記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画「そばかす」感想

 一言で、アセクシャルの主人公蘇畑佳純が、世間一般的な恋愛観や結婚観に悩みつつ、将来を考えながら「自分の幸せ」を自身に問いかける作品です。彼女には共感しつつもモヤモヤしたり、でも鑑賞後にジワジワくる良作でした。

評価「B-」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 本作はメ~テレ制作の" (not) HEROINE movies"の第3弾作品として、2022年12月16日に公開されました。
 監督は、劇団「玉田企画」主宰の玉田真也氏、脚本は映画『his』のアサダアツシ氏、主演は映画『ドライブ・マイ・カー』で一躍有名になり、本作にて長編映画単独初主演となった三浦透子氏です。

・主なあらすじ

 蘇畑佳純30歳、彼女は幼少期から「他人に対して恋愛感情を抱かない(アセクシャル)」ことを自覚していました。そのため、「恋愛至上主義」が常態化した社会に違和感を覚えつつも、日々淡々と過ごしていました。
 そんな中、「お見合い」で一悶着あったり、保育士に転職したり、旧友と再会して親交を深めたり、家族とぶつかったり、いろんな出来事が起こります。
 それにより、佳純は所謂「世間一般の」恋愛や結婚に対し、自分の「答え」を探し、将来とも向き合っていくようになります。

・主な登場人物

・蘇畑佳純〈30〉演 - 三浦透子
 本作の主人公。コールセンター勤務。特技はチェロで、好きな映画は『宇宙戦争』。
 幼少期より「アセクシャル」を自覚しており、これまで他人に一度も恋愛感情を抱いたことがありません。ひょんなことから保育士に転職することになり…

・世永真帆〈30〉演 - 前田敦子
 佳純の中学時代の同級生。実は「元AV女優」で、引退後も町中で声をかけられるなど人気があります。父は議員ですが、親子で激しい確執があります。

・篠原睦美 演 - 伊藤万理華
 佳純の妹。産婦人科医と結婚しており、現在は妊娠中です。

・木暮翔 演 - 伊島空
 佳純が「親子婚活」で出会った男性。佳純と同じく、彼も当初は誰とも付き合う気がないと話していましたが、サッパリとした佳純に徐々に惹かれていきます。

・八代剛志 演 - 前原滉
 佳純の小学校時代の同級生。元小学校教諭で現在は保育士。実は「ゲイ」。

・天藤光 演 - 北村匠海(友情出演)
 佳純の保育園での同僚。人付き合いを好まず、自身の歓迎すらも断る「今時の若者」。実は佳純と同じく「アセクシャル」。

・蘇畑宮子 演 - 田島令子
 佳純と睦美の祖母。あけすけな性格で、実は「バツ3」。

・蘇畑菜摘 演 - 坂井真紀
 佳純と睦美の母。佳純には早く結婚してほしいと願っており、娘の許可なく「親子婚活」に申し込んでしまい、お節介で先走る性格が目立ちます。

・蘇畑純一 演 - 三宅弘城
 佳純と睦美の父。仕事は救急救命士ですが、今は鬱病を患い、休職中です。

1. 鑑賞後に色んな事を考えたくなるタイプの作品だった。

 本作は、テンポは良く、ユーモアが溢れる会話やシチュエーションを楽しむタイプの作品でした。「アセクシャル」というセンシティブで表現が難しいなテーマを扱いつつも、過度に「悲観的」にもならず、かと言って「特別視」もしない、飽くまでも一人の女性の淡々とした日常を切り取ったドキュメンタリーやエッセイ風の内容が心に残りました。レビューやSNSの評判が良いのも納得でした。

 それ故に、「結論」がハッキリと提示され、気持ちがスッキリする作品ではないけれど、鑑賞後にジワジワ来ましたね。場面ごとに色んな事を考えたくなるタイプの作品でした。果たして自分は「どっちなんだろう」とか、「なぜこのキャラはこんな行動を取ったのかな」とか、自分だったら「どう行動するかな」とか。だから、「どれだけ登場人物達の人生に思いを馳せられるか」が、こういった作品を楽しむコツなんだと思います。

 個人的には、序盤の「お節介お見合い」は『箱入り息子の恋』、アセクシャルの話は『恋せぬふたり』、百合っぽさは『トーベ』・『マイ・ブロークン・マリコ』・『作りたい女と食べたい女』などの要素を感じました。

