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「いじけ虫」

いじけ虫のかじった葉っぱをそのままにしておくと、たちまち他の葉っぱにも悪影響が出る。

「だから君みたいにうじうじ悩んでいる人の悩みを聞くのはやめたの」

僕たちは一本の木にすがりつく木の葉だった。

それに対して彼女の方はなんて自由なのだろう。きれいな羽を持った鳥だった。

彼女の好物は見た目の美しさに反してそのいじけ虫だった。

ただ最近では食が細くなったのか、その体は少しばかりやつれてさえ見えた。

「こういうのを食あたりって言うのかしらね」

「どうだろう。むしろいじけ虫の気に当てられたのかもしれないよ」

他の葉っぱ達は自分がいじけ虫に食べられないように彼女に助けを求めている。そんな声が辺りで鳴り止まない。

風が止むと辺りは静かになった。誰も文句を言えなくなる。

彼女は羽ばたいた。風が吹かなくても彼女は飛べる。その術を知っている。

「君も飛んでみたらどう」

僕と枝の境目を彼女は嘴の先で器用に切り離した。

僕の体は暴れるように地面に落ちていく。彼女は空中でアクロバティックな飛行技術を見せつけ去っていく。

そこに風が吹いた。

僕も負けじと風に乗ってみせた。どこまでも吹き荒れる。風は僕の一部になっていた。もしくは風の中の一部に僕はなっていた。

最後に地面に落ちてから、初めて空を飛んだようなあの感覚には至れなかった。程よい風が吹いても遠くに行くことはできなかった。けれども風が吹けばどこへでも行ける。小さな風も大きな風も全部が全部、僕の背中を押したり引いたりした。

「随分と旅をしたのね」

彼女はあの頃の青々とした潤いを失って枯れ葉になった僕を見つけ出して声をかけてくれた。

「よかったらあなたに手伝って欲しいことがあるの」

彼女が僕をつまみ上げて運び出した先は建物の端、木に近いような高さの場所だった。そこからは懐かしいあの木が見えた。しかし、いじけ虫に食い散らかされていた。

「もうすぐ子供が産まれるの」

彼女はあの頃とは違った優しい微笑みと艶めきを持っていた。

美味しいご飯を食べます。