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人と比べてしまいそうな時は未来を想う

「50億年後、太陽は地球にぶつかるんやって」

時々息子の口から飛び出すこうした話に驚いて、脳がバグを起こすことがある。大抵は解説系YouTubeから聞き齧った知識を披露しているだけなので、細かい真偽のほどは怪しい。けれど、日常生活で接することのない「宇宙」とか「物理」とか「未来」の話を子どもの口から聞くと、思考が途端にマクロの視点にワープして、夕飯の献立や学校の連絡事項など砂粒ほどに縮んでしまう。「どういうこと?」と聞き返して、お互いの知識と感想を投げ合う、キャッチボールが楽しい。

いくつかのやりとりを通してわかったのは、無限の時間と空間を有しているように思えた宇宙でさえも、何億年、何兆年という時間をかけてじりじりと「終わり」に向かっているということだった。

話は飛んで、仕事でChatGTPを使うことのある夫によれば、AIの進歩は凄まじいらしい。資料の要約から企画の叩き台、ビジネスメールの添削まで、賢く使うことができればChatGTPは強力な「部下」になる。

「いやむしろ上司かな」
「私みたいなライターの仕事なんてなくなっちゃうね」

この手の話は、そう言って笑うところまでがセットだ。先日X(twitter)では「AIには絵を描いたり物語を書いたりするのではなく、料理や洗濯をして欲しい」といったつぶやきが拡散されていた。未来の仕事のありようは、今と逆転しているのかもしれない。頭脳を使う仕事はAIがこなし、手を使い、身体を使い、言語化や数値化ができない感覚を駆使した仕事こそが、クリエイティブで血の通った人間の仕事になっていく。

空に太陽があり、地球が回り続けるということでさえ、永遠ではない。今、私たちが「必要」だと思っている「もの」や「能力」は、時代が変われば簡単に必要なくなってしまう。

そんなふうに考えたら、未来を悲観的に感じるだろうか?
いや、私はむしろ、気が楽になったのだ。

一つは私にとっての「書く」ということの意味。
私は媒体の仕事では京都の店や人を取材して記事を書くことが多いが、noteではこうして、さして役にも立たない日々の雑感ばかりを書いている。今すぐ真似したくなるような、自己啓発的要素もハウツーも含まれていない。AIにライターの仕事が奪われる日が来ても、私の日々のささやかすぎる雑記なんて奪わないだろう。だって、何の生産性もないのだから。

それでも、見ず知らずの人の日記やお隣の庭の草花に救われることがあるように、評価を目的としないものが誰かに届くことだってあると思いたい。何よりも私が、書いていて楽しい。情報や役に立つ文章はAIがどんどん書いてくれて、何でもない日の情景や思考の断片を綴る文章が今より必要とされる日が来るなんて、妄想がすぎるだろうか。

もう一つは、息子の未来。
私は子どもの生活にコミットするのが得意ではなく、毎日子どもの宿題を見てあげたり、テストのつまずきを確認したり、習い事や塾を熱心に選んだり全くできていない。我ながら、かなり適当な母親である。それでも、週の大半を習い事や塾に費やす子や、早々に小・中学校の受験を決める家庭を見ると、少し心がざわつく。「うちもちゃんと考えないといけないのかな」という焦りと不安が入り混じった複雑な気持ち。子どもの幸せを考えるのなら、親としてできる限りのことをやってあげたいという思いは、私のようなズボラ母にだって一応ある。

でも、息子が大人になるころ、世界は決して今と同じではない。

太陽と地球が衝突するのはまだまだ先でも、AIが目覚ましい進歩をとげていることは確かだ。親がこれまでの人生で必要だったものが、子どもの未来に必ずしも必要だとは限らない。そう思うと少し、力が抜ける。頭を使うことだけじゃなく、手を使い、五感を働かせ、時間を忘れて夢中になることこそが、息子の未来を明るく照らしてくれるような気がする。教育熱心な母とは言えないけれど、息子が最初から持っていた好きなことが何なのかは、見逃さないでいたいと思う。

他人の仕事や周りの子育てと自分を比べてしまう時、こんなふうに「未来は逆転するかもしれない」と妄想する。もちろん、現実は「今」、ベストだと信じることをやるしかない。私は仕事について模索し続けているし、子育てはいつだって正解がない。でも、未来においては役に立つ能力も価値観も変わるのだということを前提にすれば、コロコロと変わる基準に振り回されたくはない。少なくとも、自分が生きている間は変わらないと思うことを大切にしたい。

「好き」なこと
「得意」なこと
「続けている」こと
「愛する」こと

何億年という大きな宇宙の時間の流れと、どこまでも賢くなるAI技術のゆくすえの中で、私たち人間にできることといえばせいぜい、自分の心を素直に観察することくらいなのかもしれない。




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