スリランカ民主社会主義共和国の今 2022年08月19日
経済危機に陥り、対外債務の返済を停止している、スリランカのウィクラマシンハ大統領は、日本に対し、債務再編に向けて債権国を集めた協議を主導するよう求める意向を、メディアとのインタビューの中で示しました。
2022年8月19日 18時42分 NHK WEB NEWS
なぜ、最大の債務国である中国でなく、日本なのか。
良く言われているように、中国が最大の債務国と思われていますが、実は違います。
2021年4月までの債務を見て見ると、日本と中国の債務はほとんど差がありません。
何が問題かと言うと、中国でも、ロシアでも言われているデフォルトです。
デフォルトが起きると何が起きるのでしょうか。
まず、信用がなくなり、資本市場から資本が撤退します。
当然、物価高騰、インフレが始まります。
それに伴い、貨幣価値が暴落して、紙くずになります。
基軸通貨であるドル高払いでないと、輸入が出来なくなります。
現在のスリランカはこの状態で、まだまだ、貨幣価値は下がると思います。
2022年1月は1ドル=201ルピーで交換できましたが、5月には359ルピー必要で、2022年8月19日は363ルピーです。 現在は小康状態と言えますが、これから、持ち直すには債務をどうにかする必要があり、冒頭のニュースにあるように、債務再編が必要になります。
ここで日本のスリランカに対する債務とODAのここ10年間の変遷を見てみましょう。
平成24年(2012年) マヒンダ・ラージャパクサ大統領
有償 411.07億円 ODA 32.26億円
①アヌラダプラ県北部上水道整備計画(フェーズ1):51.66億円
有償 金利 1.4% 償還期間(年)/うち据置期間(年) 25/7
②国道土砂災害対策計画:76.19億円
有償 金利 1.4% 償還/据置(年) 25/7
③国道主要橋梁建設計画:123.81億円
有償 金利 0.2% 償還/据置(年) 40/10
④大コロンボ圏送配電損失率改善計画:159.41億円
有償 金利 0.3% 償還/据置(年) 40/10
⑤人材育成奨学計画:2.11億円
ODA
⑥北部州紛争影響地域における地域社会インフラ施設再建計画
(国際連合人間居住計画(UN-Habitat)連携):3.45億円
ODA
⑦医療機材ノン・プロジェクト無償資金協力:5.5億円
ODA
⑧中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力:2億円
ODA
⑨浚渫船建造計画:9.8億円
ODA
⑩高速道路・道路交通情報提供システム整備計画:9.4億円
ODA
平成25年度(2013年) マヒンダ・ラージャパクサ大統領
有償 487.37億円 ODA 18.49億円
①ケラニ河新橋建設計画:350.2億円
有償 金利 0.1% 償還/据置(年) 40/10
②地上テレビ放送デジタル化計画:137.17億円
有償 金利 0.1% 償還/据置(年) 40/10
③人材育成奨学計画:1.92億円
ODA
④国連世界食糧計画(WFP)を通じた食糧援助:2.2億円
ODA
⑤ノン・プロジェクト無償資金協力
「途上国の要望を踏まえた工業用品等の供与」:4億円
ODA
⑥北部州及び東部州における地域社会インフラ施設再建、
生計向上及び女性の能力強化支援計画
(UN連携/UN-Habitat実施):3.77億円
ODA
⑦日本方式普及ノン・プロジェクト無償資金協力
(医療・保健パッケージ):5億円
ODA
⑧国連世界食糧計画(WFP)を通じた食糧援助
「途上国の要望を踏まえた水産加工品の供与」:1.6億円
ODA
平成26年度(2014年) マヒンダ・ラージャパクサ大統領
ODA 9.22億円
①人材育成奨学計画:2.15億円
ODA
②我が国の中小企業製品を活用した
ノン・プロジェクト無償資金協力:2億円
ODA
③マナー県におけるコミュニティ主体の学習環境改善を通じた
持続可能な再定住計画
(UN連携/UN-Habitat実施):5.07億円
ODA
平成27年度(2015年) マイトリーパーラ・シリセーナ大統領
有償 703.58億円 ODA 38.64億円
①全国送配電網整備・効率化計画:249.3億円
有償 金利 0.3% 償還/据置(年) 40/10
②バンダラナイケ国際空港改善計画(フェーズ2):454.28億円
有償 金利 0.1% 償還/据置(年) 40/10
③無償資金協力(東日本大震災の被災地を含む地方で生産される
機材・製品等を購入するための資金をスリランカへ供与):5億円
ODA
④人材育成奨学計画:2.26億円
ODA
⑤キリノッチ上水道復旧計画(追加分):2.48億円
ODA
⑥食糧援助:28.9億円
ODA
平成28年度(2016年) マイトリーパーラ・シリセーナ大統領
有償 331.37億円 ODA 62.5億円
①アヌラダプラ県北部上水道整備計画(フェーズ2):231.37億円
有償 金利 1.4% 償還/据置(年) 25/7
②開発政策借款
(民間セクター振興,ガバナンス向上及び財政健全化):100億円
有償 金利1.4% 償還/据置(年) 25/7
③ジャフナ大学農学部研究研修複合施設設立計画:16.67億円
ODA
④海上安全能力向上計画:18.3億円
ODA
⑤人材育成奨学計画:2.31億円
ODA
⑥食糧援助:22.2億円
ODA
⑦ルパバヒニ国営放送局番組ソフト整備計画
