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稲垣栄洋『生き物の死にざま』(草思社文庫)

 生き物の生きざま、死にざま。こんな生き物がいたの、という驚きも、こんな生態だったんだという驚きも。何より死にざまがその生き物の生きざまを強く表している。

〈サケが卵を産んだ場所には、不思議とプランクトンが豊富に湧き上がるという。/息絶えたサケたちの死骸は、多くの生き物の餌となる。そして、生き物たちの営みによって分解された有機物が餌となり、プランクトンが発生するのである。このプランクトンが、生まれたばかりのか弱い稚魚たちの最初の餌となる。まさに、親たちが子どもたちに最後に残した贈り物だ。〉親の身体が直接間接に子の餌になるという話はこの本に多く見られた。命の連鎖と言えばそうなのだけど。

〈たとえば、有胎盤類のネコのように、有袋類ではフクロネコが進化した。(…)有胎盤類も有袋類も環境に適応してよく似た進化をしているのである。ちなみに有袋類のカンガルーは、有胎盤類ではシカ、有袋類のコアラは有胎盤類のナマケモノに相当すると考えられている。〉確かに言われてみれば顔が似ている気がする。

〈アンテキヌスのオスは、あまりに交尾ばかりを続けているため、体内の男性ホルモンの濃度が高くなりすぎて、ストレスホルモンもまた急激に増加する。そのため、体内の組織はダメージを受け、生存に必要な免疫系も崩壊してしまうという。〉生きることより、交尾すること、つまり子孫を残すことの方が重要なのだ。何のために生きているのかという問いは意味を成さない。

〈かつて、チョウチンアンコウの死体の調査が行われたとき、チョウチンアンコウの巨大な体についた小さな虫のような生き物が発見された。/不思議なことに、その小さな虫のような生き物の死体は、チョウチンアンコウの体の一部であるかのように一体化していた。この奇妙な生き物は、当初は、寄生虫かとも考えられたが、調査が進むにつれて驚くべきことが明らかとなった。/寄生虫のように体についていた小さな小さな生き物は、あろうことか、チョウチンアンコウのオスだったのである。〉まるで寄生虫のようにメスの体にくっついて生きるオス。自然界ではメスがオスより大きいことが多いが、これは桁外れ。これも子孫を残すためなのだ。

 生物が子孫を残すためだけに生存しているような様子はNHKのTV番組「ダーウィンが来た」でもよく扱われる。特にオスが交尾に特化した存在になっていることも生物界では多いようだ。この作者はそれを何度も「男の中の男」と表現していることに少し引っかかった。

〈ゾウの研究が進むにつれて、ゾウは死を認識しているのではないかと考えられるようになった。仲間のゾウの死を悼むようすが見られるというのである。〉死を認識することは人間だけができることなのか、知能の高い動物の中には、死を認識している動物がいるのではないか。とても興味深いテーマだ。

草思社文庫 2021.12.(単行本は2019) 750円+税

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