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AI病理診断で医療現場の過酷な労働環境を変えたい。 株式会社アドダイス 代表取締役 伊東大輔氏インタビュー

Introduction


日本のみならず世界中で見られる大都市への人材流出。工場や各種施設、病院に至るまで地方では人材流出に歯止めが掛からず操業自体が危うい状況となっている。労働集約的な検査・診断業務を、独自特許AIを用いて職人不在でも可能にし、AIを活用したサプライチェーンの提供を目指すad-dice。創業期のAIとの出会いから、現在広島で取り組む医療分野への応用までの軌跡を紐解く。


知性が宿っていく人工知能にポテンシャルを感じて

ーー今の事業を始めるきっかけについて教えて下さい。
実は現在の事業は第二創業なんですね。元々テック系のスタートアップをやりたいなと思っていて、携帯アプリの会社として創業したんですが、2007-2008年頃に人工知能と出会ったのが現在の事業にピボットしたきっかけです。まだAIという言葉も無かった時代ですので、一から自分でコーディングしてみたところ、まるで生き物を自分で生み出したかのような感覚があったんですよね。簡単な土台を作ってあげるだけで、細かい指示を与えなくても学習し、画像識別が出来るようになっていった。コードを書いた自分でもどう育っていくか想像がつかず、そのポテンシャルを強く感じました。バイオの研究室なんかでシャーレの上で培養したりしますが、まさにあんな感じですね。当初意図する方向はもちろんあるんですが、その意図とは違う形でも知性が宿っていくというか。

ーー人口知能技術を事業化する具体的なきっかけは何だったんですか?
2012年頃から医療系のお仕事も頂くようになったんですが、ちょうどその頃日本にもPrediction Rule(統計データに基づく医療診断)という概念が入ってきたんですね。いくつかの疫学的な質問に答えると診断が出るというもので、これを使ったアプリを作ってくださいというお仕事でした。この時に、「事前に集めた専門家の知見とデータを組み合わせることで、どういう現象なのかを読み解くことが出来るんだな」ということを知ったんです。
その後独自に研究を進めていき、環境制御に関するAI学習の特許技術を開発しました。センサーで集めた「モノの位置情報データ」を専門家が一連の観点からチェックして読み解いた情報と、介入や措置の影響のデータを付け合わせて人工知能が学習することで、環境制御できるというもので、今で言うIoTですよね。「これはすごいことになる」と確信して、デバイス開発等を進めていました。


家賃1万円で生活していた創業期

ーーすごいですね…!
ただ、それが10年前だったので何も伝わらなかったんですよね。誰も分かってくれなかったし、評価もされませんでした。まだ早すぎたんですよね(笑)
だから一時期は月1万円くらいのところに住んでいました。東京の白山あたりって夢を目指して頑張っている人や若い芸術家を応援しようみたいなアパートがあったりして、そういうところに住んでましたね。12時過ぎたら銭湯も閉まっちゃったり。当時35歳くらいで一番どん底というか辛い時期でした。

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ーーそんな辛い中、諦めずに頑張れた理由は何ですか?

まずはポテンシャルを強く信じていたことですね。人工知能って感動があるんですよね、「これはすごいことだ」っていう実感があった。後は色んな人が助けてくれたというのも非常に大きいです。それこそ隣に住んでる人がご飯分けてくれたりとかね(笑)他にも、友達が仕事のパートナーとしてお医者さんを紹介してくれたりして、仲間と場所に支えられたということですかね。この頃の経験があるから怖いものはないですね(笑)

広島の農家とのパートナーシップをきっかけに


ーー今では幅広くコラボされていますが、ターニングポイントは何だったんですか?
やはり、KDDIのMUGEN LABOで「Bee Sensing」が取り上げられたことですね。
高校の時の友達で、勤めていた大手電機会社を辞めて広島に帰って農家になるという友人がいたんです。でも、ただの農家になるんじゃつまらないと。今の時代、IoTっぽいことを使った農家が出来るんじゃないかと。ただ、出身元に開発を頼むと数億円かかってしまうので、じゃあ一緒にスタートアップとしてやってみようということになりました。元々開発を続けていた「IoTのセンサーで集めたデータをAIで解析し環境をフィードバック制御する、環境の自律制御技術」を使って駆け出したのですが、その結果、スタートアップ界隈での知名度も徐々に上がっていきました。

また、広島では結構応援してくれる方がたくさんいて、広島県・広島市がバックアップしている「ひろしまIT融合フォーラム」にも推薦して頂きました。広島県内では割と名前が売れていきました。

そうこうしているうちに当社がAIをやっているということが知られるようになった結果、「病理の先生と組んでがんの診断支援ができないか」という話が出てきたんですね。実際に、県立広島病院で就業時間が終わった後にAIの講習会をすることになりました。医療へのAIの応用だったり、労働環境改善といった幅広い観点から、AIを何らかの形で医療現場に活用できないかというテーマでお話したんですね。外科や心療内科の医師だけでなく、管理栄養士や事務方の皆さんにも参加していただいてAIの可能性について講演・ディスカッションの場を持ったんです。その中でがんの診断支援という方向性に話が進んでいきました。

