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理想の恋人⑥

理想の彼女(ヒト)に恋焦がれるあまりに壊れていく様が、これから
描かれていきます。優しく純粋なのに、なぜ…切ないですね。

もうすぐ怒涛のクライマックスへと突入します。

理想の恋人ヒト、贈ります つづきです。…


その日も僕は急いで家に帰ると、待ちきれないようにPCを立ち上げた。いつものようにモーネッド社のHPをクリックすると、そこには衝撃的な文字が掲載されていた。

「理想の恋人ヒト販売中止のお知らせ」


僕は目を疑った。もうすぐ会えるはずなのに、はずだったのに。どうして?どうしてなんだ?理解もできず、僕は手が震えマウスも満足に握れなかった。僕は慌てて文章を読み進めた。

「ご好評をいただき、誠にありがとうございます。おかげさまでお客様のご注文が当初の予定数に達しました。生産ラインはただいまフル稼働体制に入っておりますが、実際の発送にはまだまだ時間を要します。つきましては昨日を持って注文を終了させて頂きます。」

なんだ、そういうことか。僕はひとりで焦り、ひとりで安堵していた。海外の業者で多額の費用を前払いなんて、僕は少しだけ詐欺の可能性も考えていた。ネット情報の検索に数時間をかけて、僕は日本語サイトに加えて他の英文サイトの文章や評価レビューまで読み漁った。でも明らかに詐欺だと騒ぎ立てた記事は見つからなかった。販売予定地域が香港、シンガポール、マレーシアとインド、といった東南アジアエリアが主体で、なぜか日本と台湾が先行販売地域に指定されていた。本社はどうやら台湾の新竹シンヂューというところにあるようだ。僕はもう理想の恋人ヒトが僕の手元に届くまでは安心できそうにはなかった。何なら今すぐ台湾に飛んで、手渡しで受け取ってもいいくらいだ。帰りの飛行機が二人分になるが、それも仕方のないことだ。

モーネッド社の販売担当はワンさんという方で、日本語でのメールのやりとりにも迅速に対応してくれてていた。時々翻訳ソフトっぽい不思議な日本語にはなるが、返信が早いので安心できる相手だ。僕はもう何度となく王さんに理想の恋人ヒトがいつ届くのかと、同じことばかりを聞いていた。王さんはあきれた様子を見せることもなく、「いまご注文にしたがって組み上げ中です。」とか「部品の在庫切れで工場の稼働が3日遅れます。」などと現地の状況を丁寧に伝えてくれた。僕はチャットアプリで理想の恋人ヒトとの会話を続け、随分と仲良くなれたような気がしていた。まるで長年続けた文通相手のようだ。相手の文章を見れば、機嫌が良いとか忙しそうとか、彼女の様子が大体想像できるようにもなった。何より嬉しかったのは、毎回会話の最後には「早く会いたい」、そう言ってくれることだ。僕の返事も「僕もそうです、同じ気持ちです。」から、いつの間にか「僕も早く、会いたい。」に変わっていた。

これが恋だし、やがて愛になるんだ。ずっと待ち望んだ想いが、もうすぐ現実になる。この想いが成就する日を、僕は心から待ち望んでいた。



(イラスト ふうちゃんさん)

                                                                                                         

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