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つんどく12冊を紹介する

#うちの積読を紹介する 」というハッシュタグを見つけて、なんだそれ手軽で素敵だ!と感動した。積ん読の紹介なら「読書感想文」までの分量は要求されず、読むきっかけになった理由や心惹かれた理由を書いて、数ページ読んだ感触を書くだけってことよね。なんともお手頃だ。

そういえば、昔見たポインティの「読んでない本を紹介する動画」がびっくりするほど面白かったな。読んでいないのに、いや、むしろ読んでいないからこそ、これから本を手に取る人と同じ目線で紹介できるのか……?!と感動したっけ。

「積ん読」について

積ん読と聞くと、むかし友達にプレゼントした『翻訳できない世界のことば』という本を思い出す。この本の中で「積ん読」という日本語が紹介されていた。意味は「買ってきた本をほかのまだ読んでいない本といっしょに読まずに積んでおくこと」。あ、この現象に『積ん読』って名前をつけたのは日本の文化だけなんだ、と、そこからなんとなく「積ん読」という言葉に対して特別感というか、ワクワクした感情みたいなものを持つようになった。

新明解に「積ん読」の意味を聞いてみたら「書物を買って積んでおくばかりで読まないこと。」と書いてある(新明解 第八版)。

ちょっとイメージと違うな、と感じる。私は「積ん読」と聞くと、なんとなく「枕元に積んである本」をイメージする。寝る前なんかに少しずつ読んでいて、いろんな本に興味が移って数週間ほったらかしにされることもあるけど、認識としては一応「現在進行形で読み進めている本」。ここが公式の見解と少しズレる。

うーん「枕元に積んである本」のほうが自分的に素敵だと思うので、今回は自分の定義に従って積ん読を紹介していきたいと思います!ちなみに、読み進めている量が多い順に並べたので、下に行くにつれて文章量が減っていきますが、熱量の差ではありません。

1.『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆

タイトル買いをしちゃうくらい、タイトルが良すぎる

いま7割くらい読み進めています。これについては自分なりに考えたことがたくさんあるので改めて感想戦をやるとして、(タイトルの本筋からは逸れるものの)読んでいて一番ドキィッとしてしまったところを引用します。

読書は常に、階級の差異を確認し、そして優越を示すための道具になりやすい
重兼のいう「学問への欲求」を、大学で満たせなかった人、あるいは大学を出ても満たせなかった人は、どうしたらいいのかーーその答えをエリート層は探そうとしない。
自己表現や自己啓発への欲望を、エリート層が蔑視する。そのような構造は、本書で見てきたように、明治期の夏目漱石が描いた『門』から、80年代のカルチャーセンターへのまなざし、そして現代のオンラインサロンへの言説に至るまで、繰り返されている。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆p160

うー、きつい。心当たりがある。というか、心当たりがあるからこそ気を付けていて、それでも時々自分の心の動きに「おいおいおい」って思うことがある。

読んでいる本を聞いて、嬉しくなったり仲良くなりたいと思ったり、逆にがっかりしてその人の底が見えた気持ちになることってあるよなって思う。ここまでは自然な心の動きかなぁと思う。やっぱり自分の「好き・面白い」が独自の哲学で編まれていて、イキイキと「好きだ」と言っている人は素敵です。

でも、このラインを超えて「本」だとか「教養」に優劣を付けて、本を「優越を示すための道具」にする、それは嫌なやつよなぁ……。自分がされても「なんやお前偉そうなばかりで、分かってないな」って不快になるもんね。これは、気を付けすぎるくらい気を付けたい。

2.『くらしのアナキズム』松村圭一郎

わたくし専門は法律でして、さいきん基本に立ち返り「法の本質は何か」ということをずっと考えています。まずは学問的な「正解」を探すのではなく、長いこと法律に触れている者としての感覚を試したい。

それで、一人でモヤモヤ考えたり、仲の良い同期に「法の本質ってなんだと思う?」という抽象極まりない質問を浴びせるなどしています。この質問は、その人ごとに違う答えが出てきて面白い。(一緒に考えてくれるのが本当にありがたい。)

私はなんとなく、今の社会では、法律は「権力の代替物である」ってところに重点がある気がして、その話を同期にしたら「じゃあ逆に、法のない社会ってどうなるんだろうね?」と聞いてきて、それで国家権力のない社会……アナキズムにヒントがある?と、アナキズムを調べ始めたわけです。

