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釜ヶ崎芸術大学に見る、有機的なつながり

釜ヶ崎芸術大学の取組に、10月17日「社会的インパクト評価/マネジメント概論 かまぷ~との語らい」という題で、3時間講師・ファシリテーターを務めさせていただきました(主催:NPO法人 こえとことばとこころの部屋cocoroom(通称:ココルーム))。

結論は、とても楽しかった、そしてとても勉強になりました。何が素晴らしかったかといえば、20名強いらっしゃった参加者のみなさまのエンゲージメント、参加度の高さです。オンライン参加者もオフライン参加者も入り混じる中(私はオンライン参加)、ファシリテーションに不安も抱えて臨んだのですが、結果的には主体的で、活発で生き生きとした場が出来上がっていました。

そんな素晴らしい場に、コミュニティの未来、理想像を見たのですが、本記事では講座のご紹介をしつつ、釜ヶ崎にあるココルームの魅力をお伝えしようと思います。(本文は3章からなりますが、1章は社会的インパクト・マネジメントワークショップをどのように実施したかの説明になりますので、釜ヶ崎芸術大学、ココルームについてご関心のある方は2章からお読みいただくのが良いと思います。)

釜ヶ崎芸術大学の講座における新訳(?)「社会的インパクト・マネジメント概論」

実施に当たって注力したのは、社会的インパクト評価・マネジメントといった言葉について初めて触れる方も多い中、どこまで要約し、わかりやすく話すのかということと、その後のワークショップの中でどれだけ結晶度の高い言葉を引き出せるのかということです。いかにわかりやすく、でも本質的なことを落とさずに実施できるかということ。

釜ヶ崎のおじさんたち、ココルームを担うみなさん、アートマネジメント等に関心のある方々など、多様な方々が参加される中、ココルームとは、というテーマに絞って、「みんなでココルームを語らう場」として場を設定することとしました。

Facebookのイベントページでは「誤読・社会的インパクト評価/マネジメント」ともあるくらいでしたので、ここでは新訳(?)社会的インパクト・マネジメント概論を話したということにして、かいつまんで紹介させていただきます。

①ミニワーク:ココルームにはどんな価値がある?

まずはミニワークで、ココルームには、どんな価値がある?ということを参加者のみなさんに言語化してもらいました。オンライン、オフラインで参加された皆様から得られた声をポストイットに書いて、整理していきました。

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初めてココルームの取組を知る人もいたので、冒頭に10分程度、代表の上田假奈代さんにココルームの取組についてお話いただきました。ココルームの軌跡、今の取組、どんな面白い動きがあって、哲学があるのか、参加者の皆様も私自身も興味深く聴くことができました。

そしてそこから、あるいは元々の経験からみなさんが引き出した、ココルームの価値。そこには「不安定になった時に安らげる場所」「自分の家のような場所」「受け入れてもらえるような安心感」というような言葉がありました。5分程度という短いワークの中で、みなさんの中からいくつかのイメージが引き出されたところで、次になぜ社会的価値を明らかにする必要があるのか?についての説明をしました。

②「活用する評価」とは何か?

社会的インパクト、という言葉を使っていますが、要は社会における価値を紐解いて見える化する意義は何か。その説明をさせていただきました。

多様な人が関わり、一見複雑な価値を持つ事業だからこそ、成果を明らかにする必要がある。それはそれぞれの関わる人々(あるいは環境)が事業に対してどう思っているのか、どういうニーズがあるのかを知ることにつながり、より良い事業を作っていく関係性づくりや事業の改善につながるからです。

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特に活用する評価、「社会的インパクト・マネジメント」と呼ばれる手法の中では、下図のような図式を用いて、各関係者にとってどのような成果が重要なのか、活動から成果までの流れを整理することが重要になります。そしてその図を用いながら、指標を測定し、結果を見ながら事業へ活用していくPDCAサイクルを回していくことが求められます。

