見出し画像

川端康成作「ざくろ」の続きを考えてみた

「ざくろ」は川端康成の「手のひらの小説」の中に収められた珠玉の短編として知られた一作です。川端康成と言えば「雪国」が有名で、ノーベル文学賞を受賞された日本文学界の巨匠と言われる方です。残念ながら近年では読まれる機会もめっきりと減ったようですが、今でも時々国語の試験問題に採用されたりもしています。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/207010.pdf

↑青空文庫では見つからず、広島県のH28年公立高校入試問題に「ざくろ」が全文掲載されていました。概要は↓です。

時は第二次大戦中、出征(徴兵されて戦地に赴くこと)が決まった若者「啓吉」が、別れの挨拶するために恋人と思われる「きみ子」の家を訪れた。丁度その頃庭先には見事な柘榴ざくろの実がなっていた。でもたわわに実ったその姿を見るまですっかり柘榴のことなど忘れていたことに、きみ子は自分達の置かれた「さびしい」状況を実感していた。その日、庭先で母親と話す啓吉の声を聞き、きみ子は2階から慌てて啓吉の元へと急ぐのだった。柘榴を口にした啓吉と眼が合い、啓吉の眼に「あたたかいもの」が浮かんだ時、啓吉は柘榴を落としてしまう。二人は少し互いに微笑み、言葉を交わしただけで啓吉は母に挨拶を済ませると行ってしまったのだった。

残されたきみ子は啓吉の柘榴を母から手渡しされ、恥ずかしそうに口にして「悲しい喜び」を感じた。でも母が話した亡き父との思い出話(母はよく父の残したものを食べていた)を聞くうちに、「泣きそうな幸福」がこみ上げてきたのだった。

要約がショボくてすいません。数分で読めるのに、感慨深い味わいが込み上げてきます。
川端康成先生の文才がにじみ出る名作だと思います。文脈上は純愛、ですね。

今回はこの話を、僭越ながら続きを考えるシリーズでいかせて頂きます。現代に沿った世界観を取り戻せたなら、このおフザケも川端先生に喜んで頂けるかも、です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

↓作者注:「静江」さんはきみ子の架空の親友です。家族で一足先に三重に疎開した設定にしています。正面から川端先生の文章に挑む度量はないので、今回はきみ子さんの書いた手紙、という形式でいかせて頂きます。現代語調なのは許してください。

世界の川端、ですから。あの格調高い文章はチャット君にもできますまい。

拝啓 静江様

先日は結構な贈り物をお送り頂きありがとうございました。こちらは平和と戦時の合間のような、せわしない日々を生きています。私は昨日ようやく柘榴の実が熟しているのに気付いたくらいです。そちらの秋はいかがですか。

それにね、静江さん、昨日啓吉さんが家に来てくれたの。短い時間だったけど、最後に会えて良かった。でも実はね、静江さん。啓吉さん、実は内緒で会いに来てくれてたんだ。お寺のお堂で待ち合わせて、話している内に胸が苦しくなって。どうしたって啓吉さんに言われて、苦しいのって言ったら強く抱きしめてくれた。頭の中が白くなって、痛かったのとお腹が熱くて、啓吉さんが何度も抱きしめるから二人とも汗だくで。でも母さんにもまだ何も言えてないから、だから内緒にしていてね。お願いです。

きっと柘榴は私と啓吉さんの想いを紡いでくれたんだと思います。悲しくて寂しい世の中だけど、でも私たちは命を繋いでいくって。言葉にはできなかったけど、二人でそう思っていた。父が亡くなって6年経つけど、母は相変わらず父を思って生きていて、私も同じなんだなって、そう思っています。

静江さんもお元気で。焼夷弾が落ちてこなくなって、静かに暮らせるようになったらまたお会いしたいです。一緒に柘榴の実を頬張って、秋の陽を味わって、秘密のお話をしたいです。
                             
秋の佳き日に  きみ子




この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?