さいきん大杉栄にハマっていることもありアナキズムには非常に興味がありましたが、思想として詳しいことはよく知らず。まずは表紙がやさしそうな本を選びました。

表紙がかわいいし「くらしの」というのが非常に良い。

著者は岡山大で教えている先生で、授業でこんなことを問いかけるそう。「明日の朝、目が覚めて、日本という国がなくなっていたら、どうする?」と。「もしそうなったら、大学に来る?バイトには行く?電車は動いているかな?」

うーーん、難しい。じっくり考えてみた。結局私は「日常生活はほとんど変わんない(変えない)かも」と思った。仕事も多分、同じように続けるな。

映画だと、国家権力が作用しなくなった社会は、殺人だとか強盗だとかが横行して、無秩序な無法地帯と化す。でも本当にそうなるんだろうか?人間って、そんなに残酷にプログラムされているんだろうか

著者はこう言う。

いま国家を考える意味は、みんながとらわれている常識的な前提を根底から考えなおすことにある。このどこか壊れかけている世界が、なぜこうなってしまったのか。いまここで立ち止まって考えなければいけない時代をぼくらは生きている。

『くらしのアナキズム』松村圭一郎p24

よりよいルールに変えるには、ときにその既存のルールを破らないといけない。サボったり、怒りをぶつけたり、逸脱することも重要な手段になる。

『くらしのアナキズム』松村圭一郎p226

だれかが決めた規則や理念に無批判に従うことと、大きな仕組みや制度に自分たちの生活をゆだねて他人まかせにしてしまうことはつながっている。アナキズムは、そこで立ち止まって考えることを求める。

『くらしのアナキズム』松村圭一郎p227

びっくりした。「常識的な前提を根底から考えなおすこと」というのは、まさに今私が「法の本質」を考えている一番の動機で、ここで繋がった…!と。

本の中に、こんなアナキズムの定義が紹介されている。

権力による強制なしに人間がたがいに助け合って生きてゆくことを理想とする思想」(『身ぶりとしての抵抗』鶴見)

おもしろすぎる。アナキズムの本質は、民主主義よりも、もっと民主主義的なのかもしれない。

先日「読みたい本を気ままに読む読書会」というものにオンラインで初めて参加して、そこでこの本を読んでいたら、そこにいた方たちが似たような「ゆるアナキズム」の本を何冊か紹介してくれた。すごすぎる、嬉しすぎる。そちらも読みます。

3.『ずっと、おしまいの地』こだま

「夫のちんぽが入らない」で有名なこだまさん!!

こちらは(noteで拝見してずっと行ってみたかった)いりえ書房さんでのイベントに参加した際に、他の参加者の方がおすすめしていて、気になって購入したエッセイ集。読みはじめて「あ、文章とか言葉の感じ好きだな」と思って油断していたら、「きょうが誕生日だってずっと言えなかった」が衝撃的すぎました。

十九歳から十年ほど私には誕生日がなかった。大学時代からの恋人で、のちに夫となる人に「きょう私の誕生日なんだ」と言い出せなかったのである。そのたった一言を飲み込んでしまったがために、いらぬ感情を長期にわたって抱き続けることになるなんて思わなかった。ずっと言わない私、ずっと知ろうとしない夫。どちらもどうかしていた。

『ずっと、おしまいの地』こだまp19

……?!

こだまさんの文章は「そんな、感情の、そんな部分を」とたじろいでしまうくらい、すごくストレートに書かれていて、でもピリッとしたユーモアがあって、すごい。この本の続きも楽しみだし、代表作の「おとちん」もまだ読んでいないので、これからたくさん読みたい。

この会、すごくたのしかったなぁ。好きなもので人と繋がるって、こんなに満たされるんだなぁと驚きました。

4.『黙って喋って』ヒコロヒー

ヒコロヒーさんのエッセイ集『きれはし』が面白すぎて、次は恋愛短編小説集を読みはじめました。

え、ヒコロヒーさんが恋愛小説?!とびびった

すごくきれいなお話集です。言葉が多すぎたり足りなかったりして(タイトルうますぎ)もどかしさを感じちゃう作品が多いのだけど、私は「奇跡みたいなすれ違いだな」って思った。お互いに秘めた感情を積み重ねて、その上で線と線が微妙に交わらない。そんな日常的で決定的な場面が描かれています。

あと、ヒコロヒーさんは何かの文章で「ちょうどの温度で、美味しい、うまい、と言える事は才能だ。」って言っていて、これには深く共感したのですが、これを読んでて「ヒコロヒーさん、登場人物の名前を付ける温度がちょうどいいな」と感じました。名前でつっかからない。ちょうどよく「おいしい」って言える才能くらいすごいと思いました。

ちなみに私は本の帯をしおり代わりに使うタイプの人間です。

5.『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈

話題のこちらもゲットしました

noteでフォローしている方が絶妙な感想を書いていらっしゃったので、つい手に取ってしまいました。いま半分くらい読み進めていて「膳所から来ました」という話が好き。なんでそこって感じかもしれないけど、本番中に島﨑が地の分で語る「毎日練習してきたものが、この一回で終わってしまう。」ってセリフが妙に記憶に残っている。

羞恥に耐えられないようなシーンの描写もサラッと書かれていて、体調が悪いときでも読めそう。ちょっとだけ、昔ハマった『謎解きはディナーのあとで』っぽいかも?と思いながら読んだ、いや、そんなにぽくないかも。

6.『クジラは潮を吹いていた』佐藤卓

絶版になっているそうで、メルカリでゲット

奇跡のようにはじまった(←私目線)読書会の三回目のテーマ本。この本を選んでくれた方の好きプレゼンを聞いて、早く読みたい〜〜と思っていました。第一印象は写真が多くて文章もきれいで「洗練されてる」って感じ。著者がデザインした商品を一つずつ取り上げて、デザインの話をしているのだけれど、途中からその深さに驚き「これってめちゃくちゃ普遍的な話では…?」と。たとえば「モノはゴミになっても、人の頭の中にはその記憶が残る」「生活が便利になって、気づかないうちに消えていくものが多くある」など。

印象に残っているところを一つ引用します。著者は「多くの人が具体的なデザインに参加して出来上がったもので成功したためしはない」と言う。

多くの人が関わり多くの意見を汲み入れることは、デザインでもっとも大切なことであるが、「デザインの決定においては民主主義はあり得ない」

『クジラは潮を吹いていた』佐藤卓「失敗した仕事」p26

いやー、面白い。この本めっちゃ好きです、話したいこと・聞きたいことがたくさんある。。。

7.『君は君の人生の主役になれ』鳥羽和久

こういう「アンチ学校論」だいすき

「こいつが好きと言った本はだいたい私も好きだ」って思っている後輩がnoteで鳥羽和久さんをフォローしていたので、気になって最新作のこちらを図書館で借りたら面白すぎて、3分の1くらい読んだところで購入しました。これは、秩序が重んじられるあまり「実」を失ってしまった社会に対するモヤモヤが非常に解像度高く表現されている神作なので、改めて感想戦やります(予定)。

8.『国境の南、太陽の西』村上春樹

これ、勝手にエッセイ集かと思っていた。

村上春樹で読んでない作品を「埋めようプロジェクト」を始めました。

9.『沈黙』遠藤周作

遠藤周作は、高校生のときに『海と毒薬』を読んだ以来

お母さんの本棚で発見。「これ借りていくね」と言ったら「結構しんどいシーン多いよ、読めるかな〜〜?」と返されたので、ドギマギしながら最初のところを読んで、ほんとにしんどいシーン多そうでびびっていますが、今のところ面白そうが勝っています。

10.『水死』大江健三郎

なんとも重厚感のある表紙!

先日行ったブックカフェで手に取りました。その日は友達と行ったので最初の数ページしか読まず、後から「やっぱ続き読みたい」と、Amazonで買いました。これは、ちゃんと時間を取って読まないと読めなさそうな本なので、今度こいつとサシでカフェ行きます。

11.『法律を読む技術・学ぶ技術』吉田利宏

この本わかりやすい

ここからは図書館で借りている本。

2冊目の『くらしのアナキズム』で書いたとおり、最近「法の本質は何か」ということをずっと考えていて、初心に戻ろうと法律入門系の本を近所の図書館で読み漁りました。一通り見て、面白くて読む気になった2冊。

12.『自分で考えるちょっと違った 法学入門』道垣内正人

法律学は「説得」の学問。「正解」はないのです。

こちらは「法的な考え方」というか「法律ってこんなふうにして解決策を模索するよね」ってのを日常的に起こりそうなトラブルを題材に考えていく本。一つ目のテーマは「ケーキの分け方」で、二人の兄弟が一つのケーキを取り合っているという「紛争」をどのように解決するか。文体は結構かためで「読みやすい分かりやすい」って感じではないものの、日常的な「紛争」を真剣に理路整然と考えていくさまが面白い。

法律用語とか法的な考え方をふんだんに使っていて「共通の教養を使ったユーモア」的な側面があり、法律をやっている人間からするとたまんないです。

おわりに

書いていて「誰か」を媒介にして読んでいる本が多いことに驚きました。これについては思うところがたくさんあったので、別で出力します!!

積ん読紹介、めちゃ楽しいし、読みべ(読むモチベのこと。今考えた)が上がるので、またやります。少し読んだだけでも話したいことってたくさんあるものだなぁ。

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