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地球の裏側にある、悲しいクリスマス

クリスマスの過ごし方は国が違えば、大きく違う。
(停電がないクリスマスhttps://note.com/chikondi/n/nb9a51b5c14a6

キリスト教ではない我が家でもクリスマスの食事は、いつもより奮発した食事を用意する。チキンに温かいスープ。何のケーキを食べようか。スパークリングワインなんかで乾杯する人もいるかもしれない。

実は、マラウイには難民キャンプがある。世界最貧国といわれるマラウイも、周辺国から難民を受け入れているのだ。首都リロングウェ中心部から車で1時間半のところに「ザレカ難民キャンプ」はある。


UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、当初1万人を想定してつくられたザレカ難民キャンプには、2019年11月末時点で、4万4530人の難民、庇護申請者の登録にまで膨れ上がっているという。出身国はコンゴ民主共和国(略称:DRC)が最も多く、ブルンジ、ルワンダ、ソマリア、エチオピアから逃れてきた人もいる。
(参考:https://www.unhcr.org/jp/24391-ws-200109.html

リロングウェ教員養成大学での活動の合間をぬって、半年間ほど、このザレカ難民キャンプで日本語教室を開き、教えていたことがある。その教室でジンボという青年に出会った。彼はコンゴ民主共和国出身。勉強熱心で、日本語の授業はほぼ皆勤だった。そして人懐っこくて、優しい。

ある日の日本語教室の後、そんなジンボに、
「最近なかなか忙しくて髪の毛を切る時間もないんだ」
なんて相談したら、すぐに
「知り合いが床屋なのでどうぞ!」
と、その床屋に連れて行ってくれて、順番抜かしでカットしてもらったこともあった。今でも連絡を取り合う仲だ。

2020年のクリスマス直前にも連絡が来て、
「最近どう?クリスマスはどう過ごすの?」
なんて、他愛もないあいさつを交わしていた。


クリスマスから一週間ほど経った、大晦日の夜。
「Hello, Tanaka?」
とメッセージが来たので、いつものごとく、チャットを始めた。
「元気だよ、ジンボは?クリスマスはどうだった?」
「Christmas passed without eating coz my best friend in Congo DRC dead.」
(クリスマスは何も食べずに過ごした。コンゴ民主共和国[DRC]にいる親友が亡くなったから。)
「そうなんだ・・・それはとても悲しいね。何があったの?」
「war」(戦争)

紛争による親友の死を、未だコンゴ民主共和国に残っているジンボの弟が教えてくれたのだという。その事実を知らされたジンボは、クリスマスに何も食べずに一日を過ごしたのだ。食べ物は何かしらあるはずだが、のどを通らなかったのだろう。

ジンボの親友は、兵士ではなかったという。たまたま戦闘に巻き込まれたのだろうか。住んでいた村が襲撃を受けたのだろうか。紛争の混乱で、状況なんて特定できないだろう。私の乏しい想像力で想像するしかない。

コンゴ民主共和国では今、「紛争」が起こっている。

でも、ジンボは紛争を意味する「conflict」ではなく、戦争を意味する「war」を使った。単に語彙力の問題かもしれないが、当事者にとっては「conflict」も「war」も言葉尻の問題で、関係ないのかもしれない。どちらも、人間同士が争い、殺し合う行為には変わりないのだから。

コンゴ民主共和国で起きている困難は、紛争だけではない。ここ数年ずっとエボラ出血熱の流行と終息宣言を繰り返している。さらに、はしか、新型コロナの流行と、非常事態に非常事態を重ねた状況に置かれていることは、残念ながら日本ではあまり知られていない。

悲しみに暮れ、クリスマスも新年も祝えずにいたはずのジンボは、続けて、
「Happy new year my best friend」
と送ってきた。お互いに、本当のHappy new yearになってほしい、との思いを込めて、同様のメッセージを送り返した。

頼りないマラウイの電波状況で、知らせ1つでコンゴの親友との別れをしなければならないジンボ。2020年のクリスマスを迎えられず、さぞかし無念だったであろうジンボの親友。

こんな悲しいクリスマスが、地球の裏側では「普通に」存在している。


新年のおめでたい時期にこの話題はどうかとも思ったが、今日1月11日はお正月もひと段落する「鏡開き」の日。

無病息災と平和の祈りが、地球の裏側に少しでも届きますように。

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