アメリカで月140万円稼ぐUber運転手に「なぜUberで働くの?」と聞いてみたら。
「なぜUberの運転手として働いているんですか?」
年末年始に行ったアメリカ、ロサンゼルス。市街地まで走る高速道路で、ライドシェアサービス「Uber」の運転手さんに私は聞いてみた。
「それには3つ理由があってだな‥」
中国人の50代くらいの男性運転手は、あらかじめその答えを用意していたかのように、弾丸のように話しはじめた。私はそれをスマホにメモするため、急いで親指を走らせる。彼の話すことすべてが、前日に行ったディズニーランドより、わくわくする内容だったからだ!
「君、中国人なの?」
その50代くらいの男性ドライバー(名前はチェンさんとしよう)は、私の夫が中国人だとわかると、嬉しそうに陽気に話しかける。
「僕も中国人だよ!上海出身だ。君はどこの人?」
それまでの英語での静かな声色がガラッと変わり、流暢な中国語で弾丸のように話しはじめた。私も中国語がわかるので話を聞いてみると、彼の話がまあ面白いのだ。
「僕はね、妻と24歳の息子を上海に置いて、ひとりでアメリカで働いているんだ。もう9年ずっとアメリカにいる。息子は数年前にアメリカの大学を出たけど、今は中国で働いているよ。でも僕も投資で稼いだりしているから、息子には『仕事が嫌になったらいつでも戻っておいで』って言ってるんだ」
日本のタクシーだったら、こんな話ってするだろうか?Uberは運転手の車に乗せてもらうので、なんだかその運転手の家に招かれている感覚になる。だからこうしたプライベートに踏み込んだ話もしやすくなる。
中国では会社の経営をしていたというチェンさん。いったいなぜUberの運転手をやることになったんだろう?私は素朴な質問を、一か八か投げかけてみた。きっとチェンさんなら答えてくれるような気がした。
「それには3つの理由があるんだ」
チェンさんはあらかじめこの答えを用意していたかのように、その理由を弾丸トークで説明し始めた。面接官の質問に答えるみたいに「3」の数字を出して説明を始めるところが、できるビジネスマン風だ‥!
「1つはね、会社内の人間関係のストレスがないから。中国で経営者として自分がトップで働いていたから、今さらアメリカに来てまで誰かに雇われたくなかったんだよ」
たしかにUberはずっと一人で働くから、人間関係のストレスは皆無だろう。
「2つめに、時間が自由だから。何か用事があれば、その日は丸一日仕事を休むことだってあるよ。朝はだいたい9時に起きて、夕方まで運転する。夜は目が見えづらいから働かないことにしてる。とっても自由さ。それでも月収10,000ドル(=24年1月のレートで約140万円)は稼げるよ」
「ええええ。すごい。そんなに稼げるんですね・・!」私が驚くと、チェンさんは続けた。
「日本人は長時間働くだろう?残業もたくさんして。その割には、もらう給料が少ない気がする。アメリカだと、掃除スタッフでさえ、日本の新卒社員の初任給の3倍はもらっているんだよ。最小限の力で働いて、最大限稼いで、残った力を自分の自由時間に使ったほうがいいだろう?私は来年には、アメリカで稼いだお金で、日本に家を買おうと思ってる。日本の環境は本当に綺麗だし、上海よりも圧倒的に家が安いから」
チェンさんの言葉ひとつひとつに驚いてしまう。世界の中での、今の日本の立ち位置を、この人と話しているとリアルに感じる。チェンさんは、日本の大手電機メーカーと取引のある会社を経営していたという。だから日本のこともよく知っていた。
「Uberで働く3つめの理由は、英語を使った仕事がしたかったからさ。Uberの運転手は、基本的な英語が使えれば問題なく働ける。でもこうしてお客さんと会話していると、自然と”今の”英語を勉強するきっかけになるだろう。私が渡米した8年前と今とで、使われる英語も少しずつ変わっているから」
たしかに英語が得意ではない外国人にとって、Uberで働くのはおそらく問題ない。「どこへ行く」「金額はいくら」など必要なコミュニケーションは、すべて母国語が表示されたUberアプリ上で完結する。話す必要があれば、スマホの翻訳機を使えばなんとかなる。
今回の旅でも、私が質問した英語がわからない人もいて、「文字で書いてくれる?」と言われたこともあった。運転手の国籍も、アメリカ人ももちろんいたけど、ベネズエラ人・ウガンダ人・トルコ人・中国人など多種多様だった。
チェンさんが運転していたのは、テスラの車だ。この旅で乗ったUber車のほとんどがTOYOTA、その次がテスラだった。私が見た感じ、テスラの車はナビが大きくて、周囲の車や人がそこに表示され、私の超苦手な車線変更や駐停車がしやすそう。私は思わず次の質問を投げかけてみる。
「テスラは実際、運転しやすいですか?」
「それで言うと、技術は日本の車の方が上だな」
チェンさんは私の質問に、またもバサッと即答。私が日本人だから忖度しているという風でもなく、心からそう言っているようだった。その証拠に、理由をまたとめどなく話してくれた。
「日本の科学技術は本当に素晴らしい。何か物をつくらせたら、日本の商品がいちばん質が高いと思う。車だったら、日本とドイツの技術が上をいっている」
今回、アメリカ車をレンタカーで運転し疲弊していた夫も、これには激しく同意する。
「じゃあなぜ、テスラが売れているのか?それは『売り方』つまり、ブランディングが上手いからさ。テスラは、経営者のイーロン・マスクがロケットをつくったり、Twitterを買収したり、それらがいちいち話題になっている。すると絶えず、何か革新的なことをやっているイメージがあるだろう?それが車のイメージに影響しているんだ」
確かに、私も今回テスラ車に乗れることにワクワクしてしまったことは否めない。それになんだか車体のデザインが細部まで洗練されていて、カッコイイ。ナビも大きくて見やすそう。私もまんまと、イーロン・マスクのイメージ戦略にのせられている!
