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「好き」って一体何なんだ?

※「映画ハピネスチャージプリキュア!人形の国のバレリーナ」のネタバレを含みます。
また、内容的には年間読書人氏のコメント欄に残したものとさほど変わりません。



先日、私の敬愛しているブロガーである年間読書人氏によって、「映画ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ」のレビューが投稿された。

事の発端は上記のレビューにも書かれている通り、私の投稿した拙著「え、プリキュアみていないのに女児アニ民を名乗っているのですか!?」を見てくださった同氏が、記事の中で紹介した「人形の国のバレリーナ」に興味を抱いてくれたことから始まる。

私は「人形の国のバレリーナ」を見たことがきっかけとなってプリキュアシリーズの視聴を決断したくらいだから、本作は私の中で重要な作品として位置づけられている。今風に言うなら「推し」ってことなのかな?

同氏のレビューを読んでいるときも、「いや~”推し”が”推し”をレビューしてくれるのってマジ最高~!!!!」とか思っていたし、改めて私はこの「人形の国のバレリーナ」が好きなんだな~ということを実感していた。

…しかしふと立ち止まって考えてみると、一体私は何故この作品が好きなのだろうか?

作画が綺麗だから?登場するプリキュアやつむぎちゃんが可愛いから?バトルシーンがカッコいいから?…え、そんな単純な理由なの?

それとも、本作の「ヒーロー/プリキュアでも救えない人がいる」というテーマ性の強さに惹かれたのだろうか…?
しかしこのテーゼは、ヒーローものの作品が常に抱えている宿痾のようなもので、特段珍しいものではないはずだ。そして、提示される回答も、「それでもヒーロー/プリキュアは諦めない=これこそがヒーローの要件」という風に着地するのが大半だろう。

それでは、本作「人形の国のバレリーナ」は、果たしてこのテーマに沿って綺麗に着地したといえるのだろうか?
…既にご存知の通り、本作はラストで「つむぎの足を治す」という展開が描かれている。これは、明らかにテーマ性を破壊しかねない描写だと、多くの人が言う。私もそう思う。「つむぎの足は治らないが、それでも寄り添い続ける」という描写の方が、テーマ性はブレないし、それが現実に障碍を抱えて生きる人々への誠実な態度というものだろう。つまり、本作は着地には失敗していないものの、到底「綺麗」な着地とは呼べないのである。

こうして、最後の最後で「ズラされた」ことが、喉に小骨が刺さったままの様に、今なお私の中でつっかえている。そして、恐らく綺麗に飲み下せなかったことが、本作を好きな理由の大半をしめている気がしてならない。…答えが間違っているから好きなのか?
もしも本作が「子供向け」の映画でなかったなら、多分つむぎの足は治らなかっただろう。しかし、本作は「子供向け」であるが故に、つむぎの足を治してしまった!そして「子供向け」であるからこそ、それが許されてしまうのだ。これは制作陣の欺瞞だろうか?しかし欺瞞と言っても、そこに悪意は感じられない、言い換えると「優しい嘘」のようなものだと思う。それが私のような中途半端野郎にはたまらないのだろうか。大人になれない子供か?私は。…わからない。

少し見方を変えると、最後を欺瞞に満ちた描き方にすることで、「ヒーロー/プリキュアもまた欺瞞に満ちた存在である」と強調され、そこに私は冷笑的な視線を向け悦に浸っているのかもしれない。嫌な奴。ニチアサにどっぷりと浸かって育ってきた私だが、基本的にヒーローは嫌いなのだ。故に、ヒーローが悩み苦しみ葛藤する姿を見るのは心地よい(ヒーロー凌辱だぜ)。
そこで折れてしまいヒーロー失格となる姿も美しいし、折れずにヒーローの心意気を貫徹する姿もまた美しい。あれ?やっぱりヒーローが好きなのか…俺?

結局、何故「人形の国のバレリーナ」が好きなのか私にはよくわからなかった。「好きに理由はいらない」という言葉に逃げてもいいのだろうか。「好き」って一体、何なんだ?

・感想と批評に違いはあるのだろうか

私の投稿するnoteは、「実況メモ」という、その都度作品に対して感じたことをひたすらに垂れ流していくものがほとんどだ(なお対象がエロゲ…もといビジュアルノベルなのは、単に一番実況しやすいからだ。こちらのペースに合わせて物語を進行/停止できるメディア媒体はその都度感想を書くことに適しているし、かつnoteにまとめやすいのだ。下書きにそのままスクショ貼って文章書きこむだけだからね!)。

私は、そもそも感じたことを言語化したくない人間である。言語化することで、感情が一元的に固定されてしまい、とり零す感情の方が多いと思うからだ。本当は「萌え~」だとか、「エモ~」だとか、「尊い~」といった一言で済ましてしまいたい。…しかし、言語化よりももっと恐ろしいことがある。それは忘却だ。確かにあったはずの想いや感情が、いつの間にか消失してしまうのである。なんて残酷な…
それが嫌だから、少しでも忘却に抗うために、「実況メモ」として、その時々の感情を記録しているのである。だから、どこまでいってもただの感想でしかないのだ。…しかし、これでいいのだろうか?


