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稲垣栄洋『生き物の死にざま はかない命の物語』(草思社文庫)

『生き物の死にざま』の続編。身近な生き物から聞いたこともない生き物まで。

〈メスが戻ってくると、オスとメスが互いに鳴き合ってパートナーを探す。不思議なことに、一万羽ものペンギンの群れの中で、声だけでパートナーを探し合うことができるという。なんという絆で結びついた夫婦なのだろう。しかし、必ずパートナーに会えるとは限らない。〉苛酷な環境で子育てするコウテイペンギン。オスとメスが一対一で添い、しかも何ヶ月も会わなくても、声だけで一万羽の中でお互いが分かるというのがすごい。

〈人間とツキノワグマが出くわしても、多くの場合は、ツキノワグマの方から立ち去っていく。それが、なわばりを持たないツキノワグマのルールなのである。〉ツキノワグマが縄張りを持たないというのは初めて知った。年間3000~5000頭も殺されているというのも驚きだ。絶滅してしまうのでは。

〈チーターは一度に五、六頭の子どもを産む。/肉食獣に食べられる草食獣は、一頭の子どもしか産まない。子どもの死亡率が高いライオンでさえ二、三頭しか産まない。それなのにチーターは五、六頭産む。それだけチーターは子どもの死亡率が高いということなのだ。〉草食獣より肉食獣の方が飢える確率が高いのか。考えてみれば当たり前かも知れない。草は、旱魃でなければ取り合えず手に入るのだから。が、何となく肉食獣の方が「強い」ようなイメージを持っていた。

〈チーターの子育ての時間は長い。しかし、この期間に独り立ちできるまでに狩りを教え込もうとするならば、時間は短い。この間に狩りのすべてを教えなければ、子どもたちは自然界で生き抜くことができないのだ。肉食獣であっても、教わることなくできることは何もない。すべては成長する中で学んでゆくことなのだ。〉弱い生物は産みっぱなし。強い生物のみが子育てをする、とこのシリーズで学んだ。

〈ゲンジボタルのオスは、群れを作って飛びながら、しだいに発光の瞬間を同調させて、一斉に点滅を繰り返すようになる。これに対してメスの発光はオスとは同調しない。そのため、オスが足並みをそろえて一斉に光を消したときに光を放っているのがメスということになる。(…)そして、メスの近くに降り立ったオスはメスに近づくと、瞬くように発光する。もしメスが受け入れるようであれば、メスも発光頻度を高めて、オスとメスとは発光の瞬間を同調させていく。こうして、オスとメスは結ばれるのである。〉オスとメスの発光が同調するところを見てみたい。

〈もちろん頭部のなくなったゴキブリが長く生きることはできない。人間と違い、頭がなくても生きていくことはできるのだが、エサを食べることができないのだ。恐るべきことに、頭部を失ったゴキブリの死因は、餓死である。〉ちょっと信じられないが、体を動かす命令系統が分散しているからだそうだ。

〈恐ろしいのは、寄生虫が単にカタツムリに寄生して栄養分を得るだけでなく、カタツムリの行動までも支配してしまうことである。〉カタツムリを支配して、寄生虫の元の寄生主である鳥に食べさせるように行動させるのだ。恐ろし過ぎる。

〈未来を想像する能力を手に入れた人間は、「自分が死ぬ」という未来も想像できるようになってしまった。(…)すべての生き物は「今」を生きている。大切なのは「今」である。/今、命があるのだから、その命を生きればいい。/ただそれだけのことである。〉過去や未来を考えて、今を犠牲にするのは人間だけ。確かにそうだ。それに囚われないようにするにはどうしたらいいか分からないが…。色々考えるべき課題をもらった本だった。書き方がエモ過ぎる、と思うところもあった。

草思社文庫 2022.8.(単行本は2020) 750円+税

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