記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画「メタモルフォーゼの縁側」感想

 一言で、年の差58歳の雪とうららのBL漫画を介した心温まるちょっとイイ話です。好きなことに夢中になることと、一歩前に踏み出す勇気と行動力が大事だと思える普遍的な作品です。

評価「B+」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 年の差58歳、最初の青春、最後の青春。ボーイズラブ(BL)漫画を介した老女と女子高生の少し不思議で、でもどこか心に温まる友人関係を描いた、ちょっとイイ話です。

 原作は、鶴谷香央理氏による漫画作品です。2017年11月17日から2020年10月9日にかけて、KADOKAWAのウェブコミック配信サイト『コミックNewtype』で連載され、その面白さから満を持して映画化されました。

 監督は、『映画 妖怪人間ベム』や『青くて痛くて脆い』、『ど根性ガエル』などの狩山俊輔氏、脚本は『いま、会いにゆきます』や『ちゅらさん』や『ひよっこ』、『ど根性ガエル』などの岡田惠和氏です。

 ちなみに、劇中に登場するボーイズラブ漫画『君のことだけ見ていたい』の作画は、ボーイズラブ漫画作品を手がける漫画家の「じゃのめ」氏が担当しています。「できる限り原作に寄り添うこと」と、「オーソドックスでロマンチックなもの」を意識して描かれています。

 本作、映画館では見逃してしまったのですが、皆様の評価が良かったので、アマゾンプライムにて鑑賞しました。結果、観て良かったです。

・主なあらすじ

 75歳の老婦人の雪は、ふと訪れた書店で表紙の絵柄が気に入り、1冊のコミックを手に取ります。その内容は何と、「二人の男子高校生を主人公にしたボーイズラブ(BL)作品」でした。
 それを見たアルバイトの女子高生のうららは、彼女の様子に驚くものの、何気なくその漫画を紹介します。
 雪は、その漫画に「可愛い…」とインスピレーションを感じ、見事にBLにハマりました。雪とうららは、これがきっかけで漫画について語り合ったり、同人誌即売会に出かけたり、共通の「好きなもの」を通じて交流を深めていきますが…

・主な登場人物

・市野井 雪(演- 宮本信子)
 2年前に夫に先立たれ、一人暮らしをしている75歳の女性。自宅で書道教室を開いています。ある日、書店にてBLコミック『君のことだけ見ていたい』に嵌り…

・佐山 うらら(演- 芦田愛菜)
 書店でアルバイトをしている、17歳の女子高校生。両親は離婚しており、母親と二人暮らし。BL漫画が好きですが、内気な性格ゆえに学校では共通の趣味を持つ友人を作れずにいました。しかしわひょんなことから雪と「交流」が始まり…

・コメダ 優(演- 古川琴音)
 ボーイズラブ漫画『君のことだけ見ていたい』の作者で若手漫画家。二人にとっては「神様」のような存在です。

・河村紡(演- 高橋恭平(なにわ男子))
 うららのクラスメイトで幼馴染、同じアパートに住む男子高校生。クラスの美少女の英莉と付き合っていますが…

・橋本英莉(演- 汐谷友希)
 うららのクラスメイト。背が高くスレンダー美少女でクラスでは陽キャな人気者。紡と付き合っていますが…

1. 俳優さんの演技が良く、キャラが魅力的なので、結構ツボった。

 本作は、うららと雪のちょっとイイ話です。所謂、ワーワー泣くような感動大作ではないけれど、鑑賞後は心温まりました。

 本作の良さは、ヒロイン二人がとても魅力的なことですね。
 まず、雪役の宮本信子さんが可愛いかったです。物語序盤に、『君のことだけ見ていたい』に沼ってから、終始「恋する乙女の目」なのが特に良かったです。
 うらら役の芦田愛菜さんのコメディカルな演技も良かったです。彼女が等身大の高校生なのもナチュラルでした。
 この二人、一見すれば祖母と孫娘だけど、実はそうじゃないです。年の差があり、血の繋がりのない二人が徐々に仲良くなっていく様は、まるで『カールじいさんの空飛ぶ家』みたいでした。

 ちなみに、本作は「ボーイズラブ漫画」がテーマということで、もしかしたら「苦手」という印象を持った方や、「引いてしまった」方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本作に登場する漫画にはレーティング・年齢制限がつくような「激しい」描写はなく、また趣味自体も「過度にネタ扱い・イロモノ扱い」するような雰囲気はないので、その辺は安心して観られると思います。

