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お金もお金以外も、どちらも大事。ピクサーから学ぶ、お金の話

PIXAR<ピクサー>に関する本を読みました。ピクサーの、お金に関する本。

あの、トイ・ストーリー、カーズ、インサイド・ヘッド、のピクサーです。私は特にモンスターズ・インクが大好きで、何度も観ています。

そのピクサーのお金の話が、すごく面白い。そしてとても学びになります。

まさに、お金に無頓着?な超優秀なクリエイティブたちが、お金のプロと結びついて、どのように組織の立て直し、その後の成長に至るのか、なぜ、お金が大事なのか、お金以外のことが大事なのか、いろいろ考えさせられます。お金の話が結構詳しく書いてあるのですが、何よりとても平易に書いてあり、読みやすい。本当にお勧めの一冊です。

(KindleのPrime readingで無料なはずです)

さて、この本、特に何が良かったのか。以下、3つにまとめました。

1.お金は大事だと、再確認させてくれること

まず第一に、お金が大事だ、ということです。アーティストなんて、お金は関係ない、という論もあります。アーティスト自身がお金のことを気にする必要はないのかもしれません。例えばゴッホは死ぬまでほとんど絵で稼げなかったというのはよく言われる話です。

ただ、彼も弟のテオに、金銭的なサポートをしてもらっていました。好きか嫌いかは別として、今の世の中生きるために、お金が必要な現実があります。

本書は、ピクサーが組織として資金繰りがかなり大変だった、という話から始まります(スティーブ・ジョブズが個人のお金で赤字を補填していたくらいです…)。ピクサーの長編映画の第一弾となる、トイ・ストーリーを公開する前の話です。そこに突如ヘッドハントされてやってきた、CFO(最高財務責任者)、ローレンス・レビー氏。この本は、同氏によって書かれた、ピクサーの立て直し、上場、その後の広がりに至るまでの話が書かれています。

当時から、ピクサー自体の技術はとても優れていて、クリエイター集団も超一流。トイ・ストーリーも素晴らしい作品になることは間違いないだろう、とわかってはいた。しかし、映画の製作費用が賄えない。ピクサーは、ぎりぎりの状態でした。

そこで、株式公開(IPO:株を公開して自由に売り買いできるようにすること)を選択し、市場から資金を調達する、という選択をします(長編のCGアニメーションのビジネスモデル的にIPOでしか資金調達ができなかった、ということなど詳細に書かれていますので、詳しくはぜひ読んでいただければと思います…!)。

やはりクリエイティブの世界でも、いいものを作るため、持続可能であるためには、お金のこと、ビジネスモデルを理解して考えていくことが重要だということを、教えてくれます。

実はこのIPOも、ピクサーはかなり無理のある(笑)進め方をしていましたが、この資金調達がなければ、トイ・ストーリーの公開には至らず、ピクサー自体がなくなっていた可能性が高いのです。

2.それぞれの専門性が尊重されるチームが大事だと、再確認させてくれること

そしてこのIPOを実現させた影の功労者が、まさに本書を執筆した、ローレンス・レビー氏。そして、スティーブ・ジョブズ氏の並外れた交渉力、プレゼン能力とコミュニケーション能力があったということがわかります。

彼らは財務や経営の専門家、責任者。ただ彼らだけがいて成功できたわけではありません。必ず出てくるのは、クリエイティブのトップ、エド・キャットムルとジョン・ラセターの存在です。

クリエイティブな判断は、すべて彼らの判断に賭ける、というシーンができています。それがすごい。組織的には財務的にリスクだったりもします。ただ、彼らを信じて任せる。お金のことを考えてしまうとそれができなかったりもしますが、その専門性を信じ任せる、という選択肢をとっているのです。

これには、CFOのローレンス・レビーが、ピクサーの技術・ストーリーに完全に惚れ込んでいるということがあると思います。何のためにピクサーがあるのか、なぜピクサーがあるのか、それはクリエイティブだ、ということを体験から理解しているということがあげられると思います(トイ・ストーリーの未完成作品を観て、その作品と、制作した彼らに惚れ込んでいます)。

ディズニーからの買収の話でも、クリエイティブのメンバーを役員にするということを約束させています。とにかくピクサーのコアが何かを理解し、それを尊重する文化があるのです。

スティーブ・ジョブズがうまくコミュニケーション取れないところを、ローレンス・レビーがつなぎ、全体として、各専門性をそれぞれが尊重するチームになっていることで、IPOの実現、その後の成長につながっているということがよくわかります。

3.お金だけでなく、文化が大事だということ。Cool Head, but Warm Heart(冷静な頭脳と温かい心)の大切さを教えてくれること

この本、お金の話、という題名がついているくらいなので、詳しくお金の話が書いてあるのですが(個人的に一番面白かったのは、IPOの準備の部分)、最終的に、お金も大事だけど、お金じゃないことが大事、ということを伝えてくれている本だと思います。

それから、お金のこと以外、特に組織の文化、ピクサーのコアの技術・クリエイティビティについてもかなり深く考えているCFOだからこそ、お金の話もうまくいったのだということがよくわかります。

経済学者のアルフレッド・マーシャルが言ったとされる”Cool Head but Warm Heart”という言葉がありますが、まさにその通りなのだと。冷静な頭脳をもって考え(お金のこと、データのこと)温かい心をもって決断していく(文化、組織の人々、その先の人々の気持ち)。

一人ですべてを担う必要はないけれど、チーム全体で、この両面をきちんととらえていたからこそ、ピクサーは、そのコアの美しさを保持したまま、大きく広がり、成長することができたのだと思います。そして何より、そのつなぎ役となる、ローレンス・レビーに出会えたことがピクサーにとって最も大きかったのだと思います。

お金は大事だけれど、お金以外のことを大事にしているからこそ、お金が大事なのだということ。

最後に、レビー氏は仏教の概念の一つである「中道」という言葉にたどり着いています。2つの相反することのどちらかを取るのではなく、両者の折り合いをつける「中道」という概念ですが、まさに彼は、「芸術的側面と事業的問題の折り合いをつけるためにいろいろなリスクを取った」ピクサーというのが、中道の例だということに気付くのです。

どちらかではなく、どちらも。だからこそ、より多くの人に愛される事業、作品が生まれたのだと言えるのだと思います。

(トップ画像はKindle版から)


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