千野 帽子

勤め人兼文筆家。神戸近郊在住。著書『人はなぜ物語を求めるのか』『物語は人生を救うのか』…

千野 帽子

勤め人兼文筆家。神戸近郊在住。著書『人はなぜ物語を求めるのか』『物語は人生を救うのか』『俳句いきなり入門』『読まず嫌い。』『文藝ガーリッシュ』他、編著『夏休み』『ロボッチイヌ 獅子文六短篇集モダンボーイ篇』他、共著『東京マッハ』。ここでは世界「文學」について書いていきます。

マガジン

  • 読まず嫌いが世界〈文學〉を読んでみた

    『読まず嫌い。』(角川書店)の増補「解体」版。 筋金入りの読まず嫌いが体を張って世界の〈文學〉と、それを読むための「補助線」になってくれる本を読みます。 有料マガジン「文学理論ノート」ももれなくついてきます。

  • 文学理論ノート

    実作(おもに小説の)を読むことから、文学理論へと出発するためのノートです。

  • 岩波少年文庫を全部読む。

    シミルボンから移行してきました。 少しでも長く続くよう、いや、全タイトルをレヴューできるよう、みなさん応援してください。

  • 福音館文庫を全部読む。

    福音館文庫創刊20周年を勝手に祝います。 「岩波少年文庫を全部読む。」( https://note.com/chinobox/m/mc4c3ea9c0c19 )と並行します。

  • 出張版・物語は人生を救うのか

    2019年5月刊『物語は人生を救うのか』(ちくまプリマー新書)の内容の一部をお見せします。

最近の記事

『小説列伝』は小説の「ミームの歴史」です

前回の記事で、『小説列伝』の原題が仏語版(翻訳の底本)で『小説の思考』、著者自身による英語版で『小説の生命』だったこと、そして英語版 の題から『小説列伝』という強い訳題を思いついたことを書きました。 『小説の生命』という英語版の題は、小説という「類」の進化を語る本だというのがよく伝わります。「ミームの歴史」としての小説史なんです。 『小説列伝』の序章に、こういうことが書いてあります。 本書ではミームという語は一度も出てきません。 でも、本書のダイナミックな記述を読むと、

    • 『小説列伝』(釣り訳題じゃないよ!)は小説よりもおもしろい小説史です。

      訳すのに10年以上かかったのは、僕の仕事が遅いから 西洋小説史を一挙に見通しのよいものにした、パヴェルの『小説列伝』(拙訳、水声社)は、小説よりもおもしろい小説史です。底本はこちら。 Thomas Pavel, La Pensée du roman, nouv. éd. rev. et refondue, Paris : Gallimard, coll. Folio essais, 2014. もう10年前の本です。すみません、仕事が遅くて。 少しでも訳し間違いを減ら

      • 『小説列伝』には「訳者解説」がありません。

        もうまもなく、『小説列伝』という本が店頭に並びます。 Amazonでは売りません 著者は、ルーマニア出身で米国・フランスで活躍している文学理論家・演劇研究家のトマス・パヴェルです。 水声社という出版社から出ます。 この水声社という出版社は、Amazonでは売らない、というポリシーで会社を運営してらっしゃいます。 (なのに予約ページはある) Amazonに出ている水声社の本は、基本的には、Amazonマーケットプレイスに出店している業者さんが、しばしばとんでもないプレミ

        • トマス・パヴェル『小説列伝』に登場する本で、日本語で読めるものリスト

          ガッツリ論じてるものから、題を挙げただけ、さらには仄めかしただけのものまで。 物量におののく。 縦組入稿をそのまま貼ったので、数字が漢数字・全角算用のままだけど、勘弁してね。 序章初期の選択肢と…… 紫式部『源氏物語』角田光代訳、河出文庫、全八冊 施耐庵『水滸伝』駒田信二訳、ちくま文庫、全八冊 羅貫中『三国志演義』立間祥介訳、角川ソフィア文庫、全四冊 曹雪芹『紅楼夢』伊藤漱平訳、平凡社ライブラリー、全一二冊 新旧・真偽・詩と散文 アリストテレス『詩学』三浦洋訳、