2. 何気ない仕草にクスクス、わかる〜と突っ込みながら笑う。

 本作は、コメディー漫画なので、笑うところや突っ込みどころは多いです。しかし、そこも含めてなんか良いと思えました。
 雪やうららの何気ない仕草にクスクス、わかる〜(笑)と共感してましたね。(所謂、共感性羞恥のようなシーンもありますが、そこまで辛くはないですね。)
 劇中、ひょんなことから幼馴染の紡がうららの家に来るのですが、彼は何気なくうららの部屋のBL漫画を手に取ります。(普段は段ボールにしまって隠してたのですが、その日は運悪くベッドに置いたままだったのです。しかも、段ボールに隠していた漫画も見られてしまった…)

 後ほど、うららはそれに気づき、気恥ずかしい表情を見せるのですが、これ、わかります(笑)。でも、紡がそれで引いたり、学校でネタにしたりしないのは良かったです。ここは今時だなぁと思いました。

 また、劇中では、オープンオタクとクローズオタクの「違い」と、「好きなことを好きだと中々言い出せない」、思春期故の繊細な心の動きも描かれています。
 クラスでの会話から、スクールカーストでは上位の英莉が、実は「BL漫画愛読者」だったと判明します。友人達にそれを公言する彼女は、今時の「オープンオタク」でした。
 それに対して、うららはスクールカースト上位ではないし、内気な性格ゆえに、BL好きを中々周囲に言い出せない、所謂「クローズオタク」でした。
 でも、クラスメイトの会話から意外とBL好きが多かったことを知ります。だからといって、そこで自分も「好きだ」と言い出せないもどかしさ、わかります〜(苦笑)

 後は、うららが母親に見つからないように、コソコソ同人活動する所は、『私ときどきレッサーパンダ』のメイみたいでした(笑)ある意味、似たような作品が同年に公開されたのって、何かの縁を感じます。

3. 「好きこそものの上手なれ」の精神って大事。

 本作は、「好きこそものの上手なれ」の精神をストレートに伝えてくれる作品だと思います。
 学校の友人関係・受験・親との関係など、色んなことで「迷える子羊」だからこそ、好きなことに打ち込めるって楽しいし、大事だなと。通常、こんなことしてたら、「勉強しなさい~」なんて言われそうだけど、こういうモラトリアム期間も大事ですね。

4. 一歩前に踏み出す勇気と行動力が大事。

 作中後半、うららは雪が「引っ越す」ことを知ります。それまでは「コミティア出陣」を決めつつも、気持ちの上で「一進一退」だった彼女、しかし雪の計らいで印刷所を紹介してもらい、後には引けなくなります。やがて火がついて、彼女はコツコツと漫画を描きます。そして遂に初めて自分の作品を完成させたのです。ここは、「やりたいことはやれるときにやろう」の精神だと思います。人生はどうなるかわからないし、今ある人間関係も不変ではない、だからこそやりたいことや言いたいことは、それができるときにやることが大事ですね。

 また、本作は、うららが漫画家として大成功するわけではありません。しかし、雪との出会いで、確実に彼女の中で「何か」が変わったのです。正にこれはタイトルの「メタモルフォーゼ(変身)」でしたね。
 これは雪もそうです。お互いのほんのちょっとの勇気によって、二人は友達になったのですから。

5. うららの性格・行動には賛否ありそうだけど、そこを含めても彼女の魅力。

 本作、うららは結構喜怒哀楽がハッキリしているので、性格・行動には賛否ありそうです。しかし、そこを含めても彼女の魅力だと思います。

 うららがウジウジするのも、陽キャクラス女子を見て悔しいのもわかります。しかも、その子が幼馴染の男子と仲良くなっていくのを横目で見ていると、複雑な心境になるのもわかります。
 また、うららが雪をコミケに誘うも、最初は会場を見て気後れして、コミケに行くのを辞めたり(雪には「忙しい」と嘘をついて)、次に創作漫画の即売会「コミティア」にエントリーするも、急遽「一人参加」になってしまい、会場で喋れなくてお店を畳んでしまったり…観客は「2冊売れて結果オーライじゃん」って思うかもしれませんが、本人としては心がグチャグチャになったのも、わかります。 
 人によっては彼女にイライラするかもしれませんが、私はこういうことも「成長の糧」だと思っていたので、彼女に悪印象は抱きませんでした。

