勿忘草はオレンジ色には染まらない
明日がやってくるのを拒む夜は、朝ごはんに食べてもらいたいはずのパッケージに身を包んでいる食パンをガサゴソと取り出して、きな粉ペーストを塗って食べる。
「夜食」と聞くとちょっとだけ罪悪感が生じるのは、いつからか勝手に意識するようになっただけのバイアスでしかなくて、朝を絶対的な正義と信じて疑わないから、夜に疎外感を与えるために誰かが仕向けた罠に見えてくる。
近所の安いスーパーが閉店した21時過ぎ。小さくて手に取れない苛立ちのタネをどこかに背負っていたから、忘れられるほどの爽快感がどうしても飲みたくなって、162円の果汁100%オレンジジュースのペットボトルをコンビニで買ってきた。
酸味のおかげで目はぱっちりと開き、帰り道に聴く音楽を選ぶ作業をこなすだけで20分はつぶせた。タネは帰り道の公園に蒔いてきたんだと思う。来年になって花が咲いたら桜と一緒に見てあげる。そのときはコンビニエンスストアで350mlの缶ビール買ってあげるね。
5時になれば、窓ガラスの先が勿忘草と同じ青さになる。
黒く深い青の30分前に嘘をつかれたかのように面影がなくなって、鳥の鳴く声が聞こえてくる。カラスが羽ばたきながら立ち位置を何度も移っている。カラスはどこに向かって飛んでいるのか、いつも疑問に思っている。もし叶うのであれば対談して、直接伺ってみたい。その時の心境なんかも同時に聞けたら嬉しいです。対談記事の最後は、「皆さんもこの機会に羽を広げてみては?」でオトすつもりです。楽しみにしててね。
オレンジジュースの中身からオレンジ色が消えて、間接照明に照らされる。部屋の電気を消しても生活できる時間には、生活を中断して今日にさよならを告げておきたい。
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。