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『短歌研究』2022年1月号

鳥追ひて夫すて友すて北海の雪に大鷲翔(と)ぶと写メ来る 馬場あき子 清々しいとも凄まじいとも言える生き方。人間同士の付き合いより鳥の姿を見ることを優先する。行動することでその人の孤独が輝く。大鷲はその人の姿そのものなのだ。

その人と縁を切らないのはもはや 努力不足、ってことになるね・・・・・・」 平出奔 最後のカギ括弧は何かと思ったが、この歌を一首目とする連作のタイトルが「ひととおり、聞いた感じぃ である。つまりタイトルから一首目が台詞として繋がっている。これにはびっくりした。

「ひととおり、聞いた感じぃ 
                       平出奔
その人と縁を切らないのはもはや 努力不足、ってことになるね・・・・・・」

というレイアウトなわけですよ。
今短歌の文体で平出奔が面白い。話し言葉そのまま感を持ちながら定型にうまく収める。字余り感があまり無いのだ。

嫌いとか言葉にせずに こう なって こう なまま 会えちゃうもんですね 平出奔 「こう」の前後は半角空け?半角空けと一字空けは意識して使い分け、話し言葉の呼吸を写してるのではないか。日常会話の曖昧さ。言葉が情報を運んでるのかどうかという疑いが一首の背景にある。

④「いま大切にしたい『言葉』について」林真理子〈いても立ってもいられなくて書いたという情熱と、本当は書きたいのかどうかわからないという冷静さを持っていないと社会派小説は難しいかなと思うんですよね。感情がどんどん先走りしちゃうと小説としての完成度が低くなる(…)〉

桐野夏生〈やむにやまれぬ思いで書くというより、描写を積み上げていく感じ。本当に地層みたいに。〉小説家の書く時の心理を語り、二人に共通点があり面白かった。短歌はもっと創造のスパンが短いと思う。もちろん連作を作る時は長い時間をかけるのだが、比較的感情の占める部分が多いんだと思う。

 小説のように描写を積み上げていくというのとは、やはり力のかけ方が違うんだなあと思った。

⑤再録「最後の講演」春日井建〈三島由紀夫は、伝統のある文芸や芸能についての唯一の批評は、「過去はよかった」ということだ、と言われたのです。(…)過去を思慕することが今を緊張させ、今を動かすのだ、やたら現代を追いかけるものではない、それでは伝統というものの力が衰えてしまう、という話でした。希望は過去にしかないとまで話されました。〉春日井建の最後の講演は、タイで三島由紀夫についてのものだった。心惹かれた部分を引用する。

⑥「最後の講演」春日井建〈三島由紀夫は死のむこうに何を見ていたのでしょう。三島もまた輪廻転生を書きながらその観念を生きたけれど、そのむこうには何も見なかったのではないでしょうか。〉〈私には輪廻転生は言うに及ばず、仏教的な思想は育っていません。(…)私にも此岸しかない。慰藉は現在にしかない。〉この講演をした時、春日井は亡くなる半年前、病いは重かった。どうしても三島がかつて描いたワット・アルン(暁の寺)を見たかったのだという。宗教的思想は無いと言いながら、深い悟りを感じさせる講演の文章だ。読めて良かったと思う。

2022.2.11.~12.Twitterより編集再掲