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身近なのに、意外と知らない。公園ボランティアの世界


いつもきれいだったN.Yの公園

長女はN.Yで出産し、2歳半のときに日本に帰ってきた。帰国して、アメリカと日本の子育ての違いに驚くことがあった。その一つが公園だ。

娘を連れて公園に行ってみると、雑草が伸び放題だった。

N.Yでは極寒の真冬以外は、毎日のように公園に通っていた。公園の清掃、草刈りは、それ専門の人が雇われているので、いつもピカピカ。芝生もいい感じに整っている。

そんな環境だったので、植栽が手入れされておらず、遊具も古びてペンキがはげたりしている日本の公園が寂しく感じられた。

公園で遊んでいる子どもの数だって、N.Yの方が多かった。これは平日は、保育園や幼稚園に行っている子どもが多いことが関係しているのだと思う。N.Yではナニーさんが子どもたちを公園に連れてきていた。

コンビニより多い日本の公園

ところで、N.Yといっても、私が住んでいたのはマンハッタンの外。校外だったので、公園に行くのも車だ。日本の公園の良さは、数の多さ。都市部の住宅街なら、歩いて行ける距離に1つや2つは公園があるのではないか。

逆に数が多いから、人を雇ってなんとかする、というのも難しいのだろう。

日本の公園を守っているのは、公園ボランティアさん

公園の環境の良さはアメリカの方が上かと思っていたら、そうとも言い切れないらしい。公園を自分の庭のように愛し、そこでコミュニティをつくって楽しんでいる公園ボランティアさんたちがいるという。

その活動のことは、友人の椛田里佳さんを通じて知った。彼女は、子どもたちとよく遊んでいた公園で、掃除や草取りをやるボランティア団体”公園愛護会”を立ち上げた。(その経緯は彼女自身がnoteにまとめている。)

さらに、全国の公園ボランティアを応援、サポートする一般社団法人「みんなの公園愛護会」まで立ち上げてしまった。

活動の始まりは、前人未到のアンケート

これまで、公園ボランティア団体は全国各地にあるものの、各自で孤軍奮闘してきて、横のつながりは限られていた。でも、掃除や草取りはどこの公園でもやることだし、お互いにノウハウを共有し合えば、もっとみんな楽に、楽しく活動できるかもしれない。そこを「みんなの公園愛護会」では担おうとしている。

2020年に設立し、初年度は、自治体と公園ボランティア団体にアンケートを取り、実態調査を行うことからスタート。その後、アンケートを元に、精力的に活動している団体に取材を行い、その様子をレポートしている。

と、さらっと書いたが、たまに聞く限り、かなり地道な活動だった。どこにどんな団体があるのかもわからない状態から、市役所に電話をかけてアンケートのお願いをするのが最初。

公園ボランティア団体の連絡先を教えてもらい、紙のアンケートを送り、紙で返ってきたアンケートを入力する。公園ボランティアさんにはシニアの方が多いので、紙の方が確実なのだ。

でも、そんな泥臭い活動が実を結び、今では取材レポートもかなり充実してきている。公園ボランティアさんだけでなく、活動をサポートしてくれる行政のインタビューも増えてきた。

そうして、コツコツと続けてきた活動がこの度、出版されることになった。

公園の規模や担い手も多様な取材レポート。みんなの公園愛護会HPより。

これまでの活動の集大成!

本には、これまで取材してきた公園ボランティアさんたちの事例がぎっしり。ボランティアというと「奉仕」というイメージが強い。だけど、みなさんが思いっきり活動を楽しんでいるのが伝わってくる。そうじゃないとここまでできないよ、と思うことも多々。

公園ボランティアさんたちの記事だけでなく、行政の取り組みについても、複数取り上げられている。

仕組みがあれば、誰でも参加できる

とりわけ印象的だったのは、江戸川区の公園に誰でも使える掃除道具を設置した事例。名付けて「誰でもお掃除セット」。写真を見ると、手作りの木の棚にほうきやちり取りが掛けられている。

公園にゴミが落ちていても、素手で拾うのも嫌だし、拾った後の処理に困って、見て見ぬふりをすることがある。そしてそれは私だけじゃなくて、周囲の大人もそう。だけど、こういう仕組みがあれば、ゴミをさっと片づけられる人、たくさんいるんじゃないかな。

「毎月1回、そうじに来て」と言われるとハードル高いけど、これならいろんな人が、普段利用している公園に恩返しすることもできるしね。

本には、自分に合った公園ボランティアの始め方も紹介されている。本を読むと、「自分もこんな公園の近くに住みたい」と思うのだけど、そう思うなら、自分ができることを近所でやれるといい。

N.Yのように、公園の美化を誰かの仕事として任せてしまうやり方もあるけれど、住んでいる人が公園を育てていく日本のやり方も、あり。そう思わせてくれる本だ。

どの街にもある公園。だからこその豊かさ。

何よりも、「ほしいものは自分でつくる」ことを生活の中で体験できるのがいい。なんでもサービスで享受してしまうのではなくて、生活のどこか一部でも自給自足しているものがあるのは、とても豊かなことだと思う。

そして、同じ地域の人と共に活動することもポイントだ。世代も背景もいろいろ。きっと普段の仕事とは違う世界がそこにはあるはずだ。

「場づくり」や「コミュニティ」に興味を持つ人は多い。でも、公園で何かを始めたという話は意外と聞かない。場づくりのチャンスは、実は身近な公園にあるんじゃないかな、と思う。この本をきっかけに、もっともっと日本に素敵な公園が増えますように。




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