「Appleも同じだ。iPhoneは、世界中の国で安くパーツを作らせ、それをアメリカが高く値付けして売っている。なぜ高く売れるかといえば、やっぱりブランディングが上手いからさ。アメリカは本当に商売が上手い。対して日本は、素晴らしい商品をつくる技術はあるのに、商売が下手なように思う」
私はチェンさんの話をメモするために、手元に握りしめていた自分のiPhoneを見つめる。日本の商品が売れるために広告をつくる私としては、ちょっと耳が痛い。私が相槌を打つ間もなく、チェンさんは続けた。
「日本の有名なラーメン屋の社長に、知り合いがいてね。そのラーメンが本当に美味しいんだよ!世界中誰も真似できない味だった。その社長に聞いてみた。『世界でチェーン展開しないのか?』って。すると逆に『なんでチェーン展開をする必要があるんだ?』と返されてしまったよ。自分で小さな店をやって、来てくれる人だけに食べてもらえばいい、そういう発想だった。
対して、中国には『味千ラーメン』っていう有名なチェーン店があるだろう?味で比べたら、味千ラーメンよりも、その社長のラーメンの方が圧倒的に美味しい。でも味千ラーメンは今や、アメリカでもチェーン展開している。商売としては大成功しているんだよ」
むむ、なるほど。私もいちおう個人で会社を経営している。「いいコピーを書きたい」「いい広告をつくりたい」という、職人的な目標はあったけれど、人材をガンガン雇って会社を大きく拡大させていこうという経営者としての思惑は全くなかったので、日本のラーメン屋さんの発言にはかなり共感してしまう。でもビジネスとして成功するのは、必ずしも質が高いものではなく、売り方が上手いものなのだ。
私は最後に、アメリカの教育について聞いてみた。チェンさんの息子さんは、最近までアメリカの大学へ行っていたという。
「中国や日本などアジアの教育は、できなかったところ・ダメなところを指摘したり怒ったりするだろう?すると社会に出てからも失敗するのを怖がって、自信がなくなり、仕事を任されても『できるかわからないけど、やってみます』と消極的になってしまう。
アメリカでは、どの子も『お前が一番すごい』『お前は素晴らしい人間だ!』と言って育てられる。すると教育で自尊心が生まれるので、仕事で何かを任された時も「自分ならきっとできる、とりあえずやってみよう」と思えるんだ。失敗してもいい、できると思うことができるんだ」
私はこれがアメリカでイノベーションが生まれる理由なのではないかと思った。間違っても失敗してもいいから、とりあえずやってみる。そんな気持ちになりやすい構造だと思った。
「それに中国や日本と比べると、アメリカではイジメが少ない。どんなに成績の悪い子でも太っている子でも、みんな『お前は素晴らしい』と言って育てられるから、自尊心があるんだ。学校の成績が悪かったら、コミュニケーション力や、スポーツなどで挽回できるし、それらをトータルで見て判断される。自分は自分、他人には他人の良さがあるから、誰かを見て比較して笑ったりしない」
最近も、息子が宿題ができていない時に、つい怒ってしまった私はここでとても反省した。親からダメなところを指摘されたり、怒られたりしていたら、それを他人にやりたくなってしまうのは当然のことだ。もっともっと、息子たちの良いところを口に出して表現していこうと思った瞬間だった。
「日本の大学は質が高いけど、数が少ないから、競争率が高くなってしまうだろう?でもアメリカは大学の数が多いから、入れるチャンスも多いんだ。子供はアメリカの大学へ留学させ、卒業後は日本や中国の欧米系外資系企業で働けば、給料はアメリカ並みに高いのに生活費は安くなるから一石二鳥さ」
チェンさんは、私たちの息子に向けたおすすめの教育プランまで提案してくれて、まさに目から鱗だった。
Uberに乗る40分間、私はこんな話が聞けるとは思いもよらなかった。
チェンさんの話を聞いていると、日本人がアメリカに出稼ぎをし、日本に住む家族に仕送りをするという未来は、そう遠くないのでは?と思えてくる。また私はいつか海外で働いてみたいなと思っているけれど、その夢も叶えようと思えば、叶える方法はいくらでもある気がしたのだ。
また日本でもそろそろライドシェアの解禁が話題になっているけれど、個人が副業などで稼ぐチャンスは今後もっと拡大するのだろうと思えた。
Uberに乗って思いがけなく、希望を見つけた日のことだった。次回はUberの便利さに感動した話をお届けします。
コピーライター 小森谷友美
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