2. 主題と副題について、自分なりに考察してみた。

 まず、本作の主題(タイトル)は『そばかす』ですが、何故このようなトリッキーな名称がついているのか、気になっていました。

 一つは、佳純のニックネームでしょう。彼女の名字は「蘇畑」なので、それを文字って「そばたちゃん」→「そばかす」に変化したのかもしれません。

 もう一つは、皮膚の「そばかす」の成り立ちからかなと思いました。「そばかす」は、簡単に言うと「皮膚の色素沈着」なんですが、これは「周囲の皮膚と色が違う」という意味と、佳純が「周囲(マジョリティー)と考えが違う故に目立つ」状況を掛け合わせているのかなと思いました。

 また、"(not) HEROINE movies"という副題には、「恋や愛や生きるとか自意識に縛られ、考えすぎてこんがらがりながらも、それでも生きる『ヒロイン』になりきれない『ヒロイン』たちの物語」という意味があるそうです。(パンフレットより。)
 本作の佳純も、色んなシュチエーションで、周囲との違和感を覚えていたり、「不器用」でどこか遠回りをしてしまうところがありました。「アセクシャル」のようなセクシャリティーの話は、センシティブなテーマ故に、重くなりがちな内容ではありますが、そうではなく繊細でありつつも、鑑賞後はどこか明るく爽やかな印象が残りました。

 本作を、所謂「ポリコレ映画」だと言う人もいるとは思います。確かに、本作では主人公の身近な所に「アセクシャル」と「ゲイ」がいるので、「こんなに複雑なセクシャリティーの関係があるのかよ、嘘くさい」と感じる方もいるのかもしれません。
 しかし、実は「人には言わない」だけで、皆「何かしら」あるのではないかなとも思います。それをカミングアウトするか、心に秘めてるかの話なだけで。だから、「嘘くさい」というのはいささか乱暴な意見だと思いました。

 そういえば、佳純が映画『宇宙戦争』が好きな理由について、「主演のトム・クルーズが一般市民なのに何かカッコいい。特に『走る姿が逃げてるみたい』だから」と説明するのですが、ここからは、「佳純がトム・クルーズに自身を重ねている」ことがわかります。 果たして、彼女が「逃げている」のは「家族」から?それとも、「世間一般論」や「マジョリティーの思想」から?一体「何から」なのか、色んな考えが浮かびます。
 ちなみに『宇宙戦争』、私はそこまで刺さらなかったのですが、また観たくなりました。

3. 佳純は「モテる」。でも、彼女が望むのは「そういうのじゃない」。

 個人的には、色々と佳純に共感する点はありました。「一人ラーメン」や「一人映画」は私もやるので。後は、服装はボーイッシュでスカートよりもパンツを好むところや、地味な服が多いところも。ただ、私は「ノンセクシャル」ではないし、佳純ほどはモテない点は違いますね。

 まず、最初の「お見合い相手」の木暮さんは、何と佳純行きつけのラーメン屋の息子でした。二人共「結婚には興味ない」と言いつつも、徐々に惹かれ合い、ラーメン「デート」を重ねます。バイクに2ケツする様子は、まるで「恋人」みたいでした。
 宿泊先にて、佳純の希望で部屋は「別々」に。しかしその夜、木暮は酔っぱらって思わず佳純に「告白」したのです。固まる佳純にそのままキスしようとした木暮さん、しかし佳純は咄嗟にそれを「拒否」してしまいました。
 残念ながら、佳純の行動をすぐに「理解」できない木暮さんは戸惑います。佳純は何とかしてフォローしようと、「男として好きになれなくてごめんね。」と謝りますが、木暮さんは怒ってしまい、「破局」してしまいました。ここは、「思いがけなく振ってしまって気まずい感じ」になったと思ったら、「逆に振られた」みたいな空気感になり、結果「ダブルパンチ」を食らってしまったのが辛かったです。

 次に、佳純が保育士へ転職するきっかけとなった、幼なじみの八代。実は彼は「ゲイ」であることをカミングアウトします。佳純には「俺達付き合わない?あ、ウソウソ(笑)でも、お前といるとホッとするんだよね。」などと話します。個人的には、佳純と八代が「くっつく」展開もアリかなぁなんて思っていたんですよね。この二人の空気感、結構良かったので。

 そして、後輩の天藤くん。他人にあまり興味がなく、プライベートは詮索されたくない、だから「自身の歓迎会」すらも断るのは「今時」なのかもしれません。
 しかし、そんな彼は何故か佳純に惹かれたのか、二人で「デート」に行きます。二人共「映画好き」なのですが、好きな作品が違うのか、映画館では「別々の映画」を観て、喫茶店では「読書」して沈黙の中で過ごすのでした。決してお互いの世界に「干渉」はせず、ある意味「平行線」な二人、でもそんな関係性も良いのかもしれません。

 後は、中学生時の同級生の真帆とも「イイ感じ」になりますね。

 それにしても佳純、男女どちらからもモテるなぁ。作中でめっちゃ誘われるじゃん。これは佳純の「人間的な魅力が高いから」かしら?それとも、「何か一緒にいて安心できるオーラ」が滲み出てるのかな?

