みうらじゅん リリー・フランキー『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』(扶桑社)
2010年に行われた対談を再構成した一冊。初版は2011年。ほとんどが与太話なのだが、ところどころに、クスッと笑わせながら、人生の真理(かな?と思うようなこと)が織り込まれている。それでもやはり本は古びる。おそらく初版当時はもっと破壊力があったのだろうと思われる。12年後に読んだ者の覚書を書きつけておく。今の気分で特に気になるところは太字。
〔喜怒哀楽とは?〕
M:喜怒哀楽がハッキリしてる人のほうが、おかしいことはおかしいよね。
L:でも、日常の精神状態って、ほとんどこの4っ以外の状態じゃないですか。べつに喜んでるわけでも怒ってるわけでも、哀しいわけでも楽しいわけでもないっていうのが、人生の9割でしょ。
M:まあまあ楽しかったり、まあまあ哀しかったり、まあまあ怒ってたりぐらいにしとかなきゃ、暇が目立っちゃうしね。
〔結婚(…)とは?〕
L:モテるって特別になることより、変なことが少なくなることじゃないですか。平凡になるってことですよ。平凡な人間が一番モテる。
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M:心底安心できるのは、具合がいい人といる時ですよ。具合がイマイチな人はやっぱりねえ。
L:「具合悪い」っていうぐらいだから。(笑)
M:具合がいい人を見つける旅なんだな、人生って。
L:具合が悪いから性格が合わないんですよ。
〔それで結局、人間とは?〕
M:「人間とは?」を考えることは、暇つぶしのひとつでしかない。だから不安定なときは考えないようにすべき
L:生活に不満のない貴族が考えることで、今みたいな時代には考えるだけで危険
〔やりがいとは?〕
M:やりがいを得るには「飽きないふりをする」ということが大事になってくる
L:結果ではなく、やり続けることの達成感そのものも、やりがいのひとつである
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M:やりがいって、一時期、流行ったよね。世間的には「感謝されること」「達成感」「収入」の3つらしいよ。
(感想 仕事というのは辛抱であって、その辛抱が収入という数値に換算さ
れるのはうれしいことだ。)
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M:あとさ、よく「仕事にやりがいがない」とかって言う人もいるけど、なければ仕事なんかやれないじゃないですか。
L:でも、根本的に「お金」をもらうということがすでに「やりがい」のひとつであるはずなんですけどね。やりたくなくても。
M:そもそもは、あまり考えないほうがいいんじゃないかな、やりがいって。
L:自己が何なのかとか、やりがいとか、そんなのオレらも根を詰めて話されたら、自分の(やりがいの)なさに泣きだしますよ、たぶん(笑)。
M:やりがいって、今より先のこととも関係するじゃないですか。頭で考えても、未来のことなんて当たったためしがないし、いくら予想しても考えてもしょうがないっていうことに早く気づくべきだよね。
そういう無間地獄みたいなのに陥ったときは、自分の両手を見て「今、右手があがった、左手を横にした」ってそれだけ考えろって仏教の本に書いてあったよ。先の事を考えても、どうせ落ち込むだけだから、今やってることを頭に反復させるんだって。そうしてるうちに、考えるのが邪魔くさくなってくるからね。
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L:昔から「しゃべってることが面白いヤツは、文章も面白い」と言われがちですけどね。
〔自己表現とは?〕
M:自己表現とは、最終的には癖みたいなもの。癖をさらに突き詰めることで、形になっていく
L:自分がオリジナルになろうと思っても、もはや新しいものなどない。まずは「発明する必要はない」と思うことが重要
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M:どんなジャンルでも新しいことって、もう出尽くしてるんだよ。だけど、若いころはそればっかり探すでしょ。本当は、そこで何年やり続けられるかに意味があるのにね。
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L:自分が何かを発明しよう、オリジナルになろうと思ってもなんにもならないですよね。全部、これまでの経験から影響を受けている自分がいて、その様子と佇まいがオリジナルに見えてくればいいくらいのもん。そうやって仕事していくなかで、「これおかしいな。気に入らないな」というのを排除したり、「これいいな」というものをミックスしていくわけじゃないですか。
〔社会貢献とは?〕
M:評価があってこその「表現」だから。ずっと評価してもらうために書いてきたと思う。
〔それで結局、仕事とは?〕
L:当然、お金のこともそうですし、まあ暇つぶしですよねえ。仕事してないと暇だもん。あとは宿題みたいなもの。何か新しいことをしようと思うのは、自分のなかで自分に課している宿題をやらなきゃいけないっていう……。
だからまあ、仕事っていうのは宿題と暇つぶしですね。
M:人って、暇が一番怖いんだよね。
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M:無駄な熱意ってね、最終的に残るんですよ。みんなムダな熱意に驚くわけだから。ただ、幸せじゃないかもしれないけど、少なくとも自分の経験からも、熱意があればしたいことはできるって言えるね。
〔番外編:人生駆け込み寺〕
M:とにかく相手の立場になって考えないとね。そうやって考えて相手の機嫌がよくなると、自分の機嫌もよくなるっていうことがわからなきゃ。機嫌なんて、本当は他人の機嫌のことなんだよね。
M:真面目だからって、幸せになることとセットだなんてあり得ない。
〔病気・健康・自殺とは?〕
M:まあ、生まれたからには死ぬまで生きていくしかないってことですね。
扶桑社 2011.11. 本体1200円+税