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「私の地元には何もないんです」問題について

地元には、何もない・・・?

 今回は、知り合いや初めて会う方と、お互いの地元の話をするときに、いつも気になっていることについて考えてみます。「私の地元には何もないんですよね」と話す方がいます。この、「何もない」というのはどういう意味なのでしょうか。ヘッダーは、実家の近くにある棚田です。山の反対側から見るととても綺麗です。

「語られない」地域の魅力

 「地元には何もない」という場合、もちろんまったく何もないということではなく、「人に話せるような魅力的なところがない」という意味のようです。しかし、「本当に何もないんですか?」と少し詳しく聞いてみると、実際には魅力的な場所がたくさんある地域の出身の人が、その内容を話していないだけということがたくさんあります。歴史的・文化的に貴重なところは、観光地化されていない場合は特に、最初の話題には挙がってきません。

地域の魅力は買い物や観光?

 そうした方々に、どんなところがあれば紹介しようと思うのか尋ねると、買い物ができる場所や、観光地などを挙げる人が多いと感じます。特に地方都市や農村部出身の人では、買い物が便利であることはとても重要なようです。「他の地域には・・・があるのに、自分の地元にはない」といったような対比をする人もいます。こうしたことは、謙虚さとしてとらえることもできますが、地域への愛着との関係で考えることができるとも思います。

「地元学」:地域の人自身が地域を学ぶ実践

 皆さんは「地元学」という言葉を知っていますか。地元学は、大学などでの研究分野の「○○学」と同列のものではなく、「地域に住んでいる人自身が自分の地元について学び、そこで見つけた魅力を外から来た人に伝える学び」のことです。地元学には、東北地方を中心に活動されている結城登美雄さんと、熊本県水俣市から発信を続けた吉本哲郎さんという二人の代表的な提唱者がいます。私は以前、吉本さんのお話を直接聞く機会がありました。その機会が地理学関係者が多く参加する場だったことを念頭に置いてのことだと思いますが、「地域づくりで大切なのは地理と歴史だと思っています」とはっきりおっしゃったのを覚えています。

 地元学では、住民自身が地域を歩き、地域の資源を記録したり、それらについて話し合ったりすることで、住民が地域の価値を再発見することから始まります。地域の資源について整理ができたら、地域で小さな案内プランを作り、企業の研修や修学旅行生などを受け入れて、地域の案内をします。案内では田んぼや山を歩いたり、地域の拠点施設で地元の方が作る田舎料理を食べたりします。こうした過程を通して、地域外の人に地域の魅力を伝えることができるだけでなく、地域の人たち自身が自分の地域に誇りを感じられるようになります。

地域学習の大切さ

 学校の社会科教育でも、地域学習は各校で行われていると思います。地域学習に関わっている先生方や、地域学習で聞き取りの相手をする地域の皆さんには、ぜひとも児童・生徒・学生の皆さんに地域の魅力をたくさん学べる機会を作ってあげていただきたいと思います。すべてが思うようにいかないこともあると思いますが、これまで何度か、地域学習を通して地元の魅力を感じ、自信を持って話せるようになったという声を聞いたことがあります。そして、フィールドワークの経験は記憶にも残りやすいです。地域のお店を訪れたとき、小学生や中学生から地域学習のお礼の手紙や絵などが飾られていると嬉しい気持ちになります。

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 実家近く棚田の写真です。狭くてトラクターも入らないような耕地を、耕運機で耕して丁寧に農業を続けている方々がいます。心から尊敬しています。

地域の魅力をもっと語ろう

 これまで、謙虚に自分の地元についてあまり語ってこなかった皆さんへ。もし今後、自分の地元について話す機会があったら、「何もない」と答える前に、少し考えてみてください。珍しくなくても、何かに指定されていなくても、有名でなくても、あなたがその地域の魅力だと感じることがあれば、それを大切にしてください。勇気を持って話してみると、「そんなところがあるんだ、すごい」「その写真、すごく綺麗ですね」という反応が返ってきて、驚くことになると思います。地域が愛されてどこかで語られることは、そこに住む人たちの自信や誇りにもなります。

 「そうは言っても、地元には本当に何もないんです」という方は、ぜひ一度ゆっくり丁寧に地域を歩いてみてください。きっと何かが見つかります。皆さんにとって、地元や皆さんの大切にする地域が、よりたくさんの人に愛されるようになることを願っています。

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