4. 佳純と真帆の関係、見ていて良かったけど、ちょっとモヤモヤもする。

 佳純と真帆の関係は、本当に「親友」を超えて「カップル(百合)」みたいでした。※飽くまでも「プラトニック」な意味で。だから、二人の掛け合いは面白かったです。特にキャンプで話した中学時代の「ストパー」の話とか、「今の仕事」の話とか。

 まず、二人の見た目が対照的で、佳純のボーイッシュな雰囲気と真帆のガーリッシュな雰囲気がマッチしていました。基本パンツの佳純と、スカートの真帆のファッションが上手く対比されていました。

 また三浦さんは、小柄で中性的で素朴な見た目ですが、『ドライブ・マイ・カー』に続き、本作でも「喫煙者」役でした。実際に三浦さんが喫煙されているのかはわかりませんが、何か妙に「シックリ」くるのです。童顔なお顔立ちと、「それらしくない仕草」が「混在」しているのが不思議です。ちなみに三浦さん、主題歌まで手掛けるなんて多才です。

 そして前田さんはオードリー・ヘプバーンよろしく、ワンピースに女優サングラスで初登場したのには思わず噴き出しました(笑)。スラッとしたスタイルで小顔で華がある点は、流石「AKB48のセンター」でした。
 彼女の仕事、一般的には「イロモノ扱い」されてしまう部分がありますよね。しかし、佳純がそれを色眼鏡・偏見なく捉えていたのが良かったです。

 やがて真帆は佳純の保育園の仕事である、「デジタル紙芝居」制作を手伝います。何と題材は『シンデレラ』。芸術肌で、音楽だけでなく絵も得意な佳純ですが、登場人物のアフレコは真帆に頼みます。
 一方で、佳純は昔から「童話の結末」に違和感を覚えていました。「お姫様は王子様にプロポーズしてもらって幸せになるの?」と。
 そこで、二人は話し合い、「大胆にアレンジした佳純流『シンデレラ』」を作ることになりました。ちなみに、この辺は、Amazon prime Videoの『シンデレラ』を思い出します。あの「現代風」のシンデレラが。

 しかし、何と紙芝居本番には、先輩職員と議員(真帆の父親)が観覧することに。強いプレッシャーの中、最初は淡々と紙芝居を続ける佳純、しかし「シンデレラが王子様のプロポーズを受けない」展開が表示された途端に、園児の保護者・先輩・議員達は眉をひそめ、顔をしかめて、ザワザワ・ヒソヒソし始めます。佳純は、ジワジワとマズい雰囲気になったことを肌で感じ、冷や汗をかきながら、一方的に紙芝居を止めてしまいました。子供達はもっと聞きたそうにしてたのが余計に苦しかったです。それにしても、あれは「ぶっつけ本番」だったの?先輩は事前に「内容確認」しなかったのかしら?
 その後、真帆の父は「選挙前に変な物見せやがって」と激昂し、職員達は皆謝罪します。彼は、「あんな『変わった』価値観を幼い子供に植え付けるな!色んな価値観は『ちゃんとした価値観の元に』成り立つんだ!」と怒鳴っていましたが、「多様性」なんて言って、一つの考えを見下す、頭の堅すぎる態度には腹が立ちました。言わんとすることはわからんでもないけど。

 佳純から事の顛末を聞いた真帆は怒り、父の選挙演説に乗り込んで怒鳴ります。「アンタの価値観は古いんだよ!母へのモラハラも許さないからな!」と。ここは、元々くすぶっていた父に対する怒り以上に、親友を傷つけられた故の行動ではあります。
 しかし、ここでいきなり乗り込もうとするのは、如何にも「お話」だなぁ。いくら「元AV女優」でも、あんなに目立ってしまったら、写真に撮られて、週刊誌に売られたり、ネットで拡散されてしまうのでは?実際、周囲の人はスマホのカメラを向けていたし。
 尚、本作では、真帆がAV女優になった経緯や、父娘の確執の経緯はハッキリとは描かれていませんが、彼女にとっては「毒父」なんでしょう。「家からの反抗」でAVの仕事に就いたのでしょうか?