二ヶ月ほど前に、「小林秀雄の人生論」という本を読んだ。ちょうどkindle unlimitedで無料だったからだ。

私はこれまでの人生で「批評」というものを学んだことがない。しかし、noteで作品について文章を書く以上は、「批評」について学んで損はないだろうとの思いで、まずは「近代批評の祖」と呼ばれた小林秀雄の著書に手を出そうとしたのだが、小林秀雄の著書は難解らしいとの噂を聞いたので、読むハードルの低い解説書から手を出してみたのである。

で、一読したところ、「感想と批評に違いはあるのだろうか」という感想を抱いた。

文学の世界に詩人が棲み、小説家が棲んでいるように、文芸批評家という ものが棲んでいる。詩人にとっては詩を創る事が希いであり、小説家にとっては小説を創る事が希いである。では、文芸批評家にとっては文芸批評を書く事が希いであるか? 恐らくこの事実は多くの逆説を孕んでいる。…(中略)月の世界に住むことは人間の空想となる事は出来るが、人間の欲望となる事は出来 ない。守銭奴は金を蓄める、 だから彼は金を欲しがるのである。人は可能 なものしか真に望まぬものである。これがあたかも嗜好と尺度との論理関係である」(『 初期 文芸 論集』 12 頁)

浜崎 洋介. 小林秀雄の「人生」論 (NHK出版新書) (p.55~56). 株式会社 NHK出版. Kindle 版.

批評家とは「批評する対象となる作品」なしには存在しえないのだから、まず作品に対する「直感」からしか始まらないし、始めてはいけない。「直感」があり、そして「嗜好」があり、そして最後に「尺度」があるのだと。まかり間違っても、「尺度」から始めてはいけない。なぜなら、「尺度」自体は客観的であっても、それを持ち出す人間は恣意性にまみれているからだ。そのことに自覚的でなければ、批評はただのポジショントークの道具に堕されてしまう。

言うまでもなく、作品を成功作か失敗作かと判定したり、点数をつけたりすることが、批評の目的ではありません。批評にとって必要なのは、結局のところ「この作品は、私にとって何なのか?」ということなのだと思います。

なぜ、痴Qさんは「作品として、良い問題を設定し得た時点で満足できるのか?」そのあたりに、興味深い何かがあるのだと思います。他人には窺い知りようもない何かです。

年間読書人氏のコメントより

年間読書人氏からいただいたコメントとも、共通する部分があるのではないだろうか。「この作品は、私にとって何なのか?」という言葉は、突き詰めると「客観性」というものを排した上にしか成り立たないのではないか?それは「感想」とどの様な違いがあるのだろうか…
しかし一方で、年間読書人氏のレビューは客観性に富んでいるようにも思える。私の文章と何が違うのだろうか…

もうわかっている。
…「私」と「年間読書人氏」に違いがあるとすればーーそれは”確固たる信念”があるか否かなのではないだろうか?そしてそれこそが、「感想」と「批評」との”境界”ではないか?

泣きました。
僕はリベラルで、フェミニストで、反出生主義者です。


こうしてにわか左翼を気取ってはいるものの、ひどく矛盾を抱えているような気がしてならない。それは多分、僕が”本当”は保守的で、ステロタイプなジェンダー観に染まり切った、出生主義者だからだろう。ぜ~んぶ逆張りの裏返し。

ところで、”本当”ってなんだろう?こうして逆張りを続けていると、そもそも自分がどっちの立場に居たのか、曖昧になってくる。自分がわからない。
本当の私はだあれ?

…でもきっと、この曖昧さが快感なんだな。答えを留保し続ける心地よさ。安寧から抜け出したくない。優柔不断。この受動的なニヒリズムから抜け出せない人生で、己の中の矛盾に白黒はっきりと色をつけたくないんだ俺は。

上記のクッソ情けない自己紹介文からもわかる通り、私は私の中に「確固たる信念」を持ち合わせていない。逆張りの優柔不断クソ野郎である。こんなタチであるから、私の感想には一貫性というものが存在しないんじゃないか?という疑惑もある。

また、「奴隷」という立場の少女を主人公が救済するという構図も、自分に刺さらない一因ではあるかな?「奴隷」って、男の少女救済欲求を満たすための都合の良い存在じゃん…「娼婦」よりも尚更タチが悪いよ…

とはいえ、十子ルートと稀世良ルートで流されるままだった主人公が、ここに来てようやく主人公らしい行動に出たのは良かったな。駄目な子の成長を見守る気分。多分サエルートが一番最初だったら、真逆の評価をしていたと思うけど。

