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BL漫画の装丁デザインができるまで!作家・編集者・デザイナにインタビュー

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※当記事は過去ちるちる記事を再掲しています。

先日、ちるちるBLニュースでBLの表紙デザイナーについてまとめたところ、予想外の大きな反響がありました。

「もっとこういう企画をやってほしい」とのコメントも寄せられたことから、BL読者のデザインへの関心の高さがうかがえます。

そんな声に応えて、BLの装丁デザインがどうやってできあがるのか、実際にデザインに関わる方々に聞いてみました!

今回質問に答えていただいたのは、青年誌などBL以外のシーンでも幅広くご活躍中の漫画家・高橋秀武先生と、5月25日に発売された高橋先生の初BLコミックス『雪と松』の表紙デザインを手がけられた円と球の白川さん、そして担当編集者さんのお三方です。

雪と松』は、江戸時代を舞台に、医者の松庵(しょうあん)と流れ者の雪(ゆき)というワケありの二人が出会い、過去の幻影に追いかけられながらも共に生きていこうとする、異色の時代劇BL。
高橋先生の圧倒的な画力が時代背景に説得力を与えているこの作品、果たしてどんな過程を経て表紙デザインができあがったのでしょうか?

マンガの表紙ができるまで.001

今回の具体的な工程は、まず、デザイナーである白川さんがデザインのラフイメージを作成し、さらに高橋先生が表紙イラストのラフ案を作成。
これらをもとに編集さん、デザイナーさんで表紙案を絞り、高橋先生が表紙イラストを描きます。
できあがったイラストをもとに白川さんがデザインを制作(同時進行で帯などの制作)、という流れです。

では、この流れに沿ってデザインができあがるまでのプロセスを見ていきましょう!

デザインラフ

今回の『雪と松』の装丁では、まず白川さんがデザインのラフイメージを作成。このときに、白川さんは和紋を使おうというアイデアを思いつき提案したそうです。ラフ案のイラストは、実際の漫画の中のものが組み合わされています。

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――アイデアの出し方は?

白川「ひたすら考える、でしょうか。作品の魅力は何か、それをどうやってデザインしたらいいのか……机にいない時間も、頭に置いてずっと考えている状態が多いです」

普段のアイデア出しは、ずっとひたすらその作品の魅力を考えるという白川さん。デザインに対するストイックな姿勢が伝わってきます。

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編集とのイメージ共有

そして、できあがったデザインラフは編集さんに送られます。そのラフ案を見てイメージが共有されることで、全体の方向性が固まります。

高橋先生は、和紋を使うという白川さんの提案が気に入ったそうで、特に追加の要望はなかったとのこと。


表紙イラストラフ

一方で、高橋先生は表紙イラストのラフ案を作成。

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当初、ロングショットのラフ案を出された高橋先生ですが、その後にアップの案も出されたそうです。

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――今回の表紙イラストの着想は?

高橋「最初はうんとロングの案を出したのですが、やはり人の顔がもっとも人の目を引くものだろうと思いまして、顔を見せる方向の案を出し直しました」


打ち合わせ

ロングショット案2つ&アップ案2つの計4つのラフ案の中から、一つに絞ります。編集さん、白川さん、さらに編集部の方々も交えて、顔が見える構図が良いのではないかという結論に。

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アップ案のうち、表紙に二人が描かれている案がBLらしいとのことで採用されました。

表紙イラスト

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ラフ案が一つに決まり、ゴーサインを受けて、高橋先生が表紙イラストを制作。

――肌の部分の鮮やかなピンク色の主線が印象的です

高橋「目元の紅潮を際立たせるため肌の色を多少血色悪めにして、しかしあまりに血色悪くてもなんなので主線で赤味補充しました」

絶妙な肌の血色感はこういった細かい調整の積み重ねでつくられているのですね!

――今回の表紙イラストのコンセプトやこだわりは?

高橋「“この二人は色っぽい関係にある”という事がなるべく一目で伝わるような表情を描こうと思いました。目の表情を強調し、しかし怖くならないように気を付けました」

――先生はBL以外のジャンルでもご活躍ですが、BLで意識している事や、ほかジャンルとの違いは?

高橋青年誌ですとキャラクター性を前面に出そうとしますが、BLでは関係性が大事! 関係性を伝えなくては! という事を自分に言い聞かせています」

高橋先生がこだわった“色っぽさ”には編集さんや白川さんも太鼓判を押します。

編集「先生のカラー原稿はこれまでも美しかったですが、今回最初に拝見した際、中でも特に色っぽさを感じました」

白川「凄みのある美しさで、圧倒されてしまいました」

色っぽさと見つめ合う二人の抜き差しならぬ緊張感、思わず息を詰めてしまうようなイラストですね!


