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『ファシズムの教室』─なぜ集団は暴走するのか 田野大輔(大月書店)

    ファシズムはナチスだけのことではない。人は誰も状況によってはファシズムに陥る可能性がある。大学の授業でそれを「実験」してみた結果がこの本だ。

〈権力者の号令のもと「悪辣な敵」に義憤をぶつけるとき、人びとは正義の側に立ちながら、自分の不満や鬱憤を晴らすことができる。そこではどんなに過激な暴力をふるおうと、上からの命令なので行動の責任は問われない。権威の庇護のもと万能感にひたりながら、自らの攻撃衝動を発散することが許される。〉
〈ナチスはいわゆる「健全な民族感情」に訴えて、芸術の評価権を「普通の人間」の手に取り戻すことを要求した。その意味で、彼らの主張は「大衆の正義」を求めるポピュリズム的感情を刺激するものだった。〉
〈この「責任からの解放」という単純な仕組みにこそ、ファシズムの危険な感化力があると言ってよい。〉
〈「指導者から指示されたから」「みんなもやっているから」という理由で、参加者は個人としての判断を停止し、普段なら気がとがめるようなことも平然とおこなえるようになる。〉
〈この「正義」の感覚こそ、参加者を攻撃的な行動に駆り立てる最も重要な要因にほかならない。〉
〈文化人類学や民俗学が明らかにしてきたように、人は遊びや祭りなどの非日常的なイベントに参加し、日頃抑えている欲求を発散することで、高揚感や爽快感、他者との一体感を得て、社会生活を営む活力を維持している。〉
〈こうして敵対者は容赦なく攻撃すべき「悪」となり、これを攻撃する行動は「正義」となる。自分は正義=善の側に立ち、その後ろ盾のもとで悪に正義の鉄槌を下すという意識なので、攻撃をためらわせる内面的な抑制は働かない。〉
〈加害者の立場に身を置くという経験は、暴力的な行動が自分にとっても無縁ではなく、普通の人間を虜にしてしまう圧倒的な力をもっているという認識をもたらす。要するに
「体験学習」は、ファシズムが魅力的だからこそ危険なのだということを実感させるのに役立つはずである。〉
〈複雑な現実を単純化し、わかりやすい敵に責任を転嫁する点で、ファシズムとポピュリズムが取る煽動の手法は基本的に同じである。〉
〈「ファシズムの体験学習」から得られる最も大きな教訓は、ファシズムが上からの強制性と下からの自発性の結びつきによって生じる「責任からの解放」の産物だということである。〉

 この他、アドルフ・アイヒマンのホロコーストにおける行動を、ハンナ・アーレントが「悪の陳腐さ」と形容したことや、その後の経過は、知りたかったことがシンプルにまとめられていて、とても参考になった。

大月書店 2020.4.    1600円+税

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