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中国の黒戸(戸籍のない子供)

2015年から、中国の一人っ子政策が緩和され、
第二子まで認められるようになった。
それまでの中国では、二人目が生まれると、
戸籍を取るのに10万元程度、お金が必要でした。
この話は、2008年の頃の話。

中国の工場のトラックの運転手が笑いながら言った。 

「うちの子、黒戸なんだよね。 
5才になるまでに戸籍が買えるまでお金を貯めないと、
幼稚園にも行けないんだ。 
だから、この仕事を首になるのは困るんだ。」 
トラックの運転手の月給は350元~550元、
運搬する荷物の量などにもよりかわる。 
子供の戸籍は10万元、5年でたまる金額ではない。 

そう言って噛みタバコを噛んでは赤い歯を見せて笑った。

5才までにお金がたまらないと、
運転手の子供は幼稚園にも小学校にも行けない、
病院にも行けない、戸籍が無いから。 
そのような子供が中国にはたくさんいる。 
ここ数年、一人っ子政策は変わったが、
小学校に行っていない子供が、中学から学校に行く。 
ついて行けるわけもなく、ドロップアウトする。 
チンピラがまた一人増えただけだ。

長安で知り合ったチンピラが、
「自分、黒戸だったんだ。」と言った。
「10才ぐらいまでは田舎で、近所の農家の手伝いなどをしていたが、
戸籍を買える見通しが立たないので、長安に出てきた。」
「長安にいる江西の実力者の所に行ったら、
黒戸が出来る仕事は無いと追い出されて、
長安の街でスリなどして生きてきた。」
「その内、東和会の大哥アニキに拾われて、
ここでエロVCDを売っている。」
彼も、訛がひどい、自分もかなり訛っているので、
エロVCDを漁っている内に、自然と
「どこから来た?」
「日本」
「嘘だろう? 日本人が普通話を話せるはずがない。」
「そうか? でも、日本人だぞ。」
「そんなこともあるのか。」
納得したのか、してないのか、騙されたと思ったのか、分からないが、
この頃から、屋台の脇に座って、ビールを奢るようになり、
それなりに親しくなった。
休日の昼間、市場をうろついていると、
多分大哥アニキに殴られている彼を見かけたが、
そのまま市場をうろついていた。
陽が落ちて、彼の屋台に行くと、手当を受けた彼が、
「よう! 日本人!」と声を掛けてきた。
昼間、見かけた話をすると、
兄貴に頼まれた仕事に失敗して殴られたと話し始める。
大哥アニキは学校を出ているので、新聞も読めるし、仕事も早い。
そう言えば、お前はエロVCDばっかり買うが、
ヤクは買わないのか?」
「そうだな、バイアグラでも買うかな?」
「やめとけ、ここいらで売っているバイアグラはみんなニセモノだ。
それよりヤクは良いモノが手に入るぜ。」
そんな彼とも、3年ぐらいは付き合ったが、
いつの間にか、市場から姿を消し、行方知れず。
多分、黒社会の抗争か、仕事に失敗して、
逃げたか、殺されたかしたのだろう。

そのような話がゴロゴロ転がっていた、中国がまだ貧しい頃の話。

政治が急に変わって、二人目を認めても、
その前に生まれてしまった子供はドロップアウトするしかないのが、
実情だった。

自分が知る中国の現実。

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