オペラの記録:バイエルン州立オペラ、『ミュンヘン・オペラ祭』、ショスタコーヴィチ《鼻》(7月20日)


7月20日、ミュンヘンのバイエルン州立オペラでショスタコーヴィチ作曲《鼻》を観ました。場所はナツィオナールテアター。

原作はゴーゴリの同名小説です。
ショスタコーヴィチはわずか21歳の時に作曲しています。
ショスタコーヴィチはその6年後、《ムツェンスク郡のマクベス夫人》を作曲しています。これはスターリンの逆鱗に触れ、長い間上演禁止されました。
《鼻》は《ムツェンスク郡のマクベス夫人》ほどではないものの、十分先鋭的です。同オペラ音楽総監督ユロフスキは「《鼻》は今すぐ爆発しない『時限爆弾』」としています。

ちなみに「20世紀最高のオペラ作品を3つ挙げて」と言われると、悩むところですが、私は

ベルク《ヴォツェック》
ショスタコーヴィチ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》
ツィンマーマン《兵士たち》

を挙げます。

音楽はまるで『パンク・ロック』です。


プログラム。

キャスティング表を見ると、主役の(鼻を無くした)コヴァリョフ役の歌手がウラディミール・サムソノフとなっています。
実はコヴァリョフ役は予定されていたボリス・ピンカソヴィチが前日、「急病で歌えない」というのでサンクト・ペテルスブルクから急遽飛び込みました。
これが彼の同オペラのデビューだそうです。

飛び込むと言っても、簡単ではありません。

《鼻》の主役をロシア語ですぐに歌える歌手、しかも同オペラのように世界第一級レベルの劇場で歌える歌手はほとんどいない、と言えます。
通常なら公演中止でしょうが、サムソノフがロシアのサンクト・ペテルスブルクにいるということがわかりました。
しかし、現在、ドイツとの直航便は運行していません。サムソノフは車でヘルシンキに行き、そこから飛行機でミュンヘンに飛び、公演当日午後に演出の打ち合わせをして、公演に臨みました。

これが上演前にアナウンスされ、観客は大拍手で迎えました。

この日はそれだけでおさまりませんでした。

休憩後、再度アナウンスがあり、足を挫いたイワン役の歌手が動けない、というので、歌手はステージ袖で歌い、演技は演出助手兼当日のステージ監督が衣裳をつけて急遽飛び込むというアクシデントがありました。

カーテンコールではこちらも大喝采。

生の公演では色々なことが起きます。

さて、演出はセレブレンニコフ。
こちらについては、2年前の私のブログをご覧ください。

セレブレンニコフはロシアを脱出して現在ベルリン在住。
脱出についてもドラマのような出来事があったそうです。

セレブレンニコフは今後、ベルリン・コーミッシェ・オーパーで『ダ・ポンテ三部作』の演出を手がける予定です。
ちなみに『ダ・ポンテ三部作』とは、モーツァルトが作曲したオペラのうち、ダ・ポンテが台本を書いた《フィガロの結婚》、《ドン・ジョヴァンニ》、《コジ・ファン・トゥッテ》のことを指します。

さて、これは上演が始まる前のステージ。
字幕の場所には「上演中もマスクをつけることをお勧めします」とあります。
現在、公共交通機関の中でのマスク着用は義務付けられていますが、それ以外は自由です。

ロージェにはバラライカ奏者がいます。

床屋や居間ではなく、場所は監獄。
囚人たちはそこで次々に鼻を切り取られています。
鼻は顔の中心にあり、つまりアイデンティティー。
官権によってアイデンティティーを切り取られた人間は服従するしかありません。

これは休憩後の第8シーンが始まる前です。
最初のシーンが再び現れました。

カーテンコール。

同オペラ音楽総監督ユロフスキの指揮でした。

FOTO:©️Kishi

以下はプログラム中のポスターです。


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