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『塔』2020年8月号(1)

①充実の一冊。特に河野裕子の特集はやはり『塔』ならではと思う。「肉声」に触れる思いを噛みしめながら読む。
裕子さんの声に触れつつ思い出す 身体を潜らせた言葉が大事 小川和恵

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②背表紙をご覧下さい。左から『短歌』『短歌研究』『塔』各8月号。一番右は永田和宏×河野裕子対談が行われた2001年8月号の『塔』。こんなに薄かったんですね。

心弱き者と自分を思いいしが強者として彼を追い詰めたるか 荒井直子 自分は若い頃同様、感じやすく心弱いという自覚があったが、新人の部下から見ると強圧的だったのかも知れない。自分に対する「見方」は変わっていないのに、自分の「見え方」は変わっていたのだ。苦い歌。共感する。

④永山凌平「誌面時評」〈確かに、当たり前な文化を後世に残すことは難しい。ただ、それを最も実現しやすいのが市井の人々の写真や文章であるのだと思う。〉私が6月号「方舟」に書いた「子供は誰が」に触れていただきました。ありがとうございます!

⑤いしいしんじ「「ここ」に響く三重奏」〈世界。からだ。こころ。輪郭線で隔てられた同心円。それぞれのあいだに「すきま」が黒々と口をひらく。〉河野裕子のエッセイを読んでの文章なのだが、これはもう感想というより、独立した一つの作品となっている。

⑥祐徳美惠子「いのちへの視座」水際なるわたしは薄い影のやう鯉らまつすぐに口あけて来る 河野裕子〈中期の歌集『体力』以降、「鯉」が圧倒的な生命力で「水」となり、「影」となって「薄い影のやう」なわたしに迫って来る。〉鵙と鯉の歌の読みが面白く、もっと読みたいと思った。

⑦吉田典「裸足とトム」〈この考え方は他の実作者になかなか理解されなかったらしい。だが、私自身、作家や芸術家が表現というものについて河野と似たような発言をしているのを耳にしたことがある。〉河野裕子の歌論を巧みにまとめた論。エッセイから書き起こしているので実感がある。

⑧永田和宏×河野裕子対談「歌を作って三十年」 河野 〈いい歌だけを作ろうと考えない。どんどん作ろうって。(・・・)ともかく、たくさん、なるべく作るというような中から見えて来る、膨れてくる、根源ができてくる〉本当に声が聞えて来るようだ。歌作りの根元に触れた発言多数。

2020.8.21.~25.Twitter より編集再掲