(一般文化無償資金協力):0.52億円
ODA
⑧経済社会開発計画:2.5億円
ODA
平成29年度(2017年) マイトリーパーラ・シリセーナ大統領
有償 554.06億円 ODA 39.73億円
①カル河上水道拡張計画(第一期):318.1億円
有償 金利 1.4% 償還/据置(年) 25/7
②復興地域における地方インフラ開発計画:129.57億円
有償 金利 1.4% 償還/据置(年) 25/7
③保健医療サービス改善計画:106.39億円
有償 金利 0.1% 償還/据置(年) 40/12
④経済社会開発計画:10億円
ODA
⑤人材育成奨学計画:2.62億円
ODA
⑥人材育成奨学計画:2.08億円
ODA
⑦気象ドップラーレーダーシステム整備計画:25.03億円
ODA
平成30年度(2018年) マイトリーパーラ・シリセーナ大統領
有償 300.4億円 ODA 4.28億円
①コロンボ都市交通システム整備計画(第一期):300.4億円
有償 金利 0.1% 償還/据置(年) 40/12
②人材育成奨学計画:2.65億円
ODA
③女性及び若者のための性及び生殖に係る健康及び権利
並びに性別に基づく暴力に係る情報及びサービスへの
アクセス改善計画(UNFPA連携):1.63億円
ODA
令和元年度(2019年) ゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領
ODA 12.18億円
①経済社会開発計画:10億円
ODA
②スリランカにおける女性・平和・安全保障アジェンダ実施計画
(G7女性・平和・安全保障パートナーシップ・イニシアティブ)
(UN連携/UN Women実施):2.18億円
ODA
令和2年度(2020年) ゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領
ODA 17.56億円
①経済社会開発計画:8億円
ODA
②人材育成奨学計画:2.69億円
ODA
③経済社会開発計画:2億円
ODA
④国連世界食糧計画(WFP)を通じた食糧援助:3億円
ODA
⑤新型コロナウイルス感染症の流行により帰還した
スリランカ人移民労働者の社会経済的再統合支援
(IOM連携):1.87億円
ODA
2012年から2020年までで、有償 2787.45億円 ODA 234.86億円あります。
有償、無償を合わせると、3022.31億円の融資をしていることになり、日本からの債務で、有償なモノを見て見ると、金利は高くて 1.4%で、据え置き期間も短くて 7年、長いと 12年もありますので、日本の債務の取り立ては、7年以上前に締結した有償の分になります。 また、返済期間も 25年とか 40年で、スリランカもこれくらいなら返せる可能性があります。
中国の場合は、ひどいもので、金利 6.3%、据え置き期間ゼロ年、引き渡しと同時に返済が始まります。
2020年以降のデータは見当たらないので、ない可能性もありますが、ある可能性もあります。 良い悪いは別にして、このように日本はつい最近まで、スリランカに援助をしていると言う事実も知ってください。
有償融資のデータはここを参照しています。
ODA のデータはここを参照しています。
まぁ、ラージャパクサ大統領一族が、中国からの融資の多くを自分の関連企業に還流し、中抜きをして、資産をためたと言うのが、一番の問題ですね。
スリランカの現大統領、ラニル・ウィクラマシンハ大統領としては、ラージャパクサ大統領一族の前に、良好だった日本との関係から、何とか中国の債務を日本の長期の債務に再編して、国を立て直したいと思っているようですが、少なくとも、ラージャパクサ大統領一族の資産を凍結して、国に返還しないと、難しいと思います。 現状、デフォルトしているので、日本が中国の分を肩代わりしても、市場はすでに逃げ始めているので、資金の調達が出来ないし、アジア開発銀行も、世界開発銀行も、資金を出すとは思えませんので、スリランカは国として破産しています。 中国は中国独自の戦略で融資をしていますが、追加融資をするのは国内事情から、難しいし、土地やインフラばかり摂取しても、維持費など、費用が掛かるばかりで、軍事目的以外では、意味はありません。
政治的な対立があったり、民族的な対立があったり、色々、大変な国ですが、仏教徒はハエも殺さない人々ですし、ヒンズー教徒も、モスリムも、スリランカ内では、上手く、分離して生活しています。
現在、スリランカにある日系企業は、約180社で、三井造船、日本郵船、商船三井、伊藤忠商事、双日、豊田通商、YKK、ノリタケ等の大手企業から、中小の優良企業まで、数多くの日系企業があります。
ジェトロ・コロンボ事務所が日系企業に聞き取り調査をした結果、
上記のように半数以上が悪影響があると回答し、
通常通り操業していると答えた企業が76%あり、
企業規模を縮小、撤退を考えている企業が14.7%程度となりました。 このデータを見ても、スリランカの日系企業は現状維持で、何とかづリランカで企業を続けていきたいと思っているようです。
過去に、居たことの国ですので、何とか持ち直してほしいですが、現状は難しいとしか言いようがありません。
企業を続けるのは色々、理不尽を乗り越えて行かないといけないモノなのでしょう。
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