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静かに躍れ七夕よ
ジリジリと照りつける陽の光に背中を預けて、ちょっと背中を丸めて頭が下がる。
どうにも静かで、でも人々がここで生活を営んでいる形跡はあって、異様に冷やされている公民館には、短冊とネームペンが設置されていた。
喃語と日本語の境目で遊んでいる子どもが、ベビーカーの上から、願いを親に訴えている。
物音のないホールスペースに腰掛けていたのに、メッセージの部分は聞こえていなかった。願いをあえて聞くのはナンセンスだから、全世界で、ボリュームを0に下げた瞬間があったのだろう。
熱の波が肌に沿う、カンカン照りの屋外へ進んでいく乗り物を、放っておくように見守っていた。どうか健やかに育ってくれますように、と付け加えておく。
初めて散策する街を一つ増やしたい、という欲がある。
場合によってはスケジュール帳に記して予定を守りにいくことだってある。
初めて散策した商店街の本屋の店主が、雰囲気が好きだからおすすめと教えてくれたその場所を、言葉をなぞるように、細かく調べずに、本数の少ない電車の時刻だけ念入りに調べた。
乗り継いで到着した駅の改札を抜け、決して多くない音の数に安心する。
休日に来ようが、そんなことは関係なしにいつも静かなのか、それとも見慣れない来客にドンちゃん騒ぎの手を止めたのかはわからないが、「空気が美味しそう」とか考える余地があった。
Google mapを開きながら、ピンの並びと実際の見応えに違いがないか、数十メートルごとに手元を見ては安堵する。ナビは使わなかった。
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誰も散策してなんかいない。目的を積み込んだ車がものすごい勢いで抜かしていく。
陽炎が、走り去った車の流れで、揺れ動き方を変えられているのを見てしまい、車の通りが少ない道に迂回することにした。
見比べなくていい景色、新しく買ったバッグ、時には下ろしてみる前髪。
閉業した珈琲店のピンが、マップに表示されている。熱を持ったスマホをポケットにしまい、レトロと呼ばれるつもりもなかった古い看板を一軒一軒目移りする。すぐに真っ青な空につながり、消失点に届いてしまう。
なんだってありすぎて困る都会を、どうにか人をかき分けて歩くよりも、遥かに楽しむ余地があり、さんざん自転車で通い詰めてて、いい加減飽きたよ、と思っていた地元に戻る時期がちょっとだけ楽しみになって、半分以上空に向けられたデジカメが、わずかにシャッター音を鳴らす。
ベビーカーが去った後、腰掛けていた深めのソファを押して立ち上がり、短冊の前で考えていた。
厄介なことに衒いがちなのに、そうであればいいなと澱みなく思える願いはスッと出てこない。急ぐ理由がないのも重なり、懸命に探し出すほど頭は回っていない。暑さでぼーっとしてきそうだったし、避難するように公民館に入ってきたのだから。
「これからも」をひとまず書いてみる。どうありたいのかを、書き始めた自分が勝手に文字にすると思った。
「健康」の文字。書き癖の走り書きに身を任せてしまい、年に一回しか書かない書類を、いつもの癖のままで手が文字を形作る様子をただ眺めていた。
「康」のまだれを二画で済ませ、そのまま力の入らない短冊がサラサラとできていった。
「これからも健康で 元気でいられるように」
高次の欲求を強く感じられる瞬間もあるけれど、今は健康を願いたかった。その時はその時で、短冊じゃなくても、願うようにまた裏紙にでも書いて、見えるところに貼るか、自分の部屋の机に置いてあるノートの1ページに書き込んで、隠すように閉じておけばいい。
強く願わなければ、もう二度と来ないであろう、用事もないこの街が、静かに日曜日を青くしてくれた。
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自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。