いよいよ装丁本格化

できあがった表紙イラストを受けて、いよいよ装丁の制作に取りかかります。

「カバーから本文まで作品の雰囲気を保ちたいので、どこに力を入れるかという自覚はありません」と語る白川さん。

――今回のデザインのコンセプトやこだわりは?

白川「イラストを邪魔しない程度に、しかしシンプルにしすぎるとカバーの力が弱まるのでそのバランスでしょうか」

今回の表紙は、和紙のような風合いのある凹凸のある紙が使われています。

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使われているのは、「OKミューズガリバーもみしぼ」。手でもんだ和紙のような風合いが特徴です。

和紙が使いたかったのと、色をきれいに出したかったということで、白川さんから十種類程度提案したそうです。

一方で、このような特殊紙の使用には難しい部分も。

編集「特殊紙や特殊な加工は原価的に難しいことも多いので、できる範囲で読者の方の目を引くものを作れるよう考えています」

限られた予算の中でいかに読者にアプローチするか、悩みどころです。今回は、価格面や印刷適性について、紙を取り扱う部署とやり取りをし、「OKミューズガリバーもみしぼ」に決まったそうです。

そんな経緯で決まった特殊紙の使用は、白川さんによると、「テクスチャの強い紙なので心配だった」とのことですが、結果的には「イラストの力強さとのバランスが絶妙に仕上がった」と、当初のこだわりが達成されたようですね!

また、特徴的なタイトルロゴも目を引きます。こちらは既存フォントをベースに、白川さん自身が筆で書いたものを組み合わせたそうです。


デザイン最終決定&帯などの作業

さて、作業も終盤。できあがってきたデザイン案を見て最終決定に入ります。

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▲最終候補に残った案

▼決定された案

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――最終的にいくつかに絞られたデザイン案から、決定に至ったポイントは?

編集「基本的にはパッと見た印象を大切にしていますが、理屈としてはロゴの配置を含めた絵柄の活かし方だと思います」

また、BLに欠かせない帯も制作していきます。帯の文言などは主に編集さんの担当。

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――こういう帯にしたい、という思いはありましたか?

編集「.Bloomレーベルのコミックス創刊第一弾作品ですので、表面ではそれを大きく打ちました。その分、裏面のカットと文言で作品内容をわかっていただけるようにしたつもりです」

そしてついにデザインが完成! 以下の画像は、いわゆる“色校”と呼ばれる、本番前に発色や印刷の具合を確認する試し刷り「色校正」です。

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―― 仕上がったデザインを見ての感想はいかがでしたか?

高橋「特殊な紙を使っていただいた事と、薄い色まできれいに出していただいた事にびっくりしました」

彩色の具合と和紙を思わせる風合い、和紋が組み合わさって作品にぴったりな和風デザインに仕上がりました。

できあがったデザインは校正を経て印刷に回り、皆さんの手元に届くのです。

デザインのおもしろさとは?

作家・編集者という立場から見た、表紙のデザインに関わる面白さや、興味深い部分について、高橋先生と編集さんにうかがいました。

高橋「表紙用の絵は、デザイナーさんが仕上げてくださって完成品になりますので、よい料理をしていただくと素材として嬉しいです」

編集「今回で言うと和の地紋など、デザイナーさん発信でアイディアをいただけると、とても刺激になります」

そんな風に心強い味方として信頼されているデザイナー。しかし、白川さんは謙虚に語ります。

白川「作品を楽しんでいただくきっかけになれれば嬉しいので、デザインの細部などは気付いた方だけに楽しんでいただければいいものなのかな、と思います」

白川『面白い作品は売れる』私はそう思いたいのですが、現実、面白いだけでは売れない、そういう作品は多いのではないかと思います。BLの場合は新人の方も多く、単巻が多く、レーベルや作品の増加率も高く感じます。

その中で、どうやって手に取ってもらうか? と思うと、デザインの持つ力がかなり大きいと思っています。デザインといってもカッコいい、オシャレなものを作ればいいということではなく作品の持つアイデンティティをデザインに落とし込む、そういう必要性を強く感じています」

作品の魅力をデザインに落とし込むことに真摯に向き合いつつも、あくまで裏方に徹する姿勢にプロフェッショナル魂を感じました。

普段何気なく手に取っているBLの表紙デザインがこういう風にできあがっているのを見ると、BLに関わる“プロ”たちの仕事ぶりに感嘆です!
さらにBLデザインに注目したくなってしまいますね!


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