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本と共有のひととき

誰かと本を読んでいる時間が好き。
同じ空間で一緒に本をひらくあのひととき、
突然に強烈な幸福感が襲ってくる。

東京に向かう高速バスの車内で、
消灯までの一時間半あまり母と並んで本を読んでいた。私の中に幸福が染み渡った。
バスの最後尾の席だから時々車体が
ガクンと揺れて、本から目を離すその一瞬に母の横顔を盗み見る。
そんなに真剣そうな顔もしていなくて、
お気に入りの小説の最新刊を隣で読んでいて、
ただそれだけだ。

電車の中で、さっき一緒に書店で買った本を2人で開く。久しぶりに予定が合って、
目標のカフェの予約がいっぱいだったから
計画変更で入った少し大きめの書店で見つけた本。
電車の中で読む本は誰かと読むとパワーが増して、それが帰路ならなおさらパワーアップする。
一緒に本が読める人は、
それ以外の考え方や感じ方までも似ている気がする。なんとなく感覚レベルでの存在が心地良い。

時間を共有する手段がスマホだとこんな風に感じないから不思議だなと思う。一緒に本を読むのでも、一緒にスマホを見るのでも、同じ空間にいながら全く違うことを考えていることに違いはないのに、面白い。

もしかしたら、
スマホは自分から出かけていかないと、必要な情報を得られないから少し能動的で、
本はページをめくるだけで勝手に物語でも人生論でも自分の中にやってくるから、少し受動的なのかもしれない。
だから本の方が少し受動的な分、隣にいる誰かの気配を少し意識する余力が残っている、のかもしれない。

誰かと本を読むのが心地良い人は、きっと
そのかすかな意識の一角に
きらめきを見いだしているんだろうな。

自分の隣にいる人の思考が、
その人が読んでいる本の内容とほんの少しの自分の気配だけで支配される時、私は心からの幸福に満たされる。



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