ーーブログも拝読しましたが、がん診断の現場が過重労働で大変だというお話もありましたね。
そうなんです。「AIが人の仕事を奪う」という論調も未だにあります。けれど、臨床の現場では絶望的な努力で現場を支えている人たちがいるんですよね。そういう人たちをAIで何とか助けたいなと。究極的には人間にとって安心・安全な空間を作ることが私たちの使命だと思っているので、その空間を脅かすがん細胞のようなものを早期検知するであったり、その空間を運用する人々(医療従事者など)を助けるような仕組みを作っていけたらいいなと思っています。

将来的には、今以上に色々なセンサーが張り巡らされた世界を人類は生きていくことになると思っています。その中でAIはフィードバック制御を常に行う非常に大きな役割を果たす存在になります。社会の自律神経みたいに振る舞うようになるというビジョンを持っています。そのような世界でAIが正常に働く事を担保する、「AIサプライ・チェーン」を築いて行くことが出来たらいいなと思いますね。

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人工生命時代の安心・安全な基盤を作る

ーーBee Sensingやがん診断と多様なフィールドにチャレンジされていますが、今後はどの分野に一番注力していきたいのでしょうか?
究極的にはやはり「人口生命時代の安心・安全な基盤を作る」ことではないでしょうか。私自身が広島出身で母と叔父が東洋工業時代のマツダに努めていたんですが、マツダって原爆で何も無くなった街に産業を作ろうというのを大きなミッションとして立ち上がった会社なんですよね。ただ、自動運転やEVが普及していくとマツダの売上は半減するとも言われているんです。そんな中でマツダに変わる産業を何か興したいなという思いはずっとあったんですけど。

それに加えて、私自身が被爆三世なんです。原爆投下から数日だったり長くても一年以内に亡くなった方々がすごく一杯いるんですね。10歳にも満たずに亡くなった方もたくさんいます。

実は広島ではロング・スパン・スタディという取り組みがあって、広島市内・県内の病院では将来の研究に役立てるために病理標本を廃棄せずに残しています。原爆症対策のデータの蓄積をいつか活かしたいという思いが強いんですね。病理標本の中にあるがんの情報をAIで学習して他の人の命を救うということで、いきなり命を奪われてしまった方々の無念を晴らしたいという思いはあります。
テクノロジーを核兵器のような人を殺めるために使用するのは間違っていると思っていて。人々の安心・安全だったり富の創造にこそ使うべきだと強く思うので、医療AIでがんの診断支援をするというのは世界中の人が求めているものだし、テクノロジーにはそのような可能性があるんだということを示すのが大事だと思っています。広島にはそのような思いを持った仲間がとてもたくさんいるんですね。病院や大学の先生、企業の方々にもご支援・ご賛同頂いています。

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世界中の医療現場が求めているお手本を広島から

そして、この取り組みは実際に世の中のペインポイントに応えていくものでもあるんです。全世界的に都市化が進んでいますが、その結果として中山間地域の過疎化というのは大きな問題になっています。過疎地域では病院も赤字になってしまいますし、お医者さんもそういう場所には行きたがらない。結果的に、都市部からタクシーで往復したりしているのが現状です。

ーーそれはかなり無駄が大きいですよね…。
そうですね、無駄が大きいのもそうですし、このような医療体制は本当にギリギリのところで回っているんです。お医者さんの体調が悪くなってしまったら医療サービスがストップしてしまいます。そういう地域に対してオンライン診療とAI診断を組み合わせることによって、在宅勤務のお医者さんでも負担を減らしていくことが出来るのではないか。世界中が求めているお手本を広島から先んじて示すことが出来ると考えています。原爆症対策のAI化という取り組みを活かすことで無念の想いをされた方々の魂を救いたいというパッションと、現実の課題を解決出来るというビジネス面での後押しもあるプロジェクトだと思うんですよね。


ーーヘルスケア領域の方々は本当に「世の中をよくしたい」という思いでマイナスをゼロにする取り組みをされていて頭が上がりません。投資家の方々が取り組みを理解されて投資が実現していくことを願っています。

そうですね。ただビジネス面での機会も十分にあると思っています。2025年には65歳以上の人口が11億人以上になると言われていますので、その10%でも1億人です。AIを活用したライフスタイル医学というサービスを現在検討していますが、上記の1億人に年間1万円/人で提供したとしても、市場規模は1兆円になりますよね。2030年には14兆円規模になり得るような非常にインパクトの大きな領域だと思っています。

がんを例にとっても、歳を取ると誰でもなる可能性があるんですよね。健康診断も1年に一回では足りないんです。3ヶ月ぐらいでステージが上がって行ってしまうし、癌細胞が小さい段階では人間には見つけることが難しいので、理想としては診断を低コストにしてもっと定期的にAIサービスを受けられるようにしていきたいと思っています。このようなサービスを例えば年間1万円でご提供する、それを1億人、10億人の方々に使っていただくような世界を作れたらいいなと思っています。

Company: 株式会社アドダイス
Founded: 2005
CEO: 伊東大輔
https://www.ad-dice.com/

(聞き手:Chiyo  構成:Kan Yanazawa)


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