 ちなみに、うららが描いた漫画『遠くの未来』は正に「二人の出会い」でした。うららと雪、一体どちらが「地球人」でどちらが「宇宙人」なんだろう?作中では「明記」されていませんが、どっちでも成り立ちそうです。

 物語後半にて、実は英莉が海外留学することになり、紡と英莉は別れます。しかし、紡は出発当日までお見送りに行くかどうか迷ってしまいます。そのことをうららに相談する紡、何とその日はうららと雪が「神様」として崇める、「コメダ優先生の書店サイン会」当日だったのですが、うららはそれまでに間に合うならと、紡に「協力」します。

 やっぱりうららはお人好しですね。良くも悪くも断れない性格故に、一人で問題を「ややこしく」してしまいます。しかし、その人柄故に、人からは好印象というのもあります。

 このように、キャラクターをイライラ・モヤモヤさせず、絶妙なバランスに持っていくには、相当の技量とセンスが必要なんだなとわかります。こういう人間の感情の細かい描写が出来るのは、流石岡田惠和さんだと思いました。
 漫画の実写化って、その原作が持つ面白さをどう実写に活かせるかに掛かっていると思いますが、本作ではここはきちんと伝わっていると思います。

 ちなみに、英莉のお見送りは京急線のホームでした。行き先は羽田空港かな?彼女が搭乗するのは海外線だけど。(勿論、羽田空港からも海外線が出ているのは知っています。)

6. 雪はノルウェーに?

 物語のラスト、雪は娘さんのいる海外へ出発することに。恐らく、娘さんの「ノルウェーのお菓子」と、「パスポート」って伏線だったようです。結局、雪はノルウェーに旅立ったんですかね?ここは作中ではハッキリとは明示されていませんが。
 ちなみに、雪がパスポートの写真撮影で、「推し」と同じ服にするの、わかります(笑)こんなところも可愛いです。
 最後、うららが昼間に縁側にてスマホのテレビ電話で雪と話すとき、「向こうは夕方だね」みたいなことを言ってたので、日本から遠い場所であることは間違いないでしょう。

7. 鑑賞後にジワジワと良さがわかってくるタイプの作品である。

 本作で印象に残ったのは、「せめての精神」の話です。
 皆、今の自分に不満があるから、「自分を変えたい」とか「〇〇になりたい」と思うのはわかります。でも、人間いきなりは変われない。だからこそ「せめての精神」じゃないかな、「せめて〇〇しよう」とスモールステップを作ることで、少しずつ変われたら良いじゃんと、押し付けがましくなく、そっと寄り添うように伝えてくれています。
 結局、「遠くの大きなゴール」に到達しなくても、「近くの小さなゴール」に到達できればいいんですよね。
 それは、オタクとかBLとか年の差の友達のみならず、「普遍的なメッセージ」ではないかと思います。

 後は、うらら、コメダ優先生と会えて良かったね。雪さんが先に会ったとき、まだうららは外を走ってたから、ちゃんと会えるかドキドキしたよ(笑)

 よく考えると、結局二人では「イベント参加できなかった」ように思います。しかし、それだからこそ二人の絆が深まったのかもしれません。

 エンドロールに流れた主題歌のうららと雪の歌『これさえあれば』も緩い曲調で、作品にマッチしていました。

 漫画制作作品なら、漫画『バクマン。』、アニメ仕事映画なら『ハケンアニメ!』、アマチュアのアニメ制作系作品だと、『映像研には手を出すな!』がありますが、本作はあれらとはまた違った魅力を感じました。

 本作は、作風の地味さから爆発的に興行収入が伸びていくタイプの作品ではないけれど、鑑賞後にジワジワとくるタイプの作品ですね。だから、口コミ効果が良かったのもわかります。『さかなのこ』とかもそうですが、嵌る人には嵌りそうです。

出典:

・映画「メタモルフォーゼの縁側」公式サイト

https://metamor-movie.jp/

※ヘッダーはこちらから引用。


・「メタモルフォーゼの縁側」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%81%AE%E7%B8%81%E5%81%B4


この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,207件

#コミティア

1,841件

#映画感想文

67,412件