 こんなことを乗り越えて、絆が深まった二人、そこで二人は「同棲」することにします。不動産屋やカフェで妄想生活を語りますが、ある時から、何故か真帆が「音信不通」になってしまいました。
 数ヶ月後に、佳純は真帆に会いますが、何と真帆は「同棲を解消してほしい」と衝撃発言をするのでした。実は「元カレとよりを戻しており、結婚するんだ」と。真帆は必死で謝り倒します。佳純は一瞬ショックを受けますが、それでも怒りの言葉を口にすることはなく、それを了承したのです。
 ここについては、あんなに佳純と仲良くして、一緒に暮らそうとまでしていたのに、直前で断った真帆に「酷い」という意見はあるかもしれません。私もかなりモヤモヤしました。勿論、真帆の気持ちもわからなくないし、嫌いとまでは行かないけど。でも個人的には、ここでは佳純に一度は怒ってほしかったです。アパート内覧の時に、真帆の声で「佳純、ご飯できたよ~」と聞こえた幻聴が切なかったです。
 しかも、それでいて真帆、佳純に結婚式の友人代表スピーチをお願いするのね。そこで佳純はスピーチ代わりにチェロでヘンデルの『オンブラ・マイ・フ』を独奏し、涙を流しました。佳純としては、「真帆が幸せならOKです」な感じなのかしら?まぁ、二人はもう「親友を超えた間柄」なのかもしれませんが。ただ、ここの展開も、曲は良かっただけに、ちょっと引っかかってしまいました。

※ここは、映画『ホイットニー・ヒューストン』でのホイットニーとロビンの関係性を思い出しました。
 本作では真帆がホイットニーで佳純がロビンのポジションです。ホイットニーはロビンを親友兼恋人兼マネージャーとして見ているのですが、ホイットニーのバイセクシャルというセクシャリティーと、子供がほしいという希望から、男性と結婚します。その後、二人の仲に徐々にヒビが入っていくという展開に。

 ここって解釈が難しくて、ロビンや佳純のような立場の人は、「世間一般の価値観を取った人」を黙って受け入れてほしい、と受け取ってしまう人もいるかもしれません。
 何故なら後者は前者に比べて、世間一般の法律・「常識」に「沿っている」し、それに打ち克つのは中々難しいのが現状だからです。勿論、本作はそういうメッセージを提示している訳ではないのはわかりますが。

5. 家族だから「全て理解されなくてはならない」訳じゃない。

 蘇畑家は本当に「凸凹家族」です。皆個性が強すぎて、しかも同居してるからすぐぶつかります。

 序盤で母親の心配のせいで、佳純は無理矢理お見合いさせられるのですが、ここは親世代(還暦くらい)と子世代(アラサー)の価値観の違いがクッキリ現れていました。母としては、「30過ぎの未婚女性なんて恥」と考え、何としても佳純を結婚させようと躍起になります。一方で、そのドタバタを知った睦美は、「無理して結婚しなくても良いんじゃない?」と伝えます。
 姉妹の会話は結構挟まれるのですが、妹としては先に結婚した故の「悩み」があるようで、それを姉にこぼします。「私だって『そっち側』にいたかったなぁ、でも世間が許さない感じがして。」、「相手を好きになれないって?その気持ち、わからないんじゃなくて気づかないフリしてるだけでしょ。」とか。
 妹は年下ですが、恋愛に対しては「先輩」なのか、姉に対しては「理解者」になっていくのかな〜なんて思っていました。しかし、それは違ったようでした。

 後半、家族のすき焼き、TVのニュースにて、「芸能人の不倫」が報道され、家族でヤイヤイ言い合います。
 佳純は、「『不倫が許せない』かぁ、その人にとって好きな人が出来たなら、それは幸せなんじゃない?」と呟いた途端、睦美が夫に「アンタの不倫には気づいてた」とブチ切れました。
 しかも、睦美は佳純にまで怒りを向け、「お姉ちゃんは不倫されたことないからそんなこと言えるんだ!というか、お姉ちゃんって実はレズビアンなんでしょ!真帆さんと住もうとしたときに気づいてたよ!」と家族一同の前で「暴露」します。
 しかし、佳純は「私は、恋愛も結婚にも興味が持てない、そういう感情が湧かないの。自分には誰かを自分のものにしたくないの!でも、それは不幸とかおかしいとかじゃない!」はっきりと啖呵を切りました。
 ここの姉妹の言い争いはキツかったです。仲が良くて理解し合える関係性だと思っていたがゆえに。あの後「和解」できたのでしょうか?これ以降、睦美の出番は無かったので。まぁ、姉妹だからといって、全てを「理解」できる訳では無いし、そうである必要もないのかもしれませんが。