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③ココルームの価値を丁寧に言語化する

冒頭のミニワーク、活用する評価の説明を行った後、1時間半ほどをかけて、参加のみなさんでココルームの価値を丁寧に言語化するプロセスをご一緒しました。上述のPDCAサイクルのPに当たる部分です。

1. 成功のイメージを描く、2. 成功のイメージに関わる関係者を洗い出す、3. 関係者毎、あるいは全体の価値を考える、4. どんな順番で、何が起きるのかを整理する、という4つの順番で進めました(4番目については時間切れでカットとなりました)。

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ココルームにとって、あるいはココルームに関わる自分やその他の誰かにとって、どんな状態が「成功」と言えるのか。まずはじっくり言語化するところをみなさんに体験していただきました。

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結果、たくさんの「成功」の言葉が浮き上がりました。最初のミニワークでの言語化も、ここでつながりました。例えば、以下のようなものが挙げられました。ここから浮かび上がるのは、特定の誰か、というよりも、多様な人にとって、あるいは寂しい人、ちょっとしんどい人にとっての居場所というような共通点が浮かびあがるように見えます。そして、それだけにも集約できない、というところもあるように思えます。

「これらを欲する人にもれなく、情報が行き渡る形」
「釜ヶ崎で暮らす人、若い人、旅をしに来た人、居場所をなくした人、色んな経験をした人が集まって、ただ話すことができる。ただ居ることができる。色んな経験が共有される。そんな場所。」
「ちょっとしんどい人に有効な場所。隠れしんどい人にも有効な場所。ちょっと立ち寄って、心がまぎれるような場所として機能する」
「こころのあそび場、人生のあそび場として受け継がれる場所」
「「いつ行っても大事な人に会える」と書いたんですが、「大事な人」というのは、自ら待ち望んでいたという意味ではなく、無意識のなかで、とか、なにか思いもよらない出会い。でもよくよく考えるとあの時出会ってよかったというようなもの」
「お金を持っていても持っていなくても、ココルームにくると「生き生き」と他者といる感覚を思い出せて、ココルームの外にもそんな世界が広がる感じ」
「さびしい人が、さびしくなくなる場所」
(一部抜粋・著者代筆)

④ココルームに関わる人々を思い浮かべる

成功のイメージを思い浮かべたうえで、特に自分の関心のあるイメージに近づくために、どんな人・もの・カネがあるとよいのか、どんな利害が想定されるのか。ある視点から見たときの良いも悪いも含めて、じっくりと洗い出していきます。

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ここでみなさんから挙げられた関係者は、以下の人々。面白いのはイケメンの美容師やウェディングプランナーなど、普段なら思いもつかないような人々が挙げられたことです。こうしたことを皆が面白がって、じゃあこんな人、という形で次々と積み重なっていく様子がとても面白かったです。

おっちゃんたち
行政、非営利セクター、企業、大学
劇場、美術館、映画制作側、現場を持つアーツマネジャー・アドミニストレーター
新しい旅行の在り方を発信できる人、旅行業界とつないでくれる人
お寺
ウエディングプランナー、結婚式業界
アクティビスト
IT業界の人たち
ココルームに来て、ココルームをとおして自ら事業化のアイディアが思いつける人
ココルームの日常を記述する人、ここで出来事を残していく、日常を発信する人
ソーシャルビジネス関連の人
変身願望をかなえてくれる人。イケメンの美容師
世の中に価値化されていないものを面白がれる人。それを面白いよって勇気を持って言える人(アーティストに限らず)
しんどい人、元気な人
西成に住む人
子ども、若者
カウンセラー、法律家といった専門家
企業に出資をお願いしに行く人(営業マン?)
(一部抜粋・著者代筆)

⑤関係者毎、あるいは全体の感じる価値を思い浮かべる

成功のイメージ、それに関わる様々な人たちを描いた後で、それぞれの人がどのような価値を感じているのか、改めて言語化していくきます。どんな人や組織が、短中期、長期的にどんな価値を感じるのか、感じてほしいのか、あるいはネガティブな影響を受ける可能性があるのか。

