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あきら
2023年12月4日 15:31
「ひさしぶり」 そう言って顔に落ちる髪の毛を耳にかけながら、僕の目の前の椅子を引いて、彼女は腰かけた。 10年前嫌というほど目に焼き付いた、彼女の葬式に飾られていた遺影と、全く同じ笑顔で。 どうしようもなく怪しくて、胡散臭い話だった。 でも、『死んだ人に会える喫茶店がある』という噂話をたまたま耳にしたとき、こころに湧いたのは猜疑心よりも追慕だった。だからその喫茶店の名前と住所を探してみ
2023年10月25日 10:46
月夜のベランダには、酔いを醒ますに十分な冷たい風が満ちている。左手に冷えた缶ビール。右手に古いiPhone。こんな、くたびれ気味のサラリーマンにとって最高なロケーションの花金の夜、俺の気分は最低であった。ぼうっと動画を眺めていたはずのiPhoneには、先ほど唐突に現れたエアドロップーー画像共有をワイヤレスで行うシステムの確認画面。そこに『受け入れる』『辞退』という2つの選択肢と、「高い
2021年8月2日 12:18
震える指で星の間を縫ったステッチは、見えないオリオン座を結んだ。その指と吐き出される息は白い。蓄光したみたいにぼんやり光りながら、夜に存在していた。君も私も見えない。まるで始めから居なかったみたいに。辛うじて形を持つのは、何かを探ろうと躍起になる、君の震える指だけだ。「このまま夏の星座まで辿るよ。だから」少年は怯えているようだった。かちかちと歯が鳴る音が、耳鳴りと一緒に風に乗る。寒さか