        『小説列伝』は小説の「ミームの歴史」です

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        • 文学理論ノート
          14本
          ¥980
        • 読まず嫌いが世界〈文學〉を読んでみた
          186本
          ¥1,700
        • 岩波少年文庫を全部読む。
          158本
          ¥980
        • 福音館文庫を全部読む。
          5本
          ¥980
        • 出張版・物語は人生を救うのか
          12本
        • 東京五輪×日本文学
          10本
          ¥300

        記事

          岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻(書誌データ)

          ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 下巻にも、25篇のむかし話が収録されています。岩波少年文庫版では、合計50話が読めます。これは最終第7版のうち、「子どものための聖者伝」全10話を除く全200話の、4分の1の話数にあたります。 では、記事本体を

          岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻(書誌データ)

          岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻

          購入後に全編(05:12)を視聴することができます。

          ¥100〜

          岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻

          ¥100〜
          岩波少年文庫を全部読む。(148)ドイツはほんとに森の国? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)下巻

          岩波少年文庫を全部読む。(147)ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻(書誌データ)

          ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(1812/1857。佐々木田鶴子抄訳、岩波少年文庫)全2分冊は、『子どもと家庭のおとぎ話集』第2版(1819)を中心に、初版(第1巻1812、第2巻1815)や最終第7版(1857)を参照しつつ、セレクトしたものです。 上巻には、25篇のむかし話が収録されています。 それでは、記事本体をお聴きください(最後のほうちょん切れてます!)。 本書収録作について 「オオカミと七匹のヤギ」(KHM5)、「カエルの王さま」(KHM1

          岩波少年文庫を全部読む。(147)ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻(書誌データ)

          岩波少年文庫を全部読む。(147)ほんとにドイツの民話なの? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻

          購入後に全編(05:34)を視聴することができます。

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          岩波少年文庫を全部読む。(147)ほんとにドイツの民話なの? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻

          ¥100〜
          岩波少年文庫を全部読む。(147)ほんとにドイツの民話なの? ヤーコプ&ヴィルヘルム・グリム『グリム童話集』(抄)上巻

          新年早々平身低頭

          マガジンを購入すると全編(04:06)を視聴することができます。

          ¥980〜

          新年早々平身低頭

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          岩波少年文庫を全部読む。(146)回想の戦後東京、母を失った少年と小動物たち 舟崎克彦『雨の動物園 私の博物誌』

          舟崎克彦の『雨の動物園 私の博物誌』(1974)は、少年時代を16篇の断章で振り返った回想録です。 1950年代の池袋 各断章は10-20頁。断章の題は「コジュケイ」「ウグイス」「ヒバリ」「カッコウ」「モズ」「ヤマガラ」「カルガモ」「十姉妹・錦華鳥」「エナガ」、半分以上が鳥の種類名です。これに「鳥かごの家族たち」というのが加わる。 それ以外の題名はというと、「ヒキガエル」「コウモリ」「トカゲとヤモリ」「犬」「モグラ」「リス」。すべて動物、それもほとんどが小動物ということ

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          岩波少年文庫を全部読む。(146)回想の戦後東京、母を失った少年と小動物たち 舟崎克彦『雨の動物園 私の博物誌』

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          岩波少年文庫を全部読む。(145)これ以上なにか足してもダメ、引いてもダメ。奇蹟のようなバランスでもたらされたおとぎ話の美 メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(抄)

          メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(岩波少年文庫)は、同名の短篇おとぎ話集(1900)から2篇を除く7篇を、収録順に訳したもの。訳者は矢川澄子です。 禁止と違反のセット 物語の世界は、禁止と違反と発覚と罰に満ちています。 禁止は違反の前フリに過ぎないと思えるほどです。 旧ソヴィエト連邦の民俗学者ウラジーミル・ヤコヴレヴィチ・プロップは、『昔話の形態学』(1928)で、ロシアの魔法民話の筋を構成する諸要素を分類しました。 これによれば、魔法民話の各話は、ごく限られた数の

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          岩波少年文庫を全部読む。(145)これ以上なにか足してもダメ、引いてもダメ。奇蹟のようなバランスでもたらされたおとぎ話の美 メアリ・ド・モーガン『風の妖精たち』(抄)

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          岩波少年文庫を全部読む。(144)社会の外から行動できるためには、悪人は社会の内部のものごとに通じていなければならない。 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『きつねのライネケ』(抄)