今回の場合には、特にこの人と思う人(または全体)をそれぞれの参加者に決めていただき、考えられる価値を3つずつ、挙げてもらいました。この中の一部を下に紹介します(筆者代筆。一部価値よりは、活動に近い言葉も含まれていますが、ワークショップから現れた言葉ですので、そのまま掲載しております)。

ここでも興味深いのが、「遊びたい」「面白い社会」「ふらっと立ち寄れる」「居場所」といった言葉が並ぶことです。そして「多様性が綺麗ごとではない」という言葉も生まれました。こうした言葉の数々からも、いかに多様な人が「自分の場所、面白い場所」と感じて集い、それぞれが異なることで生まれる新しい出会いを(心地よいかは別として)得ているか、ということがよくわかります。

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集まって価値を表現しようとすることの意味

本講座でのワークショップは、時間もギリギリで、一連の流れを言語化し、価値を複数の関係者を合わせて整理するというところまで到達できませんでしたが、20数名の方々と共に、それぞれの考える価値を表現することができたと思います。

多様な人で集まって価値を表現しようとすること、言語化しようとすることは、それぞれの価値観を尊重することだと考えています。もちろん利害があり、相反する意見が出ることもありますが、それも含め、その事業や組織(ここではココルーム)がどうありたいかを考える糧になります。そしてその事業や組織が、「社会的価値を向上しようとしている」「社会包摂が一つの目的である」ほどに、多様な人々の声を聞くことによって支えられる部分は大きくなります。なぜならその事業は元々、そのために存在しているからだと思います。

評価の手法では参加型評価、と呼ばれますが、やはりそのプロセスによって参加者の当事者意識が高まり、評価の活用性が高まるというところが肝だと言われています。逆に言えば、こうした評価のやり方を導入することで、より良い事業のあり方のヒントを得られるのだと思います。

釜ヶ崎芸術大学が表象するコミュニティ

こうしたワークのプロセスそのもの、そしてこのワークから紐解かれた価値の言語化をとおして、そこに有機的なつながり、コミュニティの美しさを感じることができました。コミュニティ(特に地域コミュニティ)とはそもそも、

地域住民が生活している場所、すなわち消費、生産,労働、教育、衛生・医療、遊び、スポーツ、芸能、祭りに関わり合いながら、住民相互の交流が行われている地域社会、あるいはそのような住民の集団を指す。(Wikipediaより引用)

ということで、地域住民の共同体、交流が行われている場所、という意味があるのだと思います。加えて私は、様々な植物が一つの森を形成するように、支え合うでも攻撃し合うでもない、ただ有機的につながっている様子を一つのコミュニティだと考えています。

釜ヶ崎芸術大学でも、多様性がありながら、すっとつながっている、という感覚を覚えました。みんなが「わたしの村」の人ではないけれど、外から来た人や一見全然はまらなそうな人だったとしても、あるがまま、そこにいて良いのだという心地よさがあるということ。もちろんワークの中にあった「綺麗ごとではない」ことがあっても。

あらゆる視点から見たココルームの良さ、存在意義を語り合う必要があり、語り合うからこそ表出するコミュニティ、つながりもあるのだと実感しました。私も今回がココルームとの接点が初めてでしたが、既に温かくゆるやかなつながりを感じています。ファシリテーションをするということは毎度チャレンジングですが、今回は私自身も場に包まれた形でした。

これからもココルームのことを、ワークでいただいた数々の言葉と共に心に抱きながら、美しく豊かなコミュニティ、つながりのあり方を考え実践し続けたいと思いました。

読んだ方が、自分らしく生きる勇気を得られるよう、文章を書き続けます。 サポートいただければ、とても嬉しいです。 いただきましたサポートは、執筆活動、子どもたちへの芸術文化の機会提供、文化・環境保全の支援等に使わせていただきます。