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社会起業家になるまで  #人生を変える学び 植山智恵 vol.2

アメリカでの偶然の出会いをきっかけに大学院の7名のうちの唯一の日本人として学ぶことになった植山智恵さん。ハードな勉強を経て「5年前とは違う人になった」と語る植山さんは、どのような体験をしたのでしょうか。

自ら課題設定をできる人材を育てる

識名:大学院で学んでみて、どうでしたか。

植山:自分の視野がいかに狭かったかを痛感しました。例えば、「科学」は専門外で無関係だと思っていました。でも「伝染病」が課題に出て詳しく調べてみると科学者がバイアスに偏ることなく、正しいデータを使って知を生み出している、その努力がイキイキと感じられて。世の中はつながっているという大きなマップが見えるようになってきました。人間が進化するために「学び」は必要なのだということを心から理解できたのだと思います。

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(大学院の同期6名と植山さん)

識名:自分の伸び代に真っ直ぐ向き合えたこと素晴らしいと思います。なかなかできないですよね。教育機関で働く者としても一個人としても植山さんのような姿勢を持った方を尊敬します。視野が広がった授業のエピソード何かありますか?

植山:たとえば「自分のいる街が50年後、環境問題の結果でどんな影響があるのか予測しなさい」というような、非常に幅広い課題が出ますよね、これでは焦点がぼやけますから、自分でイシューを設定します。

そこで私は、地球温暖化によって海が酸化することで貝類の成長発達が遅くなるのではという仮説を立てました。そのなかでも、オイスターの生存・絶滅に着目して、オイスターを扱うフィッシュマーケットで働く人たちがどういう理解でいるのかを当時住んでいたサンフランシスコでインタビューしました。そうすると、ほとんどの方は、この影響について全然知らないということがわかって。

「環境問題が叫ばれているのに、肝心のステークホルダーたちは認識していないのではないか」ということ仮説検証していく。こうやって、本当に自分が疑問に思うことを選んで、実地で探究していくのが効くんじゃないかなと思います。

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識名:どんな問題をチョイスするのかに、個性が出ますよね。ビジネススクールでは主に経営での意思決定に関する思考力や課題設定力を鍛錬しますが、受講生が設定する課題の視座が学びの深まりとともにあがっていくのが見ていてとても興味深いと思っています。現場視点から管理職視点、経営者視点、そして社会全体の使命感へと変化していくんですよね。

どうすれば社会に良いインパクトを与えられるか

識名:改めて聞きますが、社会で働いた後にもう一度大学院に行って一番よかったことは何でしょうか?

植山:自分の中に変化があったことです。他者からの評価を求めるより「どうすれば社会や周囲の人に良いインパクトを与える良い行動ができるか」という自分の指標に変わったことが最大の変化です。それは、私にとってもすごく幸せなことなんです。他人と比較しての優位性や良い会社で働くことには、もう魅力を感じません。以前は、その中にいたほうが安全だと思っていましたが。

識名
:グロービスでいうところの「志」が醸成された状態ですね。社会にインパクトをもたらそう、自分にはそれができると信じられる個人が増えるといいですよね。

植山:以前の私は、自分がどうしたいかを話すとき「会社がこうだから」「家族がこうだから」と必ず他者が出てきていました。でも、そもそも社会と向き合うには、主語が全部「自分」にならないといけない。その意味では、会社を離れないと個人として話せませんでしたから、退職したのは意義があったと思います。

そもそも人類の歴史のなかで、組織が誕生して社会人になるという考えが出現したのは、ごく最近です。働き方が変わってきた現代社会を生きる中で「自分は何をしたいか」と考えるなら、もっと人間として自分の内側からの欲求に正直になってもいいと思います。私自身は「1人ひとりのポテンシャルを発揮するサポートをやりたい」という想いがあるので、いまミドル世代を対象に取り組んでいます。

ーー時代の転換点ともいえる今、唯一絶対の正解のない問いに、自らの頭で最適解を導きだす総合的かつ創造的な「思考力」は世界共通で求められています。グロービス経営大学院ではこれに加えて、何のために生き働くのかの軸となる「志」を醸成するのが特徴です。さて、問題を幅広く見る思考力と、社会課題に取り組むことを決定した植山さんは日本に帰国し、起業します。Vol.3へ続く。