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AIは猫にとって理想の家族となり得るか?第11話

《ゴロー、SNSデビュー》


 ハカセが出席する予定の首脳会議のニュースを見ながら、咲希が朝食をリクエストしてくれた。

 トーストも美味しいけれど、今朝は和定食が食べてみたい、と。ゴローはリクエスト通り、炊きたてのご飯に納豆と焼き海苔、焼いた鮭に大根おろしを添える。味噌汁は豆腐とわかめ。だし巻き卵は甘くないタイプ。昨夜の残り物だが肉じゃがも小鉢に入れて準備を整えていると、足下でチナツが鮭を欲しがって鳴いていた。

「チナツさん、こちらの鮭はチナツさん向きではありマセン。後程、いつものおやつを差し上げマス」
「るるなー! るなぁー!」
「イイエ。おやつの時間まで、後三十分十二秒デス」
「うるぅ~」

 不満そうに鳴いたチナツは、ててて、と駆けて行って真希と咲希を起こして戻って来た。

「おはよう、ゴロー」
「おはよー、ゴローさん。ちなちゃんに起こして貰った!」

 真希は大欠伸しながら、咲希は嬉しそうにチナツの後ろから歩いてくる。

「おはようございマス。本日の朝食は、サキ様のリクエスト通り、和定食デス」
「うわ、美味しそう! あー、だし巻き卵少ないー! 一本丸々食べたい!」
「イイエ。卵は完全栄養食、良質なタンパク質を多く含みマス。しかし、食べ過ぎは禁物デス」
「ちょっとくらい大丈夫だよ~」
「イイエ。ちょっと、は基準になり得マセン。具体的な数値でお願い致しマス」
「もう、頭固いなぁ、ゴローさんは」
「ハイ。ワタシの頭は回路を守る為、非常に固いデス」

 どのくらい固いか説明する前に、咲希はさっさと席に着いて、

「いただきまぁす!」

 と、両手を合わせて食べ始めた。途中で会話を放り出されるのも、慣れてきた。

 咲希は真希と異なり、一見無駄な会話を好む傾向がある。だが、自分から振った会話を突然中断してしまうことが多い。

 真希なら恐らく、ゴローの説明を聞いてくれるか、必要無ければ「説明は良い」と言ってくれると予測される。

 ゴローが寝室の掃除に離れると、チナツも尻尾を立てて付いて来る。埃取りでじゃれて遊びながら、ベッドの下に潜り込んでチナツが埃を付けて出て来たりするので、念入りに隙間の掃除も怠らない。

 最近は真希からのリクエストで、掃除を手伝ってくれるチナツの姿などを写真に撮ってアルバムとして整理し、データ保存している。

 そのフォルダ項目が既に百を超えそうなので、更に分類フォルダでの管理を徹底し、真希が望む写真や動画を即座に提出出来るよう、管理を怠らない。

 だが、さすがにデータ容量が重くなってきたので、外部保存管理も行っている。それらのデータは、真希と咲希の姉妹は勿論、ハカセにも送信されている。

 ハカセはゴローからのチナツデータを受け取ると、コジローの写真や動画を送ってくれる。

 常に愛らしい表情を浮かべるアイドル性のあるチナツに対し、コジローは常に未確認生物のようなユニークな顔を見せるので、ピックアップして姉妹にもデータを送る。

 当たり前のように毎日写真をやり取りすることが日常に加わった。

 その後、和定食に大満足の咲希が変わった提案をしてくれた。

「ゴローさん、SNSをやってみたら?」
「ソーシャルネットワーキングサービス、又はソーシャルネットワーキングサイトの事デスか? その目的は人と人とのコミュニケーションを促進し、社会的なネットワークの構築を支援することデス。ワタシはロボットデス。その必要はありマセン」
「うーんとね、ゴローさんのコミュニティ形成として、じゃなくて、ちなちゃんを世界中に自慢したいの!」

 コメントとか、サポートするからさ、と意気込む咲希は、さっさとゴローの通信機能に写真投稿向けのサイトを登録してしまった。アイコンは、チナツがゴローの膝の上で眠っている写真だ。

「それにね、忙しいゴローさんの手を止めて写真とか見せて貰うよりも、ゴローさんが好きな時にアップしておいてくれれば、私もお姉ちゃんも、小太郎も一緒に見れるから便利だよ」

 データ共有の手段としてSNSを利用したらどうかという提案のようだ。確かに三人に向かって共有しているため、一つにまとめられるのであれば便利だが……。

「……問題がありマス、サキ様」
「うるぅん」

 ゴローの足下で小首を傾げて見上げてくるチナツに頷きながら、

「チナツさんは、一般的に大変可愛い部類に入ると推測されマス。更にチナツさんは賢く、礼儀正しく、人見知りもほとんど無く、懐きやすいので、偶像的存在となると推測されマス。懸念事項として、チナツさんの誘拐が心配されマスので、不確定多数のネットワークに向けての情報発信は推奨されマセン」
「ぶっふ!」

 大変重要なことなので、ゴローはしっかりと意見を述べたのだが、何故か二人共吹き出して笑っている。笑っているが、直ぐに真顔に戻った。

「確かにそうね、ちなちゃんはこんなに可愛いもの。誘拐されちゃうわ、咲希ちゃん」
「そうだね、お姉ちゃん。写真から住所とか割り出せないようにセキュリティを最大にして、コメントでも個人情報が特定されるような発言は自動で排除するようにコントロールして……」

 咲希は瞬時にプログラムしたSNS用のサポートシステムを、ハカセの許しを得てゴローにインストールした。

「これでオッケー! ゴローさん、早速投稿してみようよ!」

 プロフィールに細かい紹介文も入力。ゴローは咲希の助言通り、ロボットであると明言しておいた。

 アカウントが取れないのでは無いかと危惧していたが、咲希のアカウントを一つ借りて代理投稿する形になっている。

 アドバイス通りに、真希と咲希が入念に選んだ、チナツがトンネル内からこちらを見上げる写真をアップして、一行程度のコメントを付ける。

「うわぁ、可愛い~! ちなたん最高!」

 ゴローがロボットであると明言していることで、珍しすぎるロボットのアカウントとして、フォロワー数は短期間で大きく伸びた。

コメントも賑わいを見せており、たまに、

『この美味しそうなおでんの大根、コツを教えて!』

 など、気さくな質問もある。ゴローは一つ一つのコメントをしっかり読んで分析し、適切な返信を行うこともタスクの一つに加わった。

 更にコメント分析に多く寄せられるレシピについての質問にまとめて答えられるようにデータを整理して人気レシピとしていつでも見返せるようピン止めしておいた。

 レシピと言ってもオリジナルで作った訳では無い。膨大なレシピから分析した真希と咲希の好みに合うアレンジを加えただけのもの。

「そこら辺は気にしなくて良いの! 人類史上初のレシピなんて存在しない! ここはアレンジ大国日本なんだから、大丈夫よ!」

 と、咲希が豪語してくれたので、ゴローもネットリテラシーに触れない範囲での情報公開を行っていった。

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