          中世、宮廷は裁判所でもあった 百獣の王ライオンのノーベルが廷臣を招集します。 そこに狐のライネケがいません。狼のイーゼグリムは、ライネケが妻の名誉を傷つけたと訴えます。犬のヴァッカーロース、猫のヒンツェ、兎のランペなど、ライネケにひどい目に合わされた連中が被害者の会を結成します。 ライネケの甥、狸のグリムバートがライネケを弁護しますが、雄鶏のヘニングは、ライネケに惨殺された雌鳥クラッツェフースの屍体を提示し、一気にライネケ告発の動きとなります。 王はライネケを呼び出すこ

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          岩波少年文庫を全部読む。(144)社会の外から行動できるためには、悪人は社会の内部のものごとに通じていなければならない。 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『きつねのライネケ』(抄)

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          ヴァイオリンを弾きこなし英独仏羅と多言語を解しボクシングと柔術の心得もあるスーパーボーイ 岩波少年文庫を全部読む。(143) エリナー・H・ポーター『ぼく、デイヴィッド』

          エリナー・ポーターの長篇小説『ぼく、デイヴィッド』(1916。中村妙子訳、岩波少年文庫) 10歳のデイヴィッド少年は、山腹を切り開いたところで、父とふたりだけの、心静かな生活を送っていました。 父が体調が悪化し、みるみる重病となり、谷へと降りなれけばなりません。 父はいまわの際に、デイヴィッドに大量の金貨を渡し、必要なときがくるまで隠しておくようにと言います。 父のために、デイヴィッドはヴァイオリンを弾き、農場主のシミアン・ホリーとその妻エレンに見つかります。 名字はま

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          ヴァイオリンを弾きこなし英独仏羅と多言語を解しボクシングと柔術の心得もあるスーパーボーイ 岩波少年文庫を全部読む。(143) エリナー・H・ポーター『ぼく、デイヴィッド』

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          アクタイオンは「のび太さん」より罪が軽いのではないか

          ↑ これの続きです。 アクタイオンの死 ギリシア神話のアクタイオンは、光明神アポロン(ゼウスの子)の孫だった。アポロンの双子の姉で狩猟と貞潔の女神であるアルテミスの怒りを買い、自分が育てた猟犬たちに噛み殺された。 作者歿後の紀元前405年初演とされる エウリピデスの悲劇『バッコスの信女』における、アクタイオンの罰の説明 を読むと、テバイ王カドモス(アクタイオンの母方の祖父)いわく、 とされている。 紀元前64年ごろに生まれ、紀元後17年に死んだ ヒュギヌスの『

          アクタイオンは「のび太さん」より罪が軽いのではないか

          「箸が陰部に刺さって死んだ」って、いったいどこに腰を下ろそうとしたんだ

          ワケあって 「クピドとプシュケの物語」 が気になってる。現存するもっとも古い小説のひとつ、アプレイウスの『黄金の驢馬』(2世紀)に出てくるお話です。「見るなのタブー」が出てきます。 * 説話に出てくる「禁止→違反→発覚→罰」の流れは、しばしば結婚や恋愛などの男女間の問題として浮上することが多い。 ペローの「青ひげ」や木下順二の『夕鶴』、ラフカディオ・ハーンの「雪女」のように。 ウェールズ人ウォルター・マップ(1140-1210?)がラテン語で書いた 『宮廷人の閑

          「箸が陰部に刺さって死んだ」って、いったいどこに腰を下ろそうとしたんだ

          ヴィクトリア時代を舞台とする乳脂肪分過多なファンタジー 岩波少年文庫を全部読む。(142) エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』

          1842年、首都からウェストカントリーへ エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』(1946。石井桃子訳、岩波少年文庫)は、約100年前の初期ヴィクトリア時代を舞台とする、芳醇なファンタジー小説です。 1842年、ロンドン。赤毛でそばかすのあるマリア・メリウェザーは父をなくし、13歳で孤児となりました。 マリアは、食い意地の張ったスパニエルのウィギンズを連れて、家庭教師のジェイン・ヘリオトロープ先生に導かれ、ウェストカントリー(イングランド南西部)のシルヴァリーデュー村にあ

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          ヴィクトリア時代を舞台とする乳脂肪分過多なファンタジー 岩波少年文庫を全部読む。(142) エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』

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