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ほどほどにして、天命を待つ

人事を尽くして天命を待つ、という諺を据えながら、直感に神経を寄せて理由付けが始まる。

まだ、その時ではないと思った。

身の丈に合わない買い物から、身に合うようにと後追いで成長していく物語も頷けるが、理由が見つからない「今」に委ねるはあまりにも安易で、賭けだった。

揺れ動く様子を想像するも易い。脆い決断であり、たわいの無い、浮いた世界の話だ。

身から溢れんばかりのパワーを振れば、風になって呼応してくれるらしい。靡く紙、温い抵抗。夢のまた夢。


旅行の道中では、事ある毎に「旅の記念にどうですか?」と、決断の理由に一役買ってのこのこと躍り出てきた。気の緩みに付け入るのは、新境地の開拓に見えて、判断を鈍らせたいだけだと思った。
思い出、というパッケージに包まれていて、中は言い訳でできている。

お土産という言葉は便利だ。失敗談もいつかは笑い話になるように、モノではなくても、話の始まりに有用であればそれはお土産に括られる。

ただ、中身を見せて相手からの反応を待つのがお土産になってしまうのなら、これも自分の力では変え切ることのできない、外に委ね、頼ることになる。

同じ温度を共有していない、エピソードとして流れていくものを、旅の記念で買うのか。

やめた。消費のかすかな火に身を投じるのは。
せめて、この身一つで擦り切れて降参してくれるようなご当地グルメか、ボロボロになるまで着てあげられる1着にしよう。

旅の途中で仲間になったのは、古着のジャケットとブレスレット。
道のりが、また新しい旅と出会う。引き連れて、重なっていく。旅。

日々、考えて変化を織りなすコーディネートと、デフォルトで決めているアクセサリー。器用さとは程遠いのなら、八方美人ではなく、最も身に近い存在に。

もし、誰もいない星に連れて行かれたら、正当に自己満足の高い自分でいられるように、その日の自分に着替えたい。


帰る数時間前、グラスに一杯で380円もする、ご当地の濃厚なオレンジジュースを飲んだ。
普段なら飲みもしない嗜好品を前にして、「旅の記念にすれば良いや」と見え透いた言い訳を残して、1週間越しでもその酸味を鮮明に思い出している。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。