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積ん読と、45秒のトップコート

「これは、時間を買っているようなものだな」

と関心したのが、〈ネイルズインク〉の「45セカンドトップコート」。仕上げに塗るクリアネイルなのだけれど、45秒で乾くというキラーフレーズを見事に実現してみせる。人気ぶりは知りつつも、そのお値段から「トップコートくらいプチプラで十分でしょう」と思っていた。けれど、ネイルが完全に乾くまでのあのじれったさ、うっかりこすったり指紋を付けたりしてしまった時のやるせなさを解消してくれると思えば、3000円は決して高い買い物ではない。

いや、トップコートとしては、高い。

だけど「時間を買った」と思えばどうだろう。

これまで、トップコートを塗ってから少なくとも5分は、指先を使えなかった。軽く触れてみて乾いただろうと当たりを付けても、あと10分くらいは用心しながら作業しなければ。それが1分足らずで乾いてしまうのだから、残りの14分×20回分くらいの時間を、私は「買った」のだ。


ものには「時間を生むもの」と「時間を奪うもの」がある。

45秒で乾くトップコートも、例えば食洗機やロボット掃除機も、本当に買っているのは商品の機能ではなく、それによって生まれる「時間」だ。

一方、テレビやスマホは、いとも簡単に時間を奪う。
見る人にそうと気付かせることなく、セーターの毛糸を引っ張るようにするすると、時間をほどく。ハッと我に返ったときにはもう、セーターは形を失くしている。


本を読むのにも、物理的な時間が必要だ。
本や映画は、「読みたい」「観たい」と思ってその世界に入るものだから、費やす時間はむしろ豊かになる。けれど「時間を生む」ことはない。はずれを引けば「奪われた」とも感じるだろう。

うちの本棚には、買ったものの読めていない本、途中で読むのを置いた本がいくつもある。「積ん読」というやつだ。読了できてない本が積まれたまま、新しい本を買ってしまったときはどこか後ろめたい。前借りした時間を返さないまま、新たに借りてしまったかのような。

だけど、積ん読になったままの本でも、自分の手元にあるというだけで読み終えたような気分になるのは、なぜだろう。

一気に読み終えるような勢いはない。ぱらぱらとめくって、時間ができたら読み始めようと思う。そうだとしても、選んだという時点でその本と私の中には、引き合う磁力があったということだ。

もしかすると、「読んだ気にさせる」積ん読は「時間を生むもの」なのかもしれない。


今の自分の関心の高いテーマ、気になる著者、心に響くキーワード。
それらを、読む時間を使わずして明らかにしてくれる。
生まれた時間は、今読まずにおれない活字に使うことができるのだから。


そう考えれば少し、罪悪感が和らぐような気がしませんか。


[一日一景]
___1日1コマ、目にとまった景色やもの、ことを記しておきます。

積ん読すぎて風景の一部となった本。
〈ネイルズインク〉のトップコートは本当におすすめです。


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