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【アンケート調査】ジェンダーにも関係?"受け×受け"を描く新BLオタク語「百合BL」

同性同士の恋愛を扱うジャンルは大きく分けてふたつ存在します。

我らがBL(ボーイズラブ)、そして百合です。男性同士の愛を扱うBLに対し、女性同士の愛を描くのが百合。同性同士という共通項があるにもかかわらず、両者には大きな違いがあります。

「百合BL」とは?

ここ数年で登場・発達したとされるBLカテゴリーで、主に"受け×受け"といった、受けに多い特徴をもつ男性キャラクターのカップリングで展開するBLストーリーを指します。

数年前には『百合BL』なるアンソロジーも刊行されました。「BLなのに百合とは?」と思った方も少なくないはず。

ここでふと気になったのが、BLファンの中にどれくらい百合作品を嗜む人がいるのかということ。

この謎を解明するため、「百合好きBLファンに関するアンケート」を実施。お寄せいただいた回答をもとに、今回は「BLも百合も読むぜ!」という方の実態やBL作品における百合的な表現について検証します!

「百合」の定義

BLはその名の如く「ボーイズ(男性たち)のラブ(恋愛)」を扱うジャンルですが、百合はその定義が読み手によって異なります。

BLに対してのGL(ガールズラブ)という意味で女性同士の恋愛を指すこともあれば、友達以上恋人未満の関係性を百合と考える人もいます。はたまた、女性、特に女の子同士の日常風景を百合と表すことも……。

男性同士の場合、恋愛を伴わないけれども友情や親愛以上の関係性が築かれているものは「ブロマンス」としてBLと区別されます。一方、女性同士の場合はそれらすべてが「百合」というカテゴリーに属することになるのです。

また、BL作家が描く百合作品と、レズビアン当事者に近い立場の作家の作品が共存しているという点も百合の特徴のひとつ。男性同士の恋愛を扱う場合、私たちが普段手に取るBL作品は、当事者寄りの作品とはやや異なるジャンルとして長年扱われてきました(※)。
※近年はいわゆる「ファンタジー性」を排したリアリティ重視のBL作品も増加傾向にあり、BLの在り方や定義そのものが大きく変わってきています。

何をもって百合とするのかという定義が読者や作者の感性に委ねられ、恋愛に近しい描写があってもなくても「百合」という括りに入る……これはBLにはない特性であり、むしろその基準の曖昧さこそが百合の醍醐味でもあると思います。

データで見る"百合好きBLファン"の基本生態

アンケートは、1048名の方から回答が集まりました!まずは、アンケート結果を見てみましょう。

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BLファンのうち、百合作品を嗜む人の割合は全体4割ほど。

これは筆者の予想を上回る結果でした。しかしながら、やはり本業はBLという声が多く、BLと同程度あるいはそれ以上の頻度で百合作品を楽しむという方は2割に届きませんでした。

▼【百合好きBL読者】百合作品に手を伸ばしたきっかけ

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「元々女性キャラが好きだった」という回答が圧倒的に多い! 

▼【百合好きBL読者】百合作品を好む理由は?

──百合作品に出てくる女性は、自分もこうなってみたいっていう憧れに近い女性が出てくるので読んでて楽しいです。
──もともと「女性キャラ」が好きなのでカップリングの双方が女性という状況が好き。
──可愛い女の子がイチャイチャしているのが目の保養になるから。


特に「かわいい女の子が好き」という回答はかなり多く、女の子特有の可愛らしさを楽しむことが百合作品の醍醐味だと断言しても良いでしょう。

▼【百合好きBL読者】好きな作品の傾向は?

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また、上に載せた好きな作品傾向に注目しつつ、先述の項目に対するアンケート回答を見てみると、


──性別に関係なく誰かと誰かが強い絆で結ばれ、お互いに何かしらの影響を与えながら惹かれあうような物語が好きなので、百合もその内のひとつ。
──百合には性行為を含む作品が少ないので、より純粋に恋愛模様やストーリーを楽しめるものが多いと思います。


という意見から分かる通り、より繊細で丁寧な恋愛描写を重視する作品が好まれているようです。一方で女性特有のドロドロとした恋愛感情(嫉妬や独占欲など)を楽しんでいるという声もありました。


──嫉妬や羨望など負の強い感情や執着が好きで、BLにもそういったものはありますが本来女性の方が比較的抱きやすい感情かと思うので、リアリティもあり好んで読んでいます。


可愛らしい見た目に反して感情の波が大きかったりするところは、確かにBLではあまり見られない気がします。 
意外だったのは、成人向けエロも読むという方が筆者の想像以上に多かったことです。複数回答可能な質問だったとはいえ、BL以外のジャンルでも成人向け描写が市民権を得始めていることを実感した結果となりました。

▼【百合好きBL読者】女性の共感を生むことも

「百合作品を好む理由」として、筆者が個人的に注目したい回答があります。それは「共感できる、あるいは共感しやすい」というものです。この「共感できる系」回答には2パターンあり、ひとつがシンプルに同性だから感情移入しやすいというもの。例えば以下のような回答です。


