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ハシ君と過ごした休み時間

短い人生の中で親友と呼べる友達は何人出来るだろうか。少なくとも僕には1人いる。中学からの友達、ハシ君とはもう10年来の付き合いになる。金髪の長髪で美容師をしている風変わりな男、ハシ君。彼との出会いは中学3年生の時だった。

僕は3年生のクラスに初めて入った時、絶望していた。知り合いが誰ひとりいなかったからだ。部活の友達はいないし、2年の時に仲良かった友達もいない。中学生において、誰と友達になるかは学生生活の全てを決めると言っても過言ではない。

僕は一刻も早く友達を作ろうと思ったが、周りを見ると、運動部の1軍に属するようなイケてる人間ばかりで僕みたいな根暗オタクと仲良くなれそうな人はいなかった。僕はクラスに馴染めなかった。

ハシ君もクラスで浮いてるひとりであった。ハシ君は今も昔も変わらず、ずっと長髪であった。その頃は黒髪で肩までのボブカットをしていた。1年生の頃から目立つ存在だから、認識はしていたものの、喋らないし、かなりのAKBオタクとの噂があった。なぜか周りの女子に「ぱるる」と呼ばれている変な奴だった。僕は心の中で「アイツと友達になるのは絶対ないな」と自分の事は棚に上げて思っていた。ハシ君はいつも休み時間に何をするでもなく、ただずっと席に座っていた。それもずっと不気味に見えた。

そんなハシ君と話す機会が訪れた。席替えで席が前後になったのだ。僕は話したこともないから気まずいなと思っていたが、ハシ君の筆箱に付いているあるものが目に付いた。

進撃の巨人のストラップ。

自分も好きだったので、僕は思わず肩を掴んで話しかけた。
「進撃の巨人好きなの?」

ハシ君は「好きだよ。」と真顔で答えた。話してみると、ハシ君はかなりの漫画オタクであった。毎週、少年ジャンプを買っているし、好きな漫画も一緒だった。僕とハシ君に共通言語が見つかった瞬間だった。そこから僕とハシ君は急速に仲良くなった。

ハシ君は話してみると面白い人間だった。僕はハシ君に「どうして髪を伸ばしてるの?」と聞くと、彼は「カッコいい男子にはなれないから、可愛い男子になろうと思って。」と理解出来ないことを言った。ハシ君はその頃から周りに流されない自分の信念を持っている中学生だった。

仲良くなってから、ハシ君とどこへ行くにしても一緒に行動した。帰りも同じ方角だったから部活がない日は一緒に帰った。別れ道の信号の前で、何時間も立ち話をした。僕は学校に行くのが楽しくなっていた。

ただ、唯一休み時間だけは一緒に過ごさなかった。クラスの男子は休み時間になると、ボールを持って校庭に出掛けた。僕もそこに混じっていた。ハシ君にも「一緒に行かない?」と声をかけても、ハシ君は「俺は運動は得意じゃないから」と絶対に外に出ることはなかった。ひとりポツンと教室に残っているハシ君を見て、僕は「一緒に来ればいいのに」と思っていた。

正直、僕もボール遊びなんて苦手だし興味はなかった。ただ、そうしないと周りからアイツはクラスで浮いていると思われるかもと不安だったから参加していた。ハシ君とふたりで誰もいない教室で過ごす勇気は僕にはなかった。中学のスクールカーストは残酷だ。簡単にランク付けされてしまう。

今思えば、中学校の関係なんてたまたま同じ地域に生まれた、同い年の人間に過ぎないと分かるのだが、その頃の僕にとってクラスは世界の全てだった。僕は周りの目ばかりを気にしていた。

でも、そんな仲良くもないクラスメイトたちとのボール遊びは楽しいものではなかった。それに周りから「ちくわはいらないのに、なんで付いてくるんだろう。」と疎まれていることを僕は敏感に感じていた。一緒にいるけど、空気みたいだった。

ある日、僕は校庭に行くのを辞めた。

ハシ君とふたり、教室に残って話すようになった。クラスの男子は僕ら以外誰もいない、女子が数人いる程度。でも、それでもいいと思った。自分の本当の気持ちに素直になろうと思った。僕はその頃、ハシ君と話すことが学校の中で1番楽しかった。

漫画の話、昨日見たテレビの話、好きな女の子の話。僕とハシ君には話すことが山ほどあった。それは30分の休み時間には納まりきらないほど。

僕はハシ君と休み時間を過ごすようになって、始めからこうすれば良かったと後悔した。ハシ君だって、ひとりで教室にいるのはしんどかったかもしれない。

その後、ハシ君とは高校で別々になった。同じ高校に行こうと約束してたのに、僕の学力が足らず、一緒に行けなかったからだ。僕は試験の1カ月前に志望校を変えた。それでも、高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、ハシ君との関係は続いている。

それはあの時、教室で話した時間があったからだと思う。僕とハシ君はお世辞にもクラスに馴染めてるとは言えなかっただろう。はみ出し者のふたりだったけど、あの時間が僕らの絆を深くした。

今だって話すことは変わらない。相変わらず漫画の話ばかりだ。ハンターハンターの連載再開時期がいつになるか真剣に話し合っている。それでも、休み時間みたいな関係がこれからもずっと続けばいいなと思う。



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