上記の感想にもあるように、例え同じ内容のストーリーであったとしても、私が観測した順番によって、好き/嫌いが真逆に入れ替わることがあり得るのだ。これは、一貫した態度とは程遠いものではないだろうか?(ただしこの「Erewhon」という作品は、このヒロインのルートははじめロックされていて、1週目に観測することはできない。上記の「奴隷である少女を主人公が救う」という構図に潜む気持ち悪さに制作陣が自覚的であるから、攻略順としては最後にまわされているのかもしれない)

…はたして、これは誠実な作品鑑賞の態度と言えるのだろうか?今のままでは、私はなぜ「そう感じた」のか、その理由を深掘りすることは出来ないように思う。

いつか私にも、「確固たる信念」を持てるときが来るのだろうか?そしてその時こそ、私の文章は「感想」から「批評」へと変わるのだろうか?…今の私には、ただ悩み続けることしかできない…




さて、それはそうと「人形の国のバレリーナ」を好きだという気持ちには変わりがないので、どこが好きなのか具体的に紹介してみようと思う!!!



ここすきポイント①つむぎの身長

え~私はロリコンではありません()
けれども、つむぎとラブリーとの身長差はなんだかグッと来るものがある!身長差を帽子でカバーしているのも背伸びしているようで微笑ましい。

この帽子は、ラブリーがつむぎを救出する際に紛失している。つむぎが”等身大”の自分を受け入れたということの暗喩なのだろうか…

ほんとにお人形さんみたいだ…

ここすきポイント②キュアプリンセスのドスの利いたがなり声

いや流石にドスが利きすぎでしょ~惚れてまうやん!!
キュアプリンセスの中の人は潘めぐみさん。ハンターハンターのゴンさんと同じというだけあって、「ハッ!」とか「ヤッ!」とかいう掛け声(空手でいう気合?)に全部濁点がついている。かっけ~。他3人のプリキュアが皆可愛いらしい声なので、いいアクセントにもなっていたと思う。ていうか、本作はキュアプリンセスがかなり目立っていたような…ジーク様との関係も良かったし…これはもう影のMVPですね。

ここすきポイント③挿入歌~ブラックファング撃破までの流れが神

「勇気が生まれる場所」、いや~名曲っすね…
直前の一人諦めずにブラックファングにたちむかうラブリーの勇姿、からの挿入歌に突入するタイミングが完璧すぎないか?

「声が嗄れるほど、叫んでる」という歌詞から始まるのだけども、そのタイミングはまさしく、人々がミラクルライトをふるいながら大声でラブリーを応援する場面とシンクロしている。…ここ絶対劇場すごかったんだろうな~
いつも涙が出る場面なので、多分劇場で見ていたら絶対に感情がパンクしていたと思う。俺もミラクルライト振りたかった…

ここの横顔イケメン過ぎるだろ…

「幸せなことばっかりじゃないし、思い通りにならないこともあるよね」
「現実。嫌なことはあるし、泣いちゃうことだってある。いっぱい凹むし、  
 傷つくことだってある。でもそれは自分だけじゃない、みんなそう」
「嫌なことがあっても、その先に幸せがきっとある」
「私たちには希望がある、幸せを生み出す力がある」
「たった一つでも、愛がある限り、私は、私たちは幸せを諦めない」

この一連のセリフに、ハピネスチャージプリキュアのすべてが詰まっている

ここメッチャ綺麗…

ブラックファング☆粉砕


同情の余地もないクソ野郎を粉砕するのは気持ちがいい!!
カタルシス、浄化完了です…

そしてつむぎの足の呪いが解かれる…
殴って解決しない問題だったはずなのに、この一連の流れには有無を言わさぬ説得力を感じてしまう…いやダメなんですよ?でも気持ちいい…
つむぎの足が治ってしまうがゆえに、唯一無二の作品になっている気がする…倒錯的。

うおおおお欲を言えばつむぎちゃんと一緒に躍るCGも欲しかったよ~
ちなみに「おしまい」で終わるプリキュア映画はシリーズ初とかいうどうでもいい情報がWikipediaに記されていた…


最期に
長々と結論のない文章を読んでくださった皆様に心からの感謝を。
そして、ありがとう「人形の国のバレリーナ」、ありがとう「年間読書人」氏!ご丁寧なコメントまでいただけたこと、この場にてお礼申し上げます。
この記事にて、現時点での私なりの言葉を紡いでみた次第です。
少しでも御笑覧いただけたなら、それに勝る喜びはありません。
本当にありがとうございました。


そのうち、「HUGっと!プリキュア」評もあげるかもしれません。…評になっているかは怪しいですが😭😭😭
それ以前に視聴が28話で止まっているのですが!?早く視聴しろよ
あ、でも「わんだふるぷりきゅあ」も見なきゃいけないし、そもそも「ひろがるスカイ!プリキュア」のまとめも(rya

おしまい

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