──BLとはまた違った可愛らしい場面があり、女として共感出来るシーンが沢山あります。そして何よりも女の子が可愛いですし、プラトニックな作品が多く読みやすいです。
──ストーリー、日常メインの作品を読みたいと思ったら百合を読む。自分も女なので共感する部分があり感情移入しやすい。

▼【百合好きBL読者】セクシュアリティと百合


そしてもうひとつが回答者自身のセクシュアリティに由来するもの……つまり「女性が恋愛対象であるがゆえに、百合作品に共感できる」という回答です。


──自分の恋愛対象が女の子でもあるから、「こんな恋愛したかったなぁ」という憧れ。
──自分自身、女の子も好きだったり、彼女がいた経験もあるため、女性同士の恋愛を好意的に思っているから。
──女子校出身で好きな女性がいたこともあり、百合作品を読むと共感したり羨ましく感じることができ、楽しいです。


セクシュアリティに関わることはアンケート内で特に問わなかったのですが、こちらの予想より多くこのような声をお寄せいただきました。

どちらのタイプの共感にせよ、読み手が女性の場合、男性という「異性」が主体のBLに比べて納得できる部分が多いのは確かだと思います。女性は特に共感という感情を大切にすると言われていますから、百合作品を女性が好む理由も頷けます。

【百合BL】百合との違いは?

SNSなどを見ていると、「A(男性)とB(男性)は百合だから!」といった発言をしばしば目にします。

ここで言うAとBはいずれも男性なのですが、女性同士の作品を扱う「百合」という言葉を男性同士の関係性にあてはめるというのは矛盾していますよね。にもかかわらず、筆者を含め一定数の人が「確かにあのふたりは百合」と納得感があるのも事実。

一方、我らがホームBL業界でも、2017年にアンソロジー『百合BL』が刊行されました。

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「攻様なんていらないよ」「受×受…結局オトコはみんな受け!」「勃つ姿は百合の花」というキャッチコピーに筆者も衝撃を受けたものです。BLでは近年このような受けキャラ同士のカップリング、あるいは恋人がいる受けキャラ同士の戯れ(プレイの一環)を「百合」と称する傾向にあります。

【百合BL】読者は少数派

では一体、本家の百合作品を好むファンのうち、上記のような「百合要素のあるBL」を読む人はどれくらいいるのでしょうか。

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「百合」と「百合BL」の差は?

「百合BLを読む」と答えた方々へ「百合BLが本家の百合と異なる点は何か」という質問もしてみました。回答をもとにまとめたものが以下となります。

【百合BLの差①】男性器の有無などの男女差


──2人とも挿入する側の機能があるのに、挿入されるのを望んでたりお互いに触りあったりしたい…というのが尊い。
──もしどちらかがが一時的にタチをやったとしてもタチ側が「こうされると自分も嬉しい」と思いながらタチをやり、そこでネコ側の快感を思い出してネコ側を羨ましく思う描写がタチとネコで快感の種類が違うBLならではの、本家百合にはあまりない百合BL独自のものと言えるかなと思います。


女性同士のHの場合、「自身の肉体(=性器)の挿入」という行為ができません。一方で、百合BLに登場するキャラクターは「ネコっぽい」とはいえ、挿入するための性器を持つ「男性同士」のお話。
「BLなんだから当たり前じゃん!」と思うかもしれませんが、本来百合は「女性同士」の関係性を表す用語ですから、それをBLに当てはめるというのも改めて考えてみれば何だか不思議に思えてきますね……。

【百合BLの差②】女性特有の感情表現

──心理描写が本家の百合よりは、泥沼化していない感じ。
──百合だと、女の子ならではの粘っこい表現(嫉妬など)があるが、百合BLでは、男の子のサバサバした表現があり、女同士と男同士の付き合い方の差が異なる。


本家の百合は生々しい、あるいは感情描写が結構ドロドロしているという意見は、他の質問に対する回答でも見受けられました。

──女の子だからそこの臆病さが可愛く、男性にはない女性特有のドロドロした感じもたまらなく好きです。
──女の子ならではの繊細な心の揺らぎがたまりません。憧れだったり、嫉妬だったり、色んなことを考えてるくせに隠すのがうまかったり、芯は脆かったり。女の子のかわいい外見とは真逆の醜い内面がふとした時に見えるのが好きです。


もちろん、性格に関してはキャラクターごとに異なるわけですが、確かに男性と女性とでは同じ感情をとっても少し系統が異なるように思えます。普段BLも百合作品も読んでいるからこそ、そのようなちょっとした表現・描写の違いに気付きやすいのかもしれません!