 しかし、ここで父が泣いたことでそれは一旦収まります。鬱病の父が初めて感情を顕にした瞬間でした。その後の父と娘の会話は好きです。佳純がチェロの話や親の恋愛話を素の表情で聞いていたから。ちなみに、佳純曰く、「チェロは人の声に一番近い楽器」らしいです。劇伴、時々チェロの和音が鳴るのも良かったです。実はチェロは親子で受け継がれたものでした。しかし、真帆の結婚式を最後に佳純はチェロを卒業すると話します。それでも、娘の決断を尊重した父の姿は良かったです。

 一方で、佳純自身、家族からの圧力が嫌なら、一人暮らししたら良いのにと思っていました。しかし、もしかすると、佳純は家を簡単には出られなかったのかなとも思います。よく考えたら父が休職中で、祖母と母は働いているのかも不明でした。だから佳純が家計を支えていたのかもしれません。
 それでも、最後に祖母・両親・佳純の4人で朝食を取ったとき、父の「決断」からの、膝立てからの、皆が笑いました。ここで家族が「和解」したのかしら?

6. 佳純だけでなく、皆が「自分の幸せの形とは何なのか」を自分に問いかけている。

 本作では、佳純だけでなく、皆が「自分の幸せの形とは何なのか」を考えているように思いました。
 本作は、佳純が何か「大成功」を収める訳ではありません。しかし、転職やデジタル紙芝居作り、真帆との「同棲」計画、家族の前で思いをぶつけたことなど、悩みながらもスモールステップを踏み出し、自分の道を探す姿には共感する人も多いのではないかと思います。
 また、仕事中に子供達を見つめる佳純は、一体何を考えていたのでしょう。彼女はセクシャリティ故に、「自分の子供を持つ」ことはないかもしれないけれど、保育園の園児を通して、子供達に社会的に何か出来るかもしれないです。
 そして、保育園でのそうたくんとさくらちゃんの「恋愛」は何度も挿入されます。ここは、一見すれば微笑ましいけれど、子供達の世界は幼くても結構ドロドロしてますよね。

 一方で、「佳純が救われてない」という意見はあるかもしれません。しかし、本作は「佳純が誰かとくっつくこと」がゴールではありません。だから、彼女が「誰かに救ってもらった」というよりは、「自分で進むべき道を探せた」という方が相応しいかもしれないです。そもそも「救う」という表現だと、佳純が誰かよりも「下にいる」ような謎の上下関係に見えてしまうので。

 後は、天藤くんは佳純に、「俺も蘇畑さんと『同じ』かもしれません。でも、そういう人がどこかで生きているだけでも救われるんです。」とその胸中を明かします。
 実は、あの佳純流『シンデレラ』の結末を知ってるのは彼だけです。ここは視聴者には明かさず、敢えて想像させるのが良いのでしょう。
 この紙芝居作りは佳純の中では「小さな一歩」だったかもしれない、でもそれが誰かを救うこともあるのかもしれません。

 佳純は、よく一人になりたいときに海辺に来てボーッとすることを好んでいました。それは、「彼女が彼女でいられる時間」だったのかもしれません。世間の常識を疑ったり、時には立ち止まったり、逃げたり。
 しかし、そんな彼女が最後に晴れやかな顔で駆けて行ったシーン、これは彼女が「答え」に辿り着いたのかもしれません。

 本作は、色々と突っ込み所はあり、またモヤモヤする点はありましたが、鑑賞後は何か「良かった」と思えた作品でした。上映館はもうほぼないかもしれませんが、観た方は何かコメント欄で感想を残してくださると嬉しいです。

出典: 

・映画「そばかす」公式サイト

https://notheroinemovies.com/sobakasu/

※ヘッダーは公式サイトより引用。


・映画「そばかす」公式パンフレット

・映画「そばかす」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%B0%E3%81%8B%E3%81%99_(2022%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB)#:~:text=%E3%80%8E%E3%81%9D%E3%81%B0%E3%81%8B%E3%81%99%E3%80%8F%E3%81%AF%20(not),%E4%B8%BB%E6%BC%94%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E4%B8%89%E6%B5%A6%E9%80%8F%E5%AD%90%E3%80%82


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文