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シュークリームハウスに住みたい

予定のない日曜日、10時に起きる。

彼が起きた瞬間に、カツを食べたいと隣で言っているけど、起きたばかりで重い私の胃は、そんな気分じゃない。
起きた瞬間からお腹空いてるなんて、凄いね、なんて言いながら部屋の冷気を感じて、布団にくるまる。暖房のスイッチを押す。

ごろごろだらだらとしているうちにまた眠ってしまい、目を覚ますと13時。

重かった私の胃も、なんだか少し軽くなっている。
何か食べたいと彼に言うと、じゃあ何がいいの、と言われる。カツはおととい食べたんだよね、と言って身体を起こして、PCでYouTubeを流す。
ミックスリストで流れてきたのは、BASIさんと唾奇さんの「愛のままに」という曲。
大阪の台風飯店でご飯を食べてるシーンがあって、途端に中華が食べたくなる。
中華いいな、餃子とか、と彼に言うと、じゃあ蒲田にある餃子屋に行こうか、ということに。
カーテンを開けると、よく晴れていて、太陽光が気持ちよく部屋にさす。張り切って化粧をする。

準備を終えて出発、というときにシュークリーム食べたい、と呟くと、彼は、じゃあ行く? と言ってくれた。
家から徒歩10分のところにある洋菓子屋に、美味しいシュークリームがあるという情報を昔、ネットで発見した。(一度行ってみたけど、その日は既に閉店していて食べれず)
今日こそは!と思い、餃子屋に行く前に歩いてそこまで。

外は晴れていて、陽ざしを浴びるのが気持ちいい。すっかり冬は去って、空気は春。冬のコートはもう街に似合わない。
空は真っ青というわけでなく、白い雲がベールのように掛かっている。それでも充分に晴れ。

歩きながら、彼が餃子屋について調べると、餃子屋の昼営業時間はもう終わっていた。
がーん。じゃあカツ屋でいいよ、と言うと、
カツ屋もラストオーダーが後30分くらいだから、シュークリームの前にカツ屋に行こう!となり、方向を変える。

商店街を歩いているとクリーニング屋だかなんだかの窓の中に、大きめのぬいぐるみが三匹閉じ込められていた。
ぬいぐるみはとても古びていて、目が死んでいる。虚ろな目に、口元は笑みを浮かべて、窓の中から道行く人を見つめている。
「ぼくたちはもう、ここからもう出られないんだ……もう一生誰にも触られることもないんだ……」と彼とアフレコをする。
かわいそうなぬいぐるみたち。

カツ屋は小さくて、老舗風。
引き戸を開けると、お年を召した店員たちと、来店した有名人のサインが並ぶ。
カツランチを注文する。
俺は塩をつけて食べるんだよね、と彼に言われて、カツに塩のみで一口齧る。
噛むたびに衣がサクサクと鳴り、肉本来の旨味と薄っすら塩の味。
美味しい〜!と感動し、サクサク、サクサク。

店を出てシュークリームを求めて洋菓子屋に向かう。
はるばる、着いたのに店は定休日だった。シャッターに、お休みしますとの貼り紙。
がっくりと落ち込み、項垂れながら道を歩く。2回目なのに、いつになったら食べられるんだ。
CHIKO元気だして!もっと美味しいシュークリームを作るためにお休みしてるんだよ、と彼に励まされる。

落ち込みながら道を歩いていると、ゴミ捨て場の横に寝ている猫の姿があった。
猫だー!と喜んでよく見てみると、猫は汚れていて毛がボソボソとしている。
そして縮まっていて、目を瞑って全く動かない。
死んでいる。
これってきっと、死んでるよね…と彼と話し、通り過ぎる。

しばらく行くと右手に、古ぼけた小さい家電屋があった。
その窓の中には、また、目が虚ろのぬいぐるみが三匹、こちらを見ていた。さっきと違う店なのに、また三匹。
メロンパンナちゃんが、色あせて全体的に黄色ぽくなって、わぁ!というような両手を広げたポーズをしている。
笑っているのだけど、目はがらんどう。
こちらを見ているというか、多分、彼女は何も見ていない。空虚。
これもまた、死んでいる。
「笑顔でポーズとってる途中で、悪者に固められて、石像にされちゃったみたい」と彼が言う。

またしばらく行くと、今度は住宅の門から立派な椿の木が顔を出していた。
濃い緑の葉にショッキングピンクの大ぶりの花。
わあ、綺麗、可愛い色!と思ったのだけど、
よく見るとその下の地面に、首ごとぼとりと取れた椿の花が、大量に落ちている。
また死んでいる。
みんな死んでいる。一見可愛いのに、みんな死んでいる。
何も見なかったようにすっと、通り過ぎる。

今日は陽ざしが眩しく、温かくて、ほっこりと、何も予定のない素敵な日曜日。

私の将来の夢は、怖い人のいない優しい世界で、大好きな人たちと温かくぬくぬくと過ごすこと。
ふわふわのシュークリームハウスに住みたい。

全部の死や怖いことから目を背けて。

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