメリカで、Z世代には「コールアウト」と「キャンセルカルチャー」という特徴がある、と言われています。〉P.269
 「コールアウト」は悪いモノは悪いとはっきり言うこと、「キャンセルカルチャー」はコールアウトされたモノが実際に削除され、世の中から姿を消すことらしい。マーケティング担当者からすれば警戒すべきことらしいが、今まで権力を持たなかった側に、SNSを通して権力の一端が渡ったという前向きな面もある。日本でも「コールアウト」はある程度までならあるといいと思う。日本的な物言いとは対極にあるが、匿名性があれば可能かもしれない。ただ、バッシングに陥る危険性ももちろんあるだろうから、何にでも行えるわけではない。
〈「TVタレントより身近な存在のインフルエンサーが共感を呼ぶ時代」と少し前に言われていましたが、Z世代はもっと身近な存在であるインフルエンサー未満を参考にするようになっていることを考えると、「超共感」を求めている時代、と言えるかもしれません。〉P.274
 「インフルエンサー未満」も知らなかった語。「超共感」も。
〈英語の造語でFlawsomeという言葉があります。これは「欠陥があるモノだが素晴らしい」という意味で、Flaw(欠陥)とAwesome(素晴らしい)をくっつけた言葉です。「超共感」を求めるようになっているZ世代は、まさにこのFlawsomeという感覚を持っており、(…)〉P.279
 この後、著者はそれが、あくまで「超共感」できる都合のよい「欠陥」であるべきとも付け加えている。そこがこの著者の真骨頂。

光文社新書 2020.11. 定価(本体920円+税)

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