【百合BLの差③】可愛らしさ重視


──完全に個人的な意見ですが、百合BLは「可愛い」「受けっぽい」と女性的(中性的)同士であるCPのことを言ってるのに対して、百合はボイっぽい子や一見王子様なんてCPも総括したジャンル名なので根本から別物の印象です。
──百合にもタチウケがあり、その関係に萌えるのですが、百合BLはどちらも可愛らしすぎるな…と思います。
──BL百合はキャッキャしてる女子校のような可愛らしさ重視かなと。


「男前受けが好きだ!」という方ももちろんいらっしゃると思いますし、筆者自身もそのひとりではありますが、百合BLに登場する男子はやはり「THE かわいこちゃん」が多い! パッと見てすぐに受けだと分かる容姿・性格のキャラ同士がニャンニャンしているのを読者はひたすら楽しむ……これこそが百合BLなのです。

【百合BLの差④】エロ描写の多さ


──百合BLはやはり男子2人なので汁が多いかな。
──百合BLはエロに焦点があたってるイメージが大きい。
──百合は必ずしも肉体関係を必要としない展開も多くありますが、百合BLはあくまでBLなので、よほど淡白なキャラ同士で無い限り通常のBLと同様に肉体的な繋がりを得るイベント=エロシーンがあるのが違いではないでしょうか。


③でも少し触れましたが、百合BLのテーマは「受けキャラ同士のニャンニャン行為を楽しむこと」。 カップルのどちらかが挿入して攻め役を務める、あるいは玩具等を使用して疑似挿入を楽しむパターンもあれば、挿入行為はなしの前戯止まりという作品。ひとえに百合BLと言ってもその実態は作家さんの嗜好によりけり。いずれにせよ、気持ち良さそうな喘ぎ声マシマシで進行する特徴があります。

【百合BL】読まない理由

一方、アンケート調査から分かるように、百合好きBLファンの約6割は百合BLを読まないと回答しています。

その理由として多く挙がったのが「オトコ同士の絡みが見たいから(=女の子っぽいキャラを求めていない)」といった意見でした。
BLに百合的な要素は求めていない、男性だからこその描写を楽しみたい。このような声が非常に多く寄せられました。

──百合はやっぱり女の子同士がいいし、受けっぽくない男っぽい受けが好きだから。
──BLと百合にはそれぞれの性別を生かした恋愛の形や魅力があるので、「百合のようなBL」は求めていません。逆も然りです。
──BLに求めてるのは女の子同士のにゃんにゃんな可愛さではなく寧ろマウントを取り合う「攻め」の奪い合いくらいの関係だからです。


次いで「受け攻めをはっきりしてほしい」という回答も目立ちました。攻めと受け、抱くか抱かれるか……。マウントの取り合いは確かにBLの醍醐味ですあり、男性同士だからこその描写です。

ジェンダー論に発展?「百合BL」という呼称への疑問

百合BLを読む読まない問わず、両者に共通して挙がったのが「そもそも百合BLという言葉自体に疑問を覚えた」という意見でした。

──あくまでBLはBLであり百合は百合であるため、二つの言葉を並べて一つの言葉にして片方のジャンルの一つとしてしまうのはどちらから見ても気持ちのいい表現ではないのではと感じてしまいます。
──厳密には全く百合(女の子同士)ではない。また、見た目もどう見ても男性同士で「百合」と表現されるのも不思議な感覚。そもそも「受け同士」というのも、「どちらも挿入しない」というものが前提としてなければ成り立たないため、たとえ挿入側も玩具などで挿入されているという描写が成立していたとしても、どちらかが挿入する描写がある時点でそれは「受け同士」ではない。


百合BLとはすでに述べたように「受け同士の男性カップル」を扱うジャンルのことですが、ここでいう「百合」がどのような意味で使われているのでしょうか。

百合BL=女性のように可愛い、あるいは美しいキャラクター同士という意味で使われたものなのか、あるいは「女性=抱かれる側」という認識からくるものなのか……。

この疑問の根底には「男性らしさ・女性らしさ」の認識、いわゆるジェンダー問題が絡んでくるかもしれません。(風呂敷を広げすぎるため、ここでは述べません。)

(おまけ)百合好きと出身校の相関性は? 

最後に、実施したアンケート項目の中に出身校を問うものを用意。こちらは「女子校出身者で百合好きな人、絶対多いと思う」という筆者の個人的な予想から盛り込んだ質問だったのですが、果たしてその結果は……!?

ちなみに、国内の女子校割合は約12%です。

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今回のアンケート回答者のなかでは、約27%の方が女子校を経験。今回は共学も合わせて伺っているため厳密な統計ではありませんが、百合好きな腐女子の割合は高いと言えるのではないでしょうか?!

以上、百合BL解説でした!

※女子校数は年々減少傾向にあるため、今回のアンケート回答者と近しい1990年のデータを利用しています。
※[男子校回答者]はサンプルが少なく、統計上今回は除外しています。
※上記のグラフは男子校経験者のデータも入っています。


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本記事は、有斐閣の『BLの教科書』発売記念企画「ちるちる夏の自由研究」連載の一部として、『BLの教科書』内収録コラム「BLと百合、近くて遠い 2つの世界」(『BLの教科書』 Column(2)、田原 康夫)を素材として執筆された記事「近くて遠い沼"百合"について聞いてみた!!百合好きBLファンの実態調査【ちるちる記者夏の自由研究Vol.2】」をリライトしています。


writer 白米盛子
editer むきゃ
illust ノーコピーライトガール


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