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物も人も発酵。より良い町を目指してー『発酵の里こうざき』の魅力ー

利根川にかかる神崎大橋

東京駅から高速バスで約1時間半。千葉県の北部に位置する、香取郡神崎町にやってきた。なぜこの町にやってきたかと言うと、珍しくも「発酵」をテーマとした、地域活性化に取り組んでいるからだ。どんな町なのか、そしてなぜ発酵なのかを知るべく、椿等(つばき・ひとし)町長に話を伺った。

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椿等プロフィール
1955年2月千葉県香取郡神崎町生まれ。成田高校卒業後、千葉工業大学に入学。その後神崎町役場に就職。2019年6月無所属で町長に初当選。2023年6月第2期当選を果たし、現在に至る。


神崎町の魅力を発信

育った町について、椿町長はこう語る。

「神崎町は、古くから水に恵まれた穀倉地帯。人口は千葉県内で1番少ない約6000人ほどの町です。300年以上前から酒や味噌、醤油などの醸造業によって発展してきました。6月頃には青々とした田んぼが広がり、8月下旬になると一面黄金色に変わります。とても綺麗な風景ですよ。

町内には江戸時代から続く蔵元が2軒あり、このエリアを中心とした『発酵の里こうざき酒蔵まつり』が、毎年3月に開催されます。町民人口に対し、今年は過去最多の6万人が来場。約10倍です。蔵元のSNSの発信力や酒好きによる口コミなどのPRのおかげです。しかも当日は新宿駅から臨時列車も出ている。 それだけ多くの方が、このイベントを楽しみにしているということ。

また5月には、3年連続3回目の『神崎発酵マラソン大会』も開催。全国から約2000人のランナーが、町中をかけ巡りました。着々と発酵の里としての魅力が、大勢の方に伝わっていると感じています」

一面の緑。白鷺もたくさん飛来し、コントラストが綺麗な風景が広がる

それぞれのイベントの魅力について、椿町長は「まず酒蔵まつり。JR神崎駅から徒歩で行ける蔵元では、日本酒の試飲や、酒粕の購入ができます。酒蔵見学も大変人気。さらに、なかなか聞く機会のない蔵元の話を直接聞けるため、発酵の歴史や魅力を五感で楽しめます」と話す。

続けて「マラソン大会では、発酵の文化を楽しんでもらうために、納豆や味噌などの販売や、冷やし甘酒を振る舞います。冷やし甘酒は、疲れた体でも飲みやすいよう、さらっとしたやさしい飲み心地に工夫しているんですよ。このイベントの特徴は、参加賞のオリジナル藍染Tシャツです」と、発酵の里の魅力をアピールする。

今年の酒蔵まつりの様子|広報「こうざき」令和6年4月号

藍染とは、日本を代表する伝統産業の1つ。藍の葉を発酵させた藍液に、布などを浸した後、空気にさらす。この作業を何回も繰り返すことで、ジャパンブルーといわれる美しい青となる。このオリジナルTシャツは、町内の小学生や町内外のボランティアスタッフ、そして町職員の方々が1枚1枚染めているらしい。しかも、布の絞り具合によってデザインが異なるため、世界でたった1枚しかない。

椿町長は「1回目から非常に好評な参加賞。これが欲しくて参加するランナーもいるほどです。発酵の魅力と合わせて藍染の魅力も広めていきたい」と意気込みを見せる。

オリジナリティが高い藍染Tシャツ|広報「こうざき」令和6年6月号

ここまでの話を聞いて、発酵を軸に、地域活性化にとても注力していることが伺える。とくに『発酵の里』というワードについては「商標登録をしているため、他では使えないんですよ」と声を弾ませた。

若い子育て世代に価値を提供したい

「町が抱える課題は、やはり少子高齢化です」と真剣な眼差しで話し始める。

「現在この町の高齢者率は約37%。日本の高齢者比率は約29%のため、それよりも高い(2022年5月時)。
このまま人口減少が推めば、今までできていたことの維持が難しくなる。例えばどの地区にもあった子ども会や消防団、地域祭などの行事です。そうした地域コミュニティへの参加が、ネット社会よりも、人と人との心の結びつきを強くさせると私は考えます。

そのため何か問題が起きたとしても、その結束力によって協力しあうことで、コミュニティの活性化にも繋がっていくはず。こうした危機を回避すべく、またコミュニティの良さを知ってもらいたく、若い世代にこの町への移住を望んでいます」

椿町長はこの課題を解決するべく、ミッションを掲げた。「まずは子育て支援の充実。これが優先です」。

広報「こうざき」令和6年5月号より

「内容としては、保育料を0歳から無償、小中学校の給食費も無償。さらに高校3年生相当の年齢までの医療費も無償です。今年の4月からは、全園児に町内産のコシヒカリの提供を始め、親御さんに喜ばれています。その他多数の制度が整っているので、各詳細については神崎町の公式ホームページをご覧ください」

こうした取り組みによって、成果が見え始める。椿町長は「町内に2校ある小学校の昨年の入学者数が、両校とも増加しました。1校は前年比プラス11名で26名。もう1校は前年比プラス5名で16名。非常に喜ばしいニュースです。また四季の丘といった、新規住宅開発地域などへの移住も追い風となり、来年もこの数字は増加する見込みです」と声を弾ませた。

生徒の人数が増加中。米沢小学校正門

しかも合計特殊出生率にも変化が現れる。2022年の数値を比較すると、国1.26、千葉県1.18、神崎町1.42だ。椿町長を筆頭に取り組んだ、子育て支援という価値が、実際に子どもを持つ親に思いが届いた結果だと言えるだろう。

未来に残したい神崎町

神崎町の未来像について、椿町長は「子どもを一生懸命育てている、若い人たちに来てもらいたい。支援制度も整えていますし、また子どもが増えれば、将来神崎町を背負って立つ人材が増える。それはこの町の魅力を広げてくれる、語り部が増えることにも繋がります。

また町のテーマでもある発酵。発酵とは本来、原材料を丁寧に、さまざまな物と混ぜ、しっかり熟成させることで、良い物が出来上がりますよね?それは人にもあてはまるのではないでしょうか。地域の人とたくさん関わり、自然と触れ合い、生活がこの地に根付くことで、より良い町へ成長していくはず。だからこそ、私は今、発酵をテーマに地域活性化を推め、未来にこの町を残していきたい」と、目を輝かせた。

昨年の町長選挙で続投が確定

町長と巡る、町の景色

取材翌日。実際に神崎町内を案内していただいた。今回周った場所は、蔵元周辺/神崎神社/道の駅周辺の3カ所。

まずは蔵元周辺。

「五人娘」や「香取」で有名な寺田本家は、背の高い煉瓦造りの門構えと、正門の奥にそびえる1本の大木が目を惹く。

椿町長は「寺田さんが面している大通りは昔、利根川から運ばれた物資がたくさん行き来したメインストリートだよ」と話す。もう1軒の鍋店なべだなは、「仁勇」や「不動」などの銘柄で有名。その外観は、白壁に大きく仁勇と書かれ、インパクトがある。ゆえに離れた所からでも一目瞭然だ。

この一帯が毎年3月のまつり時には、おちょこを片手に持った人で溢れかえるのだから、面白い。来年の酒蔵まつりには、取材でぜひ参加したい。

門の隣に見える「香取」の威厳ある文字
長く大きな斜面をもつ屋根が、一層存在感を放つ

株式会社寺田本家
〒289-0221 千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964
TEL:0478-72-2221

鍋店なべだな株式会社神崎酒造蔵
〒289-0221 千葉県香取郡神崎町神崎本宿1916
TEL:0478-79-0161

「神崎神社に向かいましょう」と、車を走らせた。

荘厳な境内に足を踏み入れると、立派なくすのきが目に入る。明治時代の火災で、木の半分以上が切断されていたが、根元にある芽が育ち、高さ20メートル以上の見事な木へ成長をとげた。

町のシンボル、なんじゃもんじゃの木

木を前にし、椿町長はこう語る。「この木は町のシンボルであり、パワースポット。国の天然記念物にも指定されています。また、徳川光圀公が参拝された際『この木は何というもんじゃろうか』と仰ったそう。それ以来『なんじゃもんじゃの木』として親しまれ、町を見守っています」。

神崎町のキャラクター「なんじゃもん

今ではこれがモデルとなった町のマスコットキャラもいるらしい。

神崎神社
〒289-0221 千葉県香取郡神崎町神崎本宿1944
TEL:0478-72-3161

次の目的地、道の駅発酵の里こうざきに向かう途中、赤茶色に広がる田んぼに出会う。一体これは何だろう。すると椿町長が「米だけでは田んぼが余って収入が減るから、小麦を育ててるんですよ」と話す。なんと、米だけではなく小麦も育てていたのは驚きだ。

5月下旬から6月にかけて、赤茶に広がる小麦畑

最後の目的地は、道の駅発酵の里こうざき。その名のとおり、発酵の魅力がぎゅっと詰まっている場所。

地元の酒や、味噌、糀を使った食品を多数取り扱い、また地元のみならず、全国各地の厳選された発酵食品も揃えている。1番人気がある商品は「糀ばあむ」。そのほか発酵食品を使った料理を堪能できる、レストランやカフェが併設してあり、また地元で採れた新鮮な野菜や、お米なども販売している。休日になると、朝から地元の方々が買い求めにぞくぞくとやってくる。

「新鮮な物が買えて食べられるのは、幸せなこと」。椿町長はこう言いながら、彼らの姿を見て微笑んだ。

仁勇や不動などの地酒が並ぶ棚
地元で作られる味噌も好評

施設のすぐそばには、圏央道の神崎インターチェンジがあり、その付近では工事をしている。こちらについて、椿町長は「現在、圏央道から降りないと道の駅は利用できない。しかし数年後には、降りなくても利用できるように開発を進めているところ。利用客を増やし、町の活性化に繋げたい」と未来を見据える。

道の駅発酵の里こうざき
〒289-0224 千葉県香取郡神崎町松崎855
TEL:0478-70-1711

最後に、椿町長は神崎町について「季節を感じとることができ、そして古くから発酵の町として栄えてきたこの町を、人も物ももっと発酵させます。そして若い人たちから『この町を選んで良かった』と言ってもらえるよう、町をつくっていきますよ」と熱い思いを語った。


編集後記

今回ご縁があり、椿等町長に直接インタビューをさせていただきました。育った町にかける熱い思いや、若い人に対する思いなどを聞き、子育てをする環境として、非常に魅力がつまっている町との印象を受けます。

実際、保育士免許を持ち、子ども3人の母でもある友人に、神崎町の制度の魅力がどこか聞いてみました。すると、支援金はもちろん、医療費の助成や0歳からの保育費、そして給食費の無償は非常に魅力的に映ったようです。

若い人に移住してもらえる町として、着々と認識されている神崎町。今後さらなる発展を遂げていくことと思います。
椿等町長。お忙しいなかお時間をいただきまして、ありがとうございました。

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