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コンサート:ラトル指揮バイエルン放送響、BRSO 26.09.24 (Herkulessaal, München)

9月26日、ミュンヘン・ヘァクレスザールでサイモン・ラトル指揮バイエルン放送響(BRSO)のコンサートを聴きました。
上記写真でもわかるように、コンサート開始前、異様な雰囲気に包まれました。
オーケストラと合唱のメンバーの一部が『黄色いベスト』を着てステージに現れ、この日のプログラムJ.S.バッハ作曲《マタイ受難曲》の終曲(第68番)「私たちは涙して跪く・・・」を演奏し始めたからです。

プログラム。

左ページはパドヴァのスクロヴェーニ大聖堂にあるフレスコ画《キリストの逮捕ーユダの接吻》。
ジオットの作品です(1305年頃)。
私はジオットの作品が大好きで、1980年代にパドヴァまで見に行きました。


バイエルン放送響は公共放送バイエルン放送協会に所属するオーケストラです。
ここのところ、公共放送の賃金交渉が行われていましたが、7回の交渉を経ても決着せず、労働組合がストライキを呼びかけました。

この夜、オーケストラの組合幹部がステージに出てきて説明を始めました。
「オーケストラももちろんストライキに同調したいのですが、《マタイ受難曲》はコロナのロックダウン時に聴衆なしで演奏したので、今夜は聴衆のみなさんのために演奏する」ということでした。

15分にわたる説明の中で、「放送局系列全体で10,5%の賃上げ要求をしているが、これまでの回答は4%強である」、また「ここから数百メートルしか離れていないバイエルン州立管の給料はわれわれよりも12%高い」とのことでした。

以前はバイエルン放送響の方がバイエルン州立管よりも巧い、という評判でしたが、これほど待遇に差がついてしまうと、巧い演奏家は待遇が良い方に行ってしまいます。

バイエルン州立管の優秀さについては、先日発表された『オーパンヴェルト』年鑑の「先シーズンの成果」で、バイエルン州立管が10年連続で〈最優秀オペラ・オーケストラ〉に選ばれたことに触れておきましょう。
(ただ、この年鑑の発表全体については毎年『音楽の友』誌でとりあげるので、このブログではとりあげません。)

ところで、今年4月15日、バイエルン放送響が開催する記者懇談会がありました。
毎年、次のシーズンのプログラムの発表、現状等を報告するのですが、ジャーナリストからはかなり厳しい質問も飛ぶので、結構緊張した雰囲気に包まれます。
特にこの日は、その4日後に行われた同オーケストラ設立75周年記念ガラ・コンサート、シェーンベルクの大作《グレの歌》のリハーサルの初日が記者会見に続いていたので、関係者はかなり時間を気にしていました。→

記者発表・懇談会のようす。

先シーズンのコンサートのうち、ラトルはモーツァルト《イドメネオ》の演奏会式上演が特に気に入ったようで、そのことを熱心に話しました。

この後、あるジャーナリストから意見が出ました。
「どこも経済的に苦しい状態が続いている。バイエルン放送合唱団にはすばらしい歌手がいるのに、ギャラと知名度が実力と釣り合わないソリストを登用するのには疑問を感じる」というのです。
これが具体的に誰を指しているかは自明です。雰囲気は凍りついたのですが、バイエルン放送合唱団のマネージャーがすかさずマイクを取って、「私たち合唱団に対するお褒めの言葉に心から感謝します」と言ったのです。すごい。

また、長らく問題になっている新ホールの建設についても質問が出ました。
オーケストラ側は「私たちも情報はもらっている・・・」というものでした。

ところで、ミュンヘン市のオーケストラであるミュンヘン・フィルも現在本拠地のガスタイクが改修中のため、代替の仮設ホール、イザールフィルハルモニーでコンサートを行っています。
先日、このガスタイクの改修が終わるのは早くとも2035年、費用は750百万ユーロ(約1200億円)にのぼる、という情報が出ました。
果たして、2035年に終わるのか、この費用でまかなえるのか、かなり疑問です。

ベルリンでも文化予算削減が言われ、劇場やオーケストラから公開書状が出されました。

さて、この夜のコンサートです。
開始前にこのようなことがあると、通常と違い、すぐには音楽に集中することができません。

しかしやはり《マタイ受難曲》は素晴らしい。
落涙を禁じ得ない、という言葉が陳腐に思えます。

1829年、20歳になったばかりのメンデルスゾーンがバッハの死後初めて演奏、これは音楽史上に燦然と輝く大きな業績です。


FOTO:(c)Kishi

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