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【報告】第11回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞 受賞のお報せ

 昨日2022年8月6日(土)に行われました選考会に於きまして、拙作「谷中の用心棒 萩尾大楽: 阿芙蓉抜け荷始末」が第11回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞に選ばれましたのでご報告いたします。

 異世界転生全盛期のネット小説投稿サイトで、「別に読まれなくてもいいや」と地元【姪浜】を舞台にした時代小説が、まさか書籍化をしただけでなく、一般文芸しかも歴史時代小説の文学賞にノミネートされ、受賞することとなったのは、まるで夢のようでなんと言っていいか、語彙力が喪失するぐらいの喜びです。奇跡も魔法も、あるんですね……(´;ω;`)

 これもひとえに、ネット投稿時代から支えてくださった読者様、デビュー後に新たに知っていただいた読者様、ネットで鎬を削った仲間たちをはじめ、二人三脚で売り物に仕上げてくださった担当編集者様、そして駆け出しの僕に装丁を書いてくださった、大好きな松山ゆう先生など、多くの人たちのお陰です。心よりの感謝を申し上げます。

 少し自分語りをしますが、僕は若い頃にどうしようもない鬱屈を抱えていました。
 それは自分の身の上であったり、ままならぬ生活であったり、人間関係だったり。世の中を怨み、自分の星に絶望し、人間に嫌悪していた頃に出会ったのが、藤沢周平や池波正太郎、笹沢佐保などの時代小説でした。
 時代小説には、僕にとって救いがありました。時に痛快なエンタメで鬱屈を忘れさせ、時にバッドエンドの暗い作品で鬱屈に共感し、人の優しさを描いた市井人情モノで鬱屈に寄り添ってくれました。
 そして時代小説を書く事は、その鬱屈を浄化する事にもなりました。
 藤沢周平のお言葉を借りれば――

「私はかなりしつこい鬱屈をかかえて暮らしていた。鬱屈といっても仕事や世の中に対する不満といったものではなく、まったく私的なものだったが、私はそれを通して世の中に絶望し、またそういう自分自身にも愛想をつかしていた。(中略)(そういう鬱屈の解消方法が)私の場合は小説を書く作業につながった」

 時代小説を書く事で、僕は救われました。

 また趣味で小説を書いていた僕を、プロ志向へと背中を押してくれた、亡き葉室麟先生にも、心からの感謝を申し上げたいです。
 今から13年前でしょうか。雨が降りしきる秋月での講演会で、葉室先生と出会いました。
 「秋月記」に少し登場した亀井南冥を題材に書きたいんです!と僕は先生に言うと、「一緒の舞台に立てることを楽しみにしているよ」とプロを目指すよう言ってくださいました。
 それからずっと先生の背中を追いましたが、僕の力不足ゆえに先生がご存命のうちにデビュー出来ませんでした。
 しかしながら、あの時に言った「亀井南冥を題材に書きたい」という言葉は、谷中の用心棒で南冥を「亀井主水」として登場させることで果たしたと思っておりますし、今回の受賞で一応はよい報告が出来ると思います。

 僕は小説家になりたくて、時代小説を書いたわけではありません。時代小説が好きで、時代小説家になりたくて小説を書いてきました。
 そう思えたのも、藤沢周平・池波正太郎・山本周五郎・笹沢佐保・白石一郎・柴田錬三郎・滝口康彦・松本清張・黒岩重吾・五味康祐・司馬遼太郎・峰隆一郎・山田風太郎・隆慶一郎・葉室麟……と素晴らしい作家に、鬱屈を抱えた魂を救われたからこそです。
 僕は先人のような大作家に遠く及びませんし、比べること自体がおこがましいですが、令和を生きる人たちが時代小説の名作たちに出会える導線になれるよう、今後も時代小説と真摯に向き合い、この素晴らしい文学を後世に残す為に邁進してまいります。

 どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。

追伸、何度も受賞すれども一度も大賞を獲れなかった僕ですが、やっと無冠のプリンス返上です!

「谷中の用心棒」を書く切っ掛けになり、今ではスピンオフになった作品が無料で読めますのでどうぞどうぞ!

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