森喜朗の発言と《魔笛》

森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の辞任についてはドイツでも全国ニュースで報道されました。
もっとも、問題発言の直後は一部のメディアが報道しただけでした。
辞任の理由として「女性はおしゃべりで会議が長引く」と発言したこと、と報道していました。

これを見た隣人が、「え~!会議では男の方がどうでもいいことを喋り、長引かせるわよ。私たち女性は仕事以外に子供の学校や幼稚園の送り迎え、家事などやることがたくさんあるので、なるべく短時間で要領よく会議をしたいのに、引っ張るのは男!」と憤慨していました。

ちなみに彼女は大学教授、パートナーは弁護士で、夫婦別姓、8歳と6歳の子供がいます。
この家では、彼も子供の面倒をよく見るし、家事もやっていると思います。

しかし、ドイツでも女性の負担が大きいのです。そこに、コロナ禍でホーム・オフィスが推奨され、学校や幼稚園・保育園が閉鎖になり、この問題はより顕著になっています。

また、以前から、管理職に女性が少ないことや同一労働における女性の賃金が低いことが大きな問題になっています。コロナ禍で女性の『地位』が30年後戻りした、という専門家の指摘もあります。

コロナはこれまでの問題をあぶり出した、と言えるでしょう。

さて、私は森発言を知った時、すぐにモーツァルトのオペラ《魔笛》を思いました。

《魔笛》は200年以上、オペラ界のトップランナーであることは以下の記事に書いています。それだけよく知られた作品です。
https://note.com/chihomikishi/n/n412ac04b14b4

《魔笛》が提起している問題は多岐にわたりますが、ここでは森発言に関連した部分について触れたいと思います。

《魔笛》を観たことがある方は誰でもわかると思いますが、第1幕フィナーレのタミーノと僧侶(話者)の対話部分です。

夜の女王に「ザラストロに誘拐された娘パミーナを救出して」と言われたタミーノはザラストロがいると思われる神殿の入口にたどりつきます。

そこに僧侶が現れ、タミーノに「下がれ!」と命じます。
そして2人の対話が始まります。

「なぜここにいるのか?」と問われたタミーノは「・・・冷酷非情なザラストロのせいで、一人の女性(夜の女王)が不幸になった」というタミーノに対し、僧侶は「・・・女はやることをやらず、しゃべりすぎる・・・」

と言います。
《魔笛》上演の際は、ここでほとんどいつも困ったような笑いが起きます。

これ以前、第1幕第14場ではオペラ作品史上、もっとも有名で美しいデュエットのひとつ(パミーナとパパゲーノ)があり、2人は「男と女、女と男、この絆より貴いものはない」と歌います。

ところが、この後、場面が変わり、3人の男の子が現れ、タミーノに

「目標に向かって男らしく勝ち抜け!重要なのは不屈、忍耐、沈黙!
男らしくあれ!そうすれば勝てる!」

と教えを垂れます(スポーツ競技を連想しませんか?)。


それに続き、上述の僧侶の言葉です。そして、この僧侶のロジック展開は巧妙で、未熟な若者はすぐに迷わされてしまいます。

この後、パパゲーノと共に逃亡したパミーナはザラストロにつかまってしまいます。ここで公開裁判が始まりますが、母と娘の絆を訴えるパミーナに対し、ザラストロは「女には男の導きが必要。男がいなければ女はわきまえず道を踏み外すからだ」と断じます。

まだあります。

第2幕のはじめは、ザラストロが重要会議を招集する場面で始まります。
演説するザラストロに参加者の僧侶が質問をしますが、ザラストロはこれを三和音を使って封じ込めます(音楽の悪用です)。
疑問は許されず、全員がザラストロに従うことを強制されます。

この後にも『女の姦計に気をつけろ』(第2幕第3場)と続きます。


《魔笛》は今から230年前の1791年に作曲、世界初演されました。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?