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『短歌往来』2024年7月号

橋のうへより亀の眠りを見てゐしが眠りつつ亀も老いてゆくらむ  永田和宏 永田和宏と言えば亀。亀も、とあるのは、亀を見ている自分自身の老いを亀に重ねているのだろう。眠りながら老いる、時間が溶けていくような感覚を亀と共有する主体。

足跡を残すというを思うときそれらは線か面か窪みか 永田紅 SNSでの足跡を言っているのだろう。それらの足跡は実体が無い。無い実体を想像する時に線か面か窪みかと実物の足跡になぞらえる。砂についた足跡の窪みとのかけ離れ具合が一首を立体的にしている。

二杯目のコーヒー啜るおそらくは日記つけゐる人の隣りで 染野太朗 最も個人的な記録である日記を、他人の大勢いるカフェで書いているらしい人。日記帳のような具体物からではなく、タブレット等に打っている気配から日記と気づいたと取りたい。その微妙な距離感。

新調の制服を着た娘が運び入れる季節感ありわれの暮らしに 花山周子 大人の都会の生活は季節感が薄い。あまり外出しなければ特に。新調の制服には新しく始まる春の気配が濃厚にある。娘が扉を開けてそれを運び入れて来たのだ。「運び入れる」という語に惹かれた。

⑤「新自然を詠む・撮る・描く」に16首と絵1枚、写真6枚を寄稿しています。タイトルは「造幣局 桜の通り抜け」です。お読みいただければ幸いです。

2024.6.30. Twitterより編集再掲

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