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『短歌研究』2020年8月号

密林で傷兵死ねば蛭が去り埋葬虫(しでむし)くると翁の言ひき 高野公彦 老人の戦争体験談。南方の密林で傷兵が死ぬと、その身にたかっていた蛭は離れていき、埋葬虫が死体にたかる。ぞっとする話だが、実際にあったことのほんの一部なのだ。大岡昇平の『野火』にも通じる。

手術後の妻にゆつくりともの言へりことばはきみにわれに届きぬ 島田幸典 身体の弱っている妻にゆっくりと話しかける作者。相手にことばが届くのはもちろんだが、「われに」というところがいいと思った。ゆっくりと話すことによって自分の声が他者の声のように還ってくるのだ。

星型のポテトぢりぢり揚げてゐるいつか出てゆく他人のために 山木礼子 星型ポテトは子供が好む食べ物だ。わくわくしながら食事を待っていることだろう。しかし母は「ぢりぢり」と苛立ちの気持ちを持っている。子供=「いつか出てゆく他人」に時間を空費している思いなのだ。

④松村由利子「ジャーナリスト与謝野晶子10」〈メディアの報道が必ずしも正確ではないことを知る晶子は、複数の新聞を読み比べるという作業の中、海外からのニュースを重視した。〉晶子恐るべし。しかも、そうした知識欲の背景に山川登美子や増田雅子らへの学歴コンプレックスがあったとは。

⑤今月号の表紙のイラスト、すっきりしてていいですね。スイカと先割れスプーン。スイカの所々に入った白が効いてる。

2020.8.9.~10.Twitter より編集再掲