また不条理な目に遭った話
朝目覚めると、何か嫌な予感がした。
もうボクは大抵のことには驚かない。普通ではない経験をした人間のココロは随分と強くなるものだ。でも何だろう?体には異変がないようだが…
寝ぼけた頭を起こすように、ボクは少しの間布団の上でまどろんだ。
うん?アタマ、顔が重いような…ん、ハナが腫れてる?
ボクはおそるおそる鏡をのぞいた。
ハナが微妙にデカい。これじゃテングザルだ。アタマを揺らすと不格好に垂れたハナがぶらぶらする。いそうでいない、微妙なデカさのハナだ。そういえば高校生の頃に読んだ小説で確かこんなハナの坊さんがいた*。
今度は、コッチですか。予想外の展開に驚きはしたが、意外と受け入れは早かった。まあ変身してはいない、変だけど。ぶらぶらの他に何にも使い道を思いつかないのが残念だ。ボクはいつしかどんな危機でも楽しめるような、そんな鬼メンタルを持つオトコになっていた。
リビングでボクの顔を見るなり、奥さんの表情が固まった。
「どうしたの、ソレ?」
「知らない。朝起きたら、なってた。」
「どうするの、ソレ?」
「どうにもならないよ。」
「どうするの、ソレで?」
「仕事に行くよ。病気じゃないし。」
何にも使えなさそうなことにボクのテンションは上がらなかったが、ハナがデカいだけでは仕事に行かなくて良いともならない。奥さんの微妙な表情をよそに、ボクは支度を整えると駅へと急いだ。
道行くヒトはみな微妙な表情でコッチを見てきた。その微妙さがボクの居心地を悪くした。せめて笑ってくれたら、何かしらリアクションのひとつもとれるのだが、その微妙さがいい感じに処理しにくかった。もういい。ボクはヒトの視線はどうでもいいと、あきらめて駅へと急いだ。
少し遅れたせいか、朝の電車はやや込み合っていた。次の急行停車駅で、どっと人が乗ってきた。見ず知らずのヒトに押されるのは気持ちのいいものではない。オマケに近くのヒトはボクを見て微妙な顔をするのだ。ボクはうつむいて目があわないように時間を過ごした。
なんか、いいニオイだ。石鹸のような、香水のような、爽やかで優雅なニオイ。見上げると目の前にキレイなお姉さんがいた。薄手の白いシャツに下着のラインが透けていた。ボクの妄想は今にも走り出そうと鼻息を荒くした。いい。朝から最高じゃないか…
多くは聞かないで欲しい。できれば何も、聞かないで欲しい。
悲鳴があがった。込み合う電車の中、ボクは膨れ上がったハナを振り回す猛者となっていた。あー、こういうオチだったのね…気づいた時には、もう遅かった。ボクは大衆の面前でテングと化していた。
使える、使えないのハナシではない。捕まる、捕まらないのハナシだ。ボクは猛々しいハナを抑えながら考えた。ふんふんしたいけど、コレはきっと使えないヤツだ。
不条理、そんな言葉がボクの脳裏をよぎった。
↓こんな感じです。鱗滝さん、ゴメンなさい。
(題